Sugar & Cacao〜甘さの比率〜

そら汰★

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第3章 砂糖を湯煎で溶かしたら55%

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 黒いセダンの愛車を走らせながら尾鷹はハンドルを右手で握る傍ら、アームレストコンソールに乗せた左手で、苛立たしげに指を叩いていた。
 信号のない高速道路を睨むように真っ直ぐ見つめ、眉間に皺を寄せる。

 気が立っているのは、今朝の郁哉とのやり取りからではない。
 確かに昨夜の甘い時間を、ボケ老人のように忘れていることに少なからず殺意を覚えた。けれどそれとは全く別のことでイライラしている。
 マンションを出る直前、郁哉に呼び止められたが優しく接する余裕は皆無だった。

(早く帰れればいいけど……)

 アクセルをぐっと踏み込むと、速度を上げ世田谷方面へと車を走らせた。

 マンションから実家のある世田谷までは車で約三十分。
 高速を使えばさほど遠くはない。それでも敢えて近寄ろうとしないのは、実家に対していい印象が一つもないからだ。
 郁哉が洗面所へ向かってすぐにスマホが着信し、嫌な予感はしていたが電話に出てから後悔しても遅かった。
 和泉からの用件は簡素なものだ。ただひと言『御父上がお呼びです』と……。

(またくだらない内容だろ)

 高く長い塀が続く見知った敷地の中に車を滑らせると、尾鷹は車中でチッと舌打ちを鳴らす。
 会いたくもない人物に出くわしたからだ。

「おや、これは珍しい。また悪さでもして呼び出しか?」
「お久しぶりです。忠司ただし義兄さん。大学生の身ですし、流石に悪さをする歳でもないですよ」
「ふんっ、朝っぱらから学生は呑気なものだな」
「ええ、義兄さんほど多忙ではないので。父に呼ばれていますので失礼します」

 背を向けると貼り付けた笑顔を無表情に戻し、駐車場から母屋に向かう。背後から「相変わらず顔だけの男だ」と罵り声が聞こえるが、相手にするだけ時間の無駄だ。
 忠司とは十も離れた腹違いの義兄弟だ。母親似の尾鷹とは、性格も容姿も全てにおいて似ても似つかない義兄だ。
 万人受けするできのいい義弟に、忠司はジェラシーを感じるのか、顔を合わせるたびに難癖をつけ絡んでくる。そんな哀れな義兄に尾鷹は毎回辟易としていた。

 母屋に入るとスーツ姿の和泉に会釈され屋敷を案内される。実家だというのに父親の元へと案内とは些か奇妙だが、それは今に始まったことではない。
 和泉が障子を横に滑らせ中に足を踏み入れると、着物姿の父が殿様のように座り趣味の陶磁器を愛でていた。

「おお那津、やっと来たか。まぁ座れ」
「ご無沙汰しています」
「なにを他人行儀に。最近はどうだ?」
「慎ましく生活しているつもりです」

 間もなく六十にもなる父は白髪も少く若々しい。未だに精力盛んな父に尾鷹は幼少期から悩まされている。
 陶磁器から尾鷹に力強い視線が向けられる。

「そうか。聞いた話によると、ずいぶん入れ込んだ遊びをしてるそうじゃないか」
「滅相もないです。何事も真剣に取り組んでいるつもりです」

 遊び……と含んだもの言いに、強張りそうになる顔を背筋を正し無表情で応え心の内に蓋をする。
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