Sugar & Cacao〜甘さの比率〜

そら汰★

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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%

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 友人だからと同室にして貰えば良かったが、穂奈美の存在が想定外だった。滞在中これでは郁哉と会話することさえ憚られる。
 未だに初心な仕草を見せる郁哉は、恋愛経験があまりないのだろう。それは穂奈美の存在が影響しているのかもしれない。
 尾鷹にとっては嬉しいことだが、強敵なのは間違いなさそうだ。

「しかし、穂奈美さんに嫌われたものですね。私としては見たことのない光景で愉快ですが」

 クツクツと笑う七瀬をジロリと睨むと、そっと溜息を吐く。
 昔から整った顔のせいで尾鷹は引く手あまただった。特に女性からは悪い印象を持たれたことはないに等しい。
 腹の内を見透かすような穂奈美の観察眼には、恐れ入ったというところだ。

「同属嫌悪だろ」
「ハハハ……いい刺激になったじゃないですか。臆病風も吹き飛ぶってもんです」
「何が風邪だ。オク病なんて聞いたこともない。ヤブ医者が」

 信じた郁哉も郁哉だが、鈍感なのは好都合だった。つい先日尾鷹のマンションに訪れた七瀬に、郁哉を待つ間中、散々説教をされたのだ。
 郁哉と出会ってから何度もセックスをした。一度始めると欲望が止まらない。麻薬のように甘い香りを漂わせる肌に溺れ、意識がなくなるまで抱き潰すことが日常になっていた。

 そんな状況を知った七瀬は、呆れた様子で尾鷹を責めた。『身体だけ繋げて心が伴っていないなど猿以下だ。昔肌を重ねてきた相手達のように、セフレの扱いですか!? もう私も勝手にしますよ! 濃度はこちらで決めますから!』と……。
 郁哉のことを大層気に入り擁護する七瀬に言われずとも、心得ているつもりだ。

 セックスに誘う度に郁哉は嫌とも言わず尾鷹に身体を預け、素直に脚を開く。真面目な性格だ。好意を抱かない相手には見せない行動。
 少なからず尾鷹には好意を抱いているはずだ。けれどなぜか郁哉は心の内を吐露することはない。それは郁哉だけでなく尾鷹自身もだ。
 愛しい、離したくないという気持ちは溢れてくる一方だ。膨れ上がる胸の内を口にしようとする度歯止めが掛かり、郁哉からの告白をただ待っている。

 受け身な態度に狡い男だと尾鷹は思う。けれど一歩踏み出せないのは、自身の暗い過去と向き合えていないからなのかもしれない。
 愛すること、愛されることを恐れている。声に出してしまったら、あとはもう崩れていくだけのような気がしてならない。

(郁哉はどういう気持ちで抱かれている? セフレ……いや、友達以上ぐらいには昇格したか? あぁクソッ、今すぐ抱き締めたい……)

 今日は飲まないと決めていた尾鷹だが、矛盾した自身の気持ちと七瀬に煽られ結局口を付ける。酒の肴がチョコレートとは、七瀬の無言の抗議と牽制だろうか。
 地酒のそれはとろりとし甘口でありながら後味はすっきりとしている。流石は富士の雪解けした湧き水を使っているだけある。自然豊かで水も食材も新鮮だ。
 その清らかさは郁哉自身を表しているようで、黒く濁った自分も清められていくような錯覚に一瞬でも浸ることができた。

「そんなヤブ医者からの情報です。衝撃的な悪い話と気になる悪い話、どちらからお聞きになります?」
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