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第7章 砂に落ちた砂糖は赤黒く塗れる0.1%
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しおりを挟む冬休みが終わり二月になると、最後の寒波だと北風が吹き荒れている。今年の冬は例年にも増して気温が低いと今朝のニュースでも話題になっていた。
寒い季節は身体だけではなく、どこか心も温まるのが遅いような気がする。それは最近、尾鷹の帰りが遅いからなのかもしれない。
相変わらず尾鷹は謎めいている。
どこへ出掛けるでもなく、ただひと言『今日も遅くなる』そう告げるだけだ。
冬休み中は常に尾鷹と過ごすことができ幸せだったなと、ニヤける頬が締まりをなくす。
「郁哉、気持ち悪いぞ」
「落ち込んだりニヤニヤしたり忙しいな~」
「そうだよ。俺は忙しいんだ」
「なにがそんなに忙しいんだか。尾鷹がなんでもしてくれるんだろ? 合宿とか言ってた割に、結局居座り続けてるしよ」
「けど最近、尾鷹見掛けないよな? あいつ大学来てんの?」
それすら郁哉は知らぬところだ。
学部も異なれば受ける講義も違う。高校生のように仲良く通学ということにはならない。
帰りが遅い尾鷹とは最近会話すらまともにしていない。
顔を見るのは朝だけで、疲れた様子に声を掛けたくても時間と勇気が郁哉には不足していた。
「……そういえば、前もあんな顔していたな」
「いやいや、前の郁哉はもっとこう表情なかったつーか」
「そうそう、甘いもん食ってるときしか表情筋緩まなかったよなぁ~」
竹田と砂川はまるでチグハグなことを言いだすが、郁哉もまた友人達の声を聞いていなかった。
合宿を始めて間もなくの頃、尾鷹はずいぶん疲れた様子だった。今の尾鷹はあのときとどこか似ている。
他人の面倒を見ながらソファーで眠っているからだと、当時の郁哉は思っていた。
「なぁ、那津と仲のいい奴とか知らない?」
「お前が知らなくて俺らが知ってるかつーの!」
「俺知ってる~」
「誰?!」
ニヤリと笑う砂川は「お前だよ~」と、ふざけながら竹田とからかってくる。
聞いた自分が悪かった。膨れる郁哉を見て楽しんでいるのだ。「もういいよ!」と言い残し郁哉は大学をあとにした。
買い物を軽く済ませマンションに戻ると、部屋の灯りに心が跳ねる。靴も揃えずパタパタと廊下を進むと、尾鷹がソファーで横になっていた。
足音を立ててしまったことを悔やむが、珍しく熟睡しているようだ。寝顔を見ると蒼白い顔色にシュンと眉を寄せてしまう。
(具合、悪いのかな?)
仄かに香る消毒液の匂い。
七瀬のラボに行っていたのだろうか。
座り込んで寝顔を眺めていると、尾鷹の長いまつ毛が震えた。
「……郁哉……帰っていたんだ」
「うん、さっき。風邪引いちゃうよ? てか引いてる? 那津、最近具合良くなさそうだよ?」
「風邪は引いていないよ。……少し調子は悪いかな。けど郁哉がキスしてくれたら良くなるかも」
「そんな冗談やめろよ。てかさ、もしかして最近ここで寝てる?」
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