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第8章 想いに×砂糖は清らかであれ5%
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「──はっ? どういうことだよ!?」
フロアに戻ると輝が電話をしていた。
口調が男になっている。それを見ていた客は常連ではないらしく、驚愕の表情で輝を凝視していた。
「お会計しますか?」
「あ、ああ頼むよ。ママさんも男だとは……」
「ええ、女装イベントですから」
「それもそうか。背も高い訳だ。また来るよ」
適当なことを言いつつ、最後の客を店先まで見送り店内に戻る。
「ちょっ、おいっ! 待ちやがれ! あーっ、クソ! あの野郎……切りやがった!」
すっかり地が出ている。
握っていたスマホを今にも床に叩きつけそうな輝に、客が帰ったことを伝えると、溜息を盛大に吐き出し上着を手にしていた。
「またトラブル?」
「まぁ、そんなところ。悪いけど店頼む」
血相を変えながら輝は「すぐに戻るから」と言い、慌てて店を出ていってしまった。
初めての手伝いでひとりにするのはどうかと思うが、しっかり扉のプレートはCLOSEにしてくれていた。
閉店状態で客も居なければ問題はない。
店の外の灯りを消すと、テーブルや椅子を消毒液で拭き取りグラスを洗い上げる。
ひと通り掃除を済ませると、カウンターのスツールに腰掛けぐったりと伏せていた。
通常眠っている時間帯だ。眠りが浅いにしても、それなりに規則正しく生活をしていた。
休憩が逆に効いたのか疲労がマックス状態だ。
瞼が重い。身体が鉛を背負っているようだ。
目が閉じそうになると、扉の軋む音に目を開いた。
「お帰り。用事は済んだ? こっちはあとゴミ捨てぐらいだけど、場所分かんなく……て?」
気怠げに言い振り返ると、ビクッと身体が跳ね上がる。
驚くのも無理はない。
輝だとばかり思っていたが全くの別人だったからだ。
モッズコートのフードを目深に被った男が、店の扉に佇んでいた。
「あの、もう閉店したんですが……」
プレートを見ずに入店したのかもしれない。それとも馴染みの客だろうか……。
声を掛けるが、男はなにも言わずに人形のように佇むだけだ。
なにかがおかしい。
そう思ったのは男の格好だった。間もなく三月になろうとしている。夜になると寒さの残る気候だが、それでも真冬に着る分厚いコートでは暑すぎる。
「あの、聞こえませんでした? 今日はもう閉めたんですが……それとも、忘れものですか?」
客であってはと抑えていた声を、棘を含ませ訝しげに再度伺うと、男はゆっくりと前へと足を進めてきた。
胸元から銀色に光るものを取り出す男に、身体が硬直し背中に嫌な汗をかく。
郁哉は男が手にするものを確認すると、強張った身体を叱咤し後退していった。
トンッ……と、カウンターが背に着く。
視線を少し離した隙に、男の手元が郁哉の喉元に鋭利なナイフを突き付けていた──。
フロアに戻ると輝が電話をしていた。
口調が男になっている。それを見ていた客は常連ではないらしく、驚愕の表情で輝を凝視していた。
「お会計しますか?」
「あ、ああ頼むよ。ママさんも男だとは……」
「ええ、女装イベントですから」
「それもそうか。背も高い訳だ。また来るよ」
適当なことを言いつつ、最後の客を店先まで見送り店内に戻る。
「ちょっ、おいっ! 待ちやがれ! あーっ、クソ! あの野郎……切りやがった!」
すっかり地が出ている。
握っていたスマホを今にも床に叩きつけそうな輝に、客が帰ったことを伝えると、溜息を盛大に吐き出し上着を手にしていた。
「またトラブル?」
「まぁ、そんなところ。悪いけど店頼む」
血相を変えながら輝は「すぐに戻るから」と言い、慌てて店を出ていってしまった。
初めての手伝いでひとりにするのはどうかと思うが、しっかり扉のプレートはCLOSEにしてくれていた。
閉店状態で客も居なければ問題はない。
店の外の灯りを消すと、テーブルや椅子を消毒液で拭き取りグラスを洗い上げる。
ひと通り掃除を済ませると、カウンターのスツールに腰掛けぐったりと伏せていた。
通常眠っている時間帯だ。眠りが浅いにしても、それなりに規則正しく生活をしていた。
休憩が逆に効いたのか疲労がマックス状態だ。
瞼が重い。身体が鉛を背負っているようだ。
目が閉じそうになると、扉の軋む音に目を開いた。
「お帰り。用事は済んだ? こっちはあとゴミ捨てぐらいだけど、場所分かんなく……て?」
気怠げに言い振り返ると、ビクッと身体が跳ね上がる。
驚くのも無理はない。
輝だとばかり思っていたが全くの別人だったからだ。
モッズコートのフードを目深に被った男が、店の扉に佇んでいた。
「あの、もう閉店したんですが……」
プレートを見ずに入店したのかもしれない。それとも馴染みの客だろうか……。
声を掛けるが、男はなにも言わずに人形のように佇むだけだ。
なにかがおかしい。
そう思ったのは男の格好だった。間もなく三月になろうとしている。夜になると寒さの残る気候だが、それでも真冬に着る分厚いコートでは暑すぎる。
「あの、聞こえませんでした? 今日はもう閉めたんですが……それとも、忘れものですか?」
客であってはと抑えていた声を、棘を含ませ訝しげに再度伺うと、男はゆっくりと前へと足を進めてきた。
胸元から銀色に光るものを取り出す男に、身体が硬直し背中に嫌な汗をかく。
郁哉は男が手にするものを確認すると、強張った身体を叱咤し後退していった。
トンッ……と、カウンターが背に着く。
視線を少し離した隙に、男の手元が郁哉の喉元に鋭利なナイフを突き付けていた──。
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