148 / 161
第9章 キラキラ砂糖は奇跡の輝き90%
02
しおりを挟む
大きな大人。知らない大人。
靴も脱がずに突然部屋に現れた男達は、悲鳴を上げる母親を取り囲んでいた。那津は母親を守るため、伸ばされるいくつもの手に噛み付き抵抗した。
「なにを手こずっている」
ほかの大人達とは違う空気を纏った男がひとり現れると、那津に視線を向けニヤリと笑った。
「ほぉ、これは驚いた。逃げ出したのは、このちびのせいか」
「……母さんは僕が守る!」
「それは面白い。ずいぶん威勢がいいな。それに、いい目をしている」
睨み付ける那津の双眸に劣らず男の眼光は鋭かった。
怯みそうになる気持ちを母を守りたい一心で対抗した。けれど小さな那津など大人に敵うはずもない。
猫を弄ぶように、首根っこを取られ母親と共に連れていかれた。
そこは大きな純和風のお屋敷だった。
母親はかぐや姫になったのかもしれない。
ホッとするのも束の間、その日から母親の悲鳴のような叫び声を聞くことになった。
聞こえてくるのは獣のような呻き声。苦しそうでいてどこか切なげな声。甘い香りは、那津が閉じ込められていた部屋にまで途切れることなく漂っていた。
那津が部屋から出されたのは数日経った頃だった。
母親の姿に目を潤ませながら飛び付いた。
「母さんっ!」
「那津……ごめんね……ひとりにさせて……寂しい思いをさせて……」
「僕、平気……これからは一緒にいられる?」
少しやつれた母親は涙を流しながら微笑み頷いた。
「冬音さん、そろそろ」
「ええ……。那津、静かにしているのよ」
コクリと頷き母親に抱えられながら、那津は男に視線を向けた。母親を気遣う男に自分と近しいものを感じる。
(この人がきっと母さんの本当の王子様……)
お屋敷を出てから竜治という男と、母親の三人での生活が始まった。
どこかは分からなかったが、自然が多い町だった。小さな一軒家は三人で暮らすには十分な広さで、なに不自由なく過ごせるお城になった。
竜治は那津を本当の息子のように可愛がってくれた。自分を父親と思ってくれと言ってくれた。
初めて得た父親という存在。父がいて母がいる。
二つ揃うと、こんなにも満たされるのだと、自分が愛情に飢えていたことを実感し隠れて涙をそっと流した。
どこにでもいる幸せな家族。なにより母親の笑顔が那津には嬉しかった。
それから二ヶ月ほど経ち、季節は夏を迎えていた。
蝉が煩いほどに鳴き、暑い日差しを受けながら那津は毎日のように外を駆け回っていた。
新しい生活に馴染み出し、年相応に友達もできた。前のように父親のことで嫌なことも言われたくなった。自分達の昔のことなど誰も知らない町は、那津の心から苦い鎖を解き放ってくれた。
誕生日には初めての丸い大きなイチゴのショートケーキに興奮した。六歳の夏は那津にとって最高に幸せな瞬間となった。
靴も脱がずに突然部屋に現れた男達は、悲鳴を上げる母親を取り囲んでいた。那津は母親を守るため、伸ばされるいくつもの手に噛み付き抵抗した。
「なにを手こずっている」
ほかの大人達とは違う空気を纏った男がひとり現れると、那津に視線を向けニヤリと笑った。
「ほぉ、これは驚いた。逃げ出したのは、このちびのせいか」
「……母さんは僕が守る!」
「それは面白い。ずいぶん威勢がいいな。それに、いい目をしている」
睨み付ける那津の双眸に劣らず男の眼光は鋭かった。
怯みそうになる気持ちを母を守りたい一心で対抗した。けれど小さな那津など大人に敵うはずもない。
猫を弄ぶように、首根っこを取られ母親と共に連れていかれた。
そこは大きな純和風のお屋敷だった。
母親はかぐや姫になったのかもしれない。
ホッとするのも束の間、その日から母親の悲鳴のような叫び声を聞くことになった。
聞こえてくるのは獣のような呻き声。苦しそうでいてどこか切なげな声。甘い香りは、那津が閉じ込められていた部屋にまで途切れることなく漂っていた。
那津が部屋から出されたのは数日経った頃だった。
母親の姿に目を潤ませながら飛び付いた。
「母さんっ!」
「那津……ごめんね……ひとりにさせて……寂しい思いをさせて……」
「僕、平気……これからは一緒にいられる?」
少しやつれた母親は涙を流しながら微笑み頷いた。
「冬音さん、そろそろ」
「ええ……。那津、静かにしているのよ」
コクリと頷き母親に抱えられながら、那津は男に視線を向けた。母親を気遣う男に自分と近しいものを感じる。
(この人がきっと母さんの本当の王子様……)
お屋敷を出てから竜治という男と、母親の三人での生活が始まった。
どこかは分からなかったが、自然が多い町だった。小さな一軒家は三人で暮らすには十分な広さで、なに不自由なく過ごせるお城になった。
竜治は那津を本当の息子のように可愛がってくれた。自分を父親と思ってくれと言ってくれた。
初めて得た父親という存在。父がいて母がいる。
二つ揃うと、こんなにも満たされるのだと、自分が愛情に飢えていたことを実感し隠れて涙をそっと流した。
どこにでもいる幸せな家族。なにより母親の笑顔が那津には嬉しかった。
それから二ヶ月ほど経ち、季節は夏を迎えていた。
蝉が煩いほどに鳴き、暑い日差しを受けながら那津は毎日のように外を駆け回っていた。
新しい生活に馴染み出し、年相応に友達もできた。前のように父親のことで嫌なことも言われたくなった。自分達の昔のことなど誰も知らない町は、那津の心から苦い鎖を解き放ってくれた。
誕生日には初めての丸い大きなイチゴのショートケーキに興奮した。六歳の夏は那津にとって最高に幸せな瞬間となった。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる