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第9章 キラキラ砂糖は奇跡の輝き90%
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優しい大きな掌に心地良さを感じると、とろんとしながらスリスリと頭を擦付ける。
「……俺は刺されたこと、今は良かったと思っているよ。郁哉には辛い思いもさせた。けどあれがなきゃ、郁哉は俺の前から立ち去っていた。引き留める自信がなかったんだ」
「そうかもだけど、那津が傷付くのは嫌だよ……」
本当に尾鷹を失うかもしれないと青褪め、あの惨劇を思い出すだけで今でも震えてしまいそうになる。
尾鷹は郁哉のせいではないと言うが、暫くあの光景は頭から離れそうにない。
「俺達はお互いに臆病だから……。けどこれから先は素直に気持ちを伝え合って、喧嘩して、笑って、二人で幸せを見付けていきたい。郁哉となら幸せになれるって確信できるんだ」
「うん……俺も、那津となら……」
尾鷹は肩を抱き寄せ、郁哉の気持ちを癒やすように髪に口付けを落とすと、ボソリと不思議なことを呟いた。
「……ラボで目覚める前に、声を聞いたんだ」
「声?」
「ああ、最初は郁哉だと思った。けど、あれは母さんだった……」
抱擁を解き、意識が浮上する前に起こった夢のような出来事を尾鷹は話し始めた。
静かに揺れる水面をぼんやりと見つめる尾鷹の瞳が、仄かに滲んでいるような気がする。夕日に輝く水面が瞳に映り込んでいるからか、それとも涙で濡れているからなのか……。
「ああ、届いた。もう平気ね。ひとりじゃないもの。これは貴方へのギフト。なにもしてあげられなくてごめんなさい。最後に……愛しているわ──。……そう言っていた」
苦笑いを浮かべる尾鷹は「おかしいでしょ」と呟いた。
郁哉はブンブンと首を横に振ると、尾鷹の胸に擦り寄った。
「母さんからのギフト。それは確かに届いた。郁哉から俺に」
「俺から……那津に?」
「ああ。十五年前に起きた事故で、母さんから郁哉にそれは渡ったはずだ。なにがあったかも、母さんがどんな特異体質だったかも、詳しいことはまだ解っていない」
ガバッと尾鷹の胸から抜け出すと、郁哉は青褪めた顔で尾鷹を凝視した。
「そんな……。それじゃ、俺のせいで那津のお母さんは……」
十五年前、なにが行われたのかは定かではない。
郁哉は胸騒ぎを感じながら目を拡げ茫然としていた。
郁哉の考えが正しければ、尾鷹の母親を死に追いやったのは自分だ。けれど郁哉の思いとは全く異なることを尾鷹言った。
「いや、それは違うな」
尾鷹は緩々と首を横に振り否定の言葉を呟くと、落ち着いた低音を響かせながら当時の真相を話してくれた。
「郁哉が搬送されたとき、母さんの魂は、すでにこの世にはなかった。自害したそうだ。母さんがこの世界で生きるには、現実はあまりにも過酷で残酷だったんだ。俺はなにもできなかった」
人は誰しも強がってばかりはいられない。だからこそ支えが必要だ。
「……俺は刺されたこと、今は良かったと思っているよ。郁哉には辛い思いもさせた。けどあれがなきゃ、郁哉は俺の前から立ち去っていた。引き留める自信がなかったんだ」
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苦笑いを浮かべる尾鷹は「おかしいでしょ」と呟いた。
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「俺から……那津に?」
「ああ。十五年前に起きた事故で、母さんから郁哉にそれは渡ったはずだ。なにがあったかも、母さんがどんな特異体質だったかも、詳しいことはまだ解っていない」
ガバッと尾鷹の胸から抜け出すと、郁哉は青褪めた顔で尾鷹を凝視した。
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「いや、それは違うな」
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「郁哉が搬送されたとき、母さんの魂は、すでにこの世にはなかった。自害したそうだ。母さんがこの世界で生きるには、現実はあまりにも過酷で残酷だったんだ。俺はなにもできなかった」
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