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第3幕 溢れる疑惑
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しおりを挟む約一ヶ月、悠斗と制服を着ての登下校もしばらくお預けだ。駅前まで行きファミレスに入る。午前中で学校が終りなだけあって、店内は学生が多く混み合っていた。なににしようかなと悩み、俺はチーズドリアとサラダ、悠斗は和風おろしきのこパスタとサラダを注文した。比較的早く料理は提供され、見るからに熱々なドリアを頬張った。
「──あふっィッ!」
「だ、大丈夫? お水お水! 熱いって分かっていて食べるんだから。フーフーしてあげようか?」
渡された氷水で唇を冷やす。ドリアよりも金属製のスプーンが熱を吸収しており、触れた唇がヒリヒリとして涙目になってしまう。
「子供じゃないもん。大丈夫だし……」
「クスッ、涙目で言われても説得力ないから」
苦戦しながらも食べ終え、悠斗が飲み物をドリンクバーに取りに行ってくれた。待っている間に手持ち無沙汰でスマホを弄り時間を潰す。
「あれ? 柳じゃん。彼女と一緒?」
「園崎? 彼女じゃねぇし。悠斗だよ」
スマホでネットを見ていると、偶然同じクラスの園崎に声を掛けられ、なぜか彼女と一緒かと言われる。
「なんだ、てっきりこないだそこで話してた、S女の子かと思ったんだけど」
「この間? ああ……あの子、彼女じゃねぇよ?」
「そうなの? 道端でキスしてるからてっきり彼女かと思った」
「えっ? まさか……見ていたのか⁉︎」
「まぁ、たまたまな。あんな道端で、まさか柳がキスしてるって意外でさ。すげぇガン見したわ」
「そ、それこんなところで言うなよ! あれは、その……」
ヤバイ……悠斗に聞かれたら……。
「瀬菜、どうしたの?」
「ゆっ、悠斗……同じクラスの園崎。偶然会って」
「なんだ、本当に王子じゃん。まぁいいや、そんじゃ、夏休み楽しめよ!」
園崎が席から離れると、お願いしたメロンソーダを渡される。普段通りの悠斗の様子に、話を聞かれてはいなかったとホッとする。
誰かに見られていたということは、噂として広まる可能性大ということ。ただ、幸いにも夏休みに入るということが救いだ。
タイミングを見計らって話したほうがいい気もするが、昼にそれ以上はなにもなかったと自ら墓穴を掘っていることを思い出す。ドキドキする心臓の音を平常に保とうと、何度も深呼吸をし狼狽える自分を落ち着かせた。
家に辿り着くと悠斗に、このまま帰ると言われてしまう。
「えっ、うち……寄らないのか?」
「うん、明日から学校ないし、瀬菜の家にどうせ入り浸るから、お泊まりの荷物纏めてから行くね?」
「あ……お泊まり……」
てっきり来ないものだと思ってしまった。
「連泊してもいい? まぁ、隣だから足りないものはすぐに取り行けるけど」
「うん! えへへっ」
「それじゃ、またあとでね」
悠斗が泊まりに来ることに、ひとりでルンルンしてしまう。
俺ってば汗臭いかも……。
あっ、そうだ悠斗が来る前にシャワーシャワー‼︎
──って‼︎
俺……すげー期待してるみたいじゃん!
ひとりで突っ込みを入れ真っ赤になる。悠斗が泊まることなどよくあることなのに、いまさらながらに緊張してしまう。水を浴び乙女心を鎮めると、部屋に戻りクーラーを掛け、悠斗が来るのを大人しく待っていた。
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