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第8幕 年越し湯けむり罰ゲーム?
01
しおりを挟む「グッパーグッパーグッパー……ポン‼」
四人で声を掛け合い腕を前に出す。出されたグーとパーは丁度良く別れていた。それに異議を称えるのは悠斗ただひとり。
「ちょっと、ダメ! もう一回‼」
「悠斗お前、瀬菜と同室になるまで永遠続ける気か?」
「部屋割りグッパーは柳ちゃんの提案だよ?」
「ははは……悠斗、ルールは守れ! もうこれでいいだろ?」
ため息を吐き出し、呆れた様子で俺は悠斗を宥める。
「良くない‼ 絶対ダメ~~~~‼」
……とまぁ、俺たちは四人で年末予定していた、罰ゲームという名の二泊三日の旅行に来ています。
ここは雪も深々と降る温泉宿。旅館は祐一さんの親戚が経営しているらしく、格安で借りることができたのだが、二人ひと部屋で、部屋割りにグッパーで決めようと俺が提案したのだ。
早速悠斗に罰ゲームが実行できると、村上も多澤もノリノリで提案に賛同し現在に至る。
「ほら王子、ずっと柳ちゃんと離れ離れじゃない訳だし、取り敢えず部屋入って荷物解こう」
「男らしくないぞ悠斗、たまには気分が変わっていいだろ?」
「そうだよ、ちょっと休んだらご飯前に温泉みんなで行こ?」
しょんぼりする悠斗は、俺と同室になれないことに不満を口にし、一度ならず二度も待ったをかけていた。これではグッパーをする意味がない。
「みんなで……温泉?」
「うん。温泉だよ。寒かったしさ、早く行こうよ」
「そうそう! 裸の付き合いでもっと親睦深めよう~♪」
「おい村上。余計なこと言うな……」
多澤が村上の口を止めるが、時すでに遅し。
「そんなこと言って、村上君は瀬菜の裸──」
「わーー! 村上、悠斗を引きずってでも連れて行ってくれ!」
「あはは……悪い。は~い王子、行くよ~♪」
駄々を捏ねる悠斗を宥めるのは諦め、村上に強制連行を頼むと、俺は多澤と二人で部屋へ入り、拗ねる悠斗を置き去りにした。
まぁ……けど、多澤と同じ部屋って違和感だよな。
自分で言い出したことだけど、村上と一緒にしてもらえば良かったかな……。
部屋に入りぼんやり室内を眺める俺に、多澤が振り返りニヤリと笑う。
「なんだ? お前も悠斗と一緒の部屋が良かったか?」
「えっ⁉ そ、そんなことないし!」
「ふーん。まぁ……襲ったらごめんな」
多澤の言葉にピシッと固まり、ズズズ……っと壁際に後退する。青い顔で壁に引っ付き虫状態になる俺を、多澤は上から下まで眺めプププっと吹き出し笑い始める。
「お前ってマジで面白いよな。なんつーか、子犬みてぇ」
「お前が怖いこと言うからだろ!」
「いや、瀬菜は弄り甲斐があるからついな」
「俺をからかってもなにも出ないぞ!」
「そうか? 笑いは絶えないだろ? ほら、そんなところに居ないで、とっとと風呂の準備しろ。悠斗がそろそろ乱入して来るぞ」
あれ?
違和感……なくなったかも……。
もしかして、気を遣ってくれた……のか?
俺はどうにも多澤雅臣という男を理解できていない。表情が読み難いこともあるが、冗談か本心か分かりづらいのだ。言葉にすることが全てではないが、多澤の言葉はいつでも含みがあり、言葉のうしろに真実が隠れていたりすることがある。
多澤って、悠斗にもこんな感じに接しているっけ?
そんなことを考えながらお風呂の準備をしていると、呼び鈴がけたたましく鳴らされた。
多澤はため息を吐き頭を掻きながら部屋の鍵を開けた。
「瀬菜、支度できた?」
「……早くね?」
「うん。瀬菜が早く行こうって言ったんだよ?」
「そりゃそうだけど……にしてはお前……。それに、みんなで行くんだからな!」
「分かっているよ。だからほら、村上くんも居るじゃん」
村上のことなどどうでも良さそうに、悠斗は俺の支度を手伝い出す。先ほどまでショボくれていたはずだが、諦めたのか復活している様子だ。
機嫌が悪いよりはいいか……。
差し出された袋を受け取ると、タオルや浴衣などの入浴セットが入っていた。まずは話題の大浴場に向かうことにした。
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