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第9幕 王子と王子
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「柳君って、静かに泣くよね? 病院でも思ったんだ……なんて綺麗に泣くんだろうって。最初はその泣き顔に釘付けになって興味が湧いた。一緒に居るうちに不安な気持ちがなくなって、心が穏やかになれた。どこか懐かしいような……」
悠斗の抱擁が強くなる。まるで慈しむような抱擁。
「柳君と居ると、空白が埋まるときがあるんだ……変だよね?」
「……埋まる?」
「うん、全部じゃないけど所々。繋がらないから、結局よく分からないけど。それでも今の僕には必要なんだ」
もう話してしまおうか……そう思ってしまう。けれど全てを話したとき、悠斗はどうするだろうか。おそらく恋人同士だったと話せば、責任を取ると無理に合わせようとする。今の悠斗は可能性を感じる俺に興味を持っているに過ぎない。それは恋愛感情とは異なり、いずれ綻びを生む。やはり今はまだ真実を口にすべきではない。
ならば幼馴染みだったことを話すべきか。散々嘘をついてきた。いまさら実は……と言ったところで、隠していたことを責められるのが怖い。
グッと唇を噛み締め、それとない励ましの言葉を口にする。
「少しずつ……少しずつでも、俺と居て埋まるなら……立花君が安心できるなら……俺も協力するよ」
「……うん、柳君と出会えて良かった」
抱擁が解かれ悠斗の熱が引いていく。
ニコリと微笑む悠斗に罪悪感が湧いてくる。
お前が探しているのは「柳瀬菜」俺そのものだと──。
「情けないなー。すっかり僕の悩み相談になっちゃった。柳君の悩みはもう少し友情を深めてからかな?」
「俺の悩みなんて些細なことだよ。それより、辛いこと話してくれてありがとう……」
灯りを消すと広いベッドに並び横になる。互いに背を向け瞼を閉じる。友達の距離。ひとり分の空白。
俺達がまた抱きしめ合いながら眠れる日をそっと願う。せめて夢の中ぐらいは昔に戻れたら幸せだなと……。暗闇の中、悠斗と俺の鼓動を聞きながら、早く夢を見させて……と、眠りが訪れるそのときを待っていた──。
***
その日の夜は想いが神様に通じたのか、俺の頭が引き出しの整理をしたのか夢を見た。とてもヘンテコな夢。おばさんに悠斗と俺は実は兄弟なのよと言われる、あり得そうでリアルな夢。恋人は無理だから、兄弟になりたい的な俺の願望なのだろうか。その話はまた次回ということにして……。
──なんか俺、抱き枕状態……?
……というか? 湯たんぽなの?
「おはよう、柳君。朝はまだ寒いね?」
「おはよう……俺は立花君のおかげで温かいよ?」
「うん。僕も温かい。ベッドで二人で寝て正解だね?」
背後でクスクス笑う悠斗の吐息がくすぐったい。
友達としては近過ぎる距離感。けれど俺も多澤や村上に寝惚けてしたことがあり、なんとも複雑だ。
「そうだけど……恥ずかしいからそろそろ。今日はこのあとどうするの?」
「ん? 残念。もう少しゆっくりしたいけど、予定が入っているんだ」
「そっか」
悠斗は起き上がると大きく伸びをし、帰り支度を始めていた。
「また泊まりに来てもいい?」
「うん、いいよ。また明日かな」
「明日は病院に行ってから学校に向かうから、朝は一緒に登校できないけど、メールはするね? お昼はみんなで食べよ?」
「分かった。村上には言っておく」
洗っておいたシャツもすっかり乾き、ホラーな血痕も幸い落ちてくれていた。昨日は色々あったが、自然に友達を演じることができた。
事故のことや悠斗の現状も知ることができ、まだまだ課題は山積みだが、俺なりに悠斗の支えになりたい。そう心から思うことができ、悠斗との距離に少しずつ免疫がついたような気がした。
「柳君、本当にありがとうね。いっぱい甘えてごめんね?」
「ううん。ご飯美味しかった。アイスはまた明日にでも!」
「ふふっ……そうだった。それじゃ、お邪魔しました」
丁寧にお辞儀をする悠斗に、バイバイと手を振り玄関の扉が閉まるのを見送る。
次の日、まさかあんな姿になっているとは……そのときは思ってもいなかった。
悠斗の抱擁が強くなる。まるで慈しむような抱擁。
「柳君と居ると、空白が埋まるときがあるんだ……変だよね?」
「……埋まる?」
「うん、全部じゃないけど所々。繋がらないから、結局よく分からないけど。それでも今の僕には必要なんだ」
もう話してしまおうか……そう思ってしまう。けれど全てを話したとき、悠斗はどうするだろうか。おそらく恋人同士だったと話せば、責任を取ると無理に合わせようとする。今の悠斗は可能性を感じる俺に興味を持っているに過ぎない。それは恋愛感情とは異なり、いずれ綻びを生む。やはり今はまだ真実を口にすべきではない。
ならば幼馴染みだったことを話すべきか。散々嘘をついてきた。いまさら実は……と言ったところで、隠していたことを責められるのが怖い。
グッと唇を噛み締め、それとない励ましの言葉を口にする。
「少しずつ……少しずつでも、俺と居て埋まるなら……立花君が安心できるなら……俺も協力するよ」
「……うん、柳君と出会えて良かった」
抱擁が解かれ悠斗の熱が引いていく。
ニコリと微笑む悠斗に罪悪感が湧いてくる。
お前が探しているのは「柳瀬菜」俺そのものだと──。
「情けないなー。すっかり僕の悩み相談になっちゃった。柳君の悩みはもう少し友情を深めてからかな?」
「俺の悩みなんて些細なことだよ。それより、辛いこと話してくれてありがとう……」
灯りを消すと広いベッドに並び横になる。互いに背を向け瞼を閉じる。友達の距離。ひとり分の空白。
俺達がまた抱きしめ合いながら眠れる日をそっと願う。せめて夢の中ぐらいは昔に戻れたら幸せだなと……。暗闇の中、悠斗と俺の鼓動を聞きながら、早く夢を見させて……と、眠りが訪れるそのときを待っていた──。
***
その日の夜は想いが神様に通じたのか、俺の頭が引き出しの整理をしたのか夢を見た。とてもヘンテコな夢。おばさんに悠斗と俺は実は兄弟なのよと言われる、あり得そうでリアルな夢。恋人は無理だから、兄弟になりたい的な俺の願望なのだろうか。その話はまた次回ということにして……。
──なんか俺、抱き枕状態……?
……というか? 湯たんぽなの?
「おはよう、柳君。朝はまだ寒いね?」
「おはよう……俺は立花君のおかげで温かいよ?」
「うん。僕も温かい。ベッドで二人で寝て正解だね?」
背後でクスクス笑う悠斗の吐息がくすぐったい。
友達としては近過ぎる距離感。けれど俺も多澤や村上に寝惚けてしたことがあり、なんとも複雑だ。
「そうだけど……恥ずかしいからそろそろ。今日はこのあとどうするの?」
「ん? 残念。もう少しゆっくりしたいけど、予定が入っているんだ」
「そっか」
悠斗は起き上がると大きく伸びをし、帰り支度を始めていた。
「また泊まりに来てもいい?」
「うん、いいよ。また明日かな」
「明日は病院に行ってから学校に向かうから、朝は一緒に登校できないけど、メールはするね? お昼はみんなで食べよ?」
「分かった。村上には言っておく」
洗っておいたシャツもすっかり乾き、ホラーな血痕も幸い落ちてくれていた。昨日は色々あったが、自然に友達を演じることができた。
事故のことや悠斗の現状も知ることができ、まだまだ課題は山積みだが、俺なりに悠斗の支えになりたい。そう心から思うことができ、悠斗との距離に少しずつ免疫がついたような気がした。
「柳君、本当にありがとうね。いっぱい甘えてごめんね?」
「ううん。ご飯美味しかった。アイスはまた明日にでも!」
「ふふっ……そうだった。それじゃ、お邪魔しました」
丁寧にお辞儀をする悠斗に、バイバイと手を振り玄関の扉が閉まるのを見送る。
次の日、まさかあんな姿になっているとは……そのときは思ってもいなかった。
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