395 / 716
第11幕 王子の憂鬱と無鉄砲な俺
14
しおりを挟む
先ほどまでの怪しい空気から一変、目の前の男は砕けた仕草に変わっていた。俺は状況すら理解しておらず、不安ばかりが増していた。
ただ手はもう出されないだろうと、確証はないが身体の強張りを解いていた。
悠斗に早く会いたい……。
でも、また俺怒られちゃうな。
お仕置き決定だ……。
百面相をする俺の顔を楽しそうに見ていた男は、「瀬菜君に教えて欲しいことがあるんだけど」とベッドヘッドに寄りかかり、隣をポンポンと叩いてきた。躊躇う俺に「もうなにもしない」と優しい笑顔を向けてくる。その表情や仕草はやはり悠斗のようで、俺は男を少し信じてみることにした。
それからは由良りんの学校生活についてや、俺の恋愛事情などを事細かく質問された。名前も知らぬ男に、俺も素直に答えるなどどうかしている。こんなにスラスラと答えてしまうのは、やっぱり時折悠斗と重なるからだ。悠斗の存在が自分にとって、本当に要になっている。他者にも影響を受けるほど大きく、俺の半身に、一部に……そう思わずにはいられなかった。
「ねぇ、お兄さん。悠斗の従兄弟?」
「くすっ、お兄さんって……いい響きだな。悠斗君は今日初めて聞いた名前」
「そっか……。なんか似てるから血縁者かなって思って。てかさ、お兄さん何者なの?」
「へぇー、そんなに似てるなら一度会ってみたいね。僕はね……はる──」
──バンッ‼
……と、もの凄い衝撃音に、その場に居た全員が、扉のほうへと視線を向けた。全開された扉にはすでに人影はなく、俺は悠斗に抱きしめられ、由良りんは男をベッドから引きずり下ろし壁に叩きつけていた。
二人の行動があまりにも素早く、その場にいた全員が目で追えないほどあっという間の出来事だった。
「い──っててッ‼ おやおや、ずいぶん早いね? 哉太……っ」
「遙っ‼ てめぇ……ヤナになにした‼」
「やだなぁ、映像見れば分かるでしょ」
「お前‼ 殺すぞッ‼」
由良りんの殺気立った怒声が部屋を満たす。
「殺す? 粋がってんな。お前に命をくれてやるつもりは毛頭ないね。年長者の話は冷静聞くもんだ。それだからこうやって、背後を取られる」
男は由良りんの腕を素早く捻り上げ引き離すと、そのまま床に抑えつけた。
「お前はまだまだ甘いね。そんなんじゃ、お兄ちゃんには何年経っても勝てないよ」
俺は首を傾げた。今なんと言ったのだろう。
「……お兄ちゃん⁇」
「ふふっ、カナちゃんのお兄ちゃんだって。俺もびっくりした。全然似ていないよね?」
物騒な物言いをする兄弟に、俺はどうやら巻き込まれたらしい。悠斗はそんな兄弟に構わず、俺の無事に安堵しつつも、あちこちチェックをしている。それは隅々まで、念入りに。
「ゆ、悠斗。俺本当に大丈夫だから。なにもされてないってば」
「本当になにもされていないの?」
「う、うん……最初は怖かったけど、お兄さん悠斗にちょっと似てたからかな……優しかったし、最後は安心して話し込んじゃった。それにさ、由良りんの兄ちゃんとは知らず、指に思い切り噛みついちゃって」
真実を知ると、とんでもない失礼をしてしまったと青くなる。そんな俺に悠斗は目を光らせた。
「……そう。ならこれはどう説明するの?」
ただ手はもう出されないだろうと、確証はないが身体の強張りを解いていた。
悠斗に早く会いたい……。
でも、また俺怒られちゃうな。
お仕置き決定だ……。
百面相をする俺の顔を楽しそうに見ていた男は、「瀬菜君に教えて欲しいことがあるんだけど」とベッドヘッドに寄りかかり、隣をポンポンと叩いてきた。躊躇う俺に「もうなにもしない」と優しい笑顔を向けてくる。その表情や仕草はやはり悠斗のようで、俺は男を少し信じてみることにした。
それからは由良りんの学校生活についてや、俺の恋愛事情などを事細かく質問された。名前も知らぬ男に、俺も素直に答えるなどどうかしている。こんなにスラスラと答えてしまうのは、やっぱり時折悠斗と重なるからだ。悠斗の存在が自分にとって、本当に要になっている。他者にも影響を受けるほど大きく、俺の半身に、一部に……そう思わずにはいられなかった。
「ねぇ、お兄さん。悠斗の従兄弟?」
「くすっ、お兄さんって……いい響きだな。悠斗君は今日初めて聞いた名前」
「そっか……。なんか似てるから血縁者かなって思って。てかさ、お兄さん何者なの?」
「へぇー、そんなに似てるなら一度会ってみたいね。僕はね……はる──」
──バンッ‼
……と、もの凄い衝撃音に、その場に居た全員が、扉のほうへと視線を向けた。全開された扉にはすでに人影はなく、俺は悠斗に抱きしめられ、由良りんは男をベッドから引きずり下ろし壁に叩きつけていた。
二人の行動があまりにも素早く、その場にいた全員が目で追えないほどあっという間の出来事だった。
「い──っててッ‼ おやおや、ずいぶん早いね? 哉太……っ」
「遙っ‼ てめぇ……ヤナになにした‼」
「やだなぁ、映像見れば分かるでしょ」
「お前‼ 殺すぞッ‼」
由良りんの殺気立った怒声が部屋を満たす。
「殺す? 粋がってんな。お前に命をくれてやるつもりは毛頭ないね。年長者の話は冷静聞くもんだ。それだからこうやって、背後を取られる」
男は由良りんの腕を素早く捻り上げ引き離すと、そのまま床に抑えつけた。
「お前はまだまだ甘いね。そんなんじゃ、お兄ちゃんには何年経っても勝てないよ」
俺は首を傾げた。今なんと言ったのだろう。
「……お兄ちゃん⁇」
「ふふっ、カナちゃんのお兄ちゃんだって。俺もびっくりした。全然似ていないよね?」
物騒な物言いをする兄弟に、俺はどうやら巻き込まれたらしい。悠斗はそんな兄弟に構わず、俺の無事に安堵しつつも、あちこちチェックをしている。それは隅々まで、念入りに。
「ゆ、悠斗。俺本当に大丈夫だから。なにもされてないってば」
「本当になにもされていないの?」
「う、うん……最初は怖かったけど、お兄さん悠斗にちょっと似てたからかな……優しかったし、最後は安心して話し込んじゃった。それにさ、由良りんの兄ちゃんとは知らず、指に思い切り噛みついちゃって」
真実を知ると、とんでもない失礼をしてしまったと青くなる。そんな俺に悠斗は目を光らせた。
「……そう。ならこれはどう説明するの?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
231
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる