王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
685 / 716
第26幕 iの意味

04

しおりを挟む
 平常心を保ちつつ悠斗に笑顔を向けると、机の上に視線を移した悠斗が口元を緩めクスッと笑った。
 先ほどまでの冷たいオーラがどういう訳か和らいでいる。小首を傾げ窺っていた俺の上半身を玉夫のほうへと押し倒した悠斗は、あろうことか俺の唇を塞いできた。

「──んッ……ば……ッ、やっめ……ふ……ぅ」

 段々畑のように高いひな壇タイプ教室。長い机にすっぽり隠れるのをいいことに、悠斗は躊躇なく俺の口腔を貪ると合間に呟いた。
 
「まだ使ってくれていたんだね……」
「……えっ……なに……ッ、ふぅ……んッ」
「ん? このシャープペン」
「……ぅっ……んッ?」

 チュックチュ……と静かに柔らかな唇が俺を追い詰めていく。散々堪能したとでも言いたそうに唇が離れると、悠斗は機嫌がよさそうに起き上がった。
 硬い椅子のはずなのに頭は弾力のある玉夫の太腿。頬を熱くさせ潤んだ瞳で見上げる天井と、俺を呆れた顔で見下ろす玉夫が映り込む。
 一体なにを言われたのかぼんやりと思考を巡らせる。俺のスマホにはもう存在しない画像。けれどよく記憶に残っている愉快な遊園地。ウサギーランドのラビたんシャープペン。悠斗が昔俺にプレゼントしてくれた文房具だ。所々色が剥げてしまっているが、お気に入りのシャープペンは今なお現役。たった一本の文房具を使っていただけで機嫌が直るとは本当に現金だ。

「ったく……お前たち人の股間でナニしてくれてんの」
「ああ、瀬菜のクッションになってくれて、どうもありがとう」

 講義が始まったというのに、俺たちはなにをしているのやら。力が抜け切った身体を起こせずもがいている俺の頭上で、攻防戦が繰り広げられている。

「あーあ、なんなん……このエロイ顔」
「君じゃこんな可愛い蕩けた顔にすることはできないよ」
「どうだか。今度三人でセックスしねぇ?」
「……いいね? なんて言う訳ないでしょ」
「ちっせぇ男だな」
「そう? これでも瀬菜には満足してもらえる大きさだけど?」
「瀬菜ちゃん俺のも美味そうに食べてたよね? いつも同じモノじゃ飽きるっしょ?」

 玉夫がニヤニヤしながら俺を見下ろし、俺の唇に触れようとすると、悠斗が目を細め殺気を漂わせていた。
 スッポリ机の間と玉夫に嵌り、身を捩る俺の腕を掴んで自身のほうへ悠斗が引き寄せる。

「ふふっ、君どうやら懲りてないみたいだね? 瀬菜、彼の横に座ってたら危ないから場所変えよ?」
「今から移動なんてできない! ほら、もうどこまで進んだか分からないじゃん! レポート提出できなくなるだろ!」

 俺が静止させなければ講義が終わるまで言い合いをしそうな二人に仲裁を入れる。話している内容は卑猥だが、まるで小学生の喧嘩のようだ。
 ため息を吐き出し、俺がピリピリし始めるのを感じ取ってか、互いに舌打ちをし、講義に専念してくれた。
 一難去ってまた一難。今後の大学生活が不安で堪らない幕開けになってしまった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする

獏乃みゆ
BL
黒髪メガネの地味な男子高校生・青山優李(あおやま ゆうり)。 小学生の頃、外見を理由にいじめられた彼は、顔を隠すように黒縁メガネをかけるようになった。 そんな優李を救ってくれたのは、幼馴染の遠野悠斗(とおの はると)。 優李は彼に恋をした。けれど、悠斗は同性で、その上誰もが振り返るほどの美貌の持ち主――手の届かない存在だった。 それでも傍にいたいと願う優李は自分の想いを絶対に隠し通そうと心に誓う。 一方、悠斗も密やかな想いをを秘めたまま優李を見つめ続ける。 一見穏やかな日常の裏で、二人の想いは静かにすれ違い始める。 やがて優李の前に、過去の“痛み”が再び姿を現す。 友情と恋の境界で揺れる二人が、すれ違いの果てに見つける答えとは。 ――トラウマを抱えた少年と、彼を救った“王子”の救済と成長の物語。 ───────── 両片想い幼馴染男子高校生の物語です。 個人的に、癖のあるキャラクターが好きなので、二人とも読み始めと印象が変化します。ご注意ください。 ※主人公はメガネキャラですが、純粋に視力が悪くてメガネ着用というわけではないので、メガネ属性好きで読み始められる方はご注意ください。 ※悠斗くん、穏やかで優しげな王子様キャラですが、途中で印象が変わる場合がありますので、キラキラ王子様がお好きな方はご注意ください。 ───── ※ムーンライトノベルズにて連載していたものを加筆修正したものになります。 部分的に表現などが異なりますが、大筋のストーリーに変更はありません。 おそらく、より読みやすくなっているかと思います。

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染

海野
BL
 唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。  ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?

処理中です...