687 / 716
第26幕 iの意味
06
しおりを挟む
悠斗がアメリカに留学したあとに始めたカメラ。詳しい話はまだしていない。
そういえば新入生の勧誘で、悠斗が写真研究会に突然現れ絵美先輩になにか聞いていたことを思い出す。
「新学期にさ、悠斗うちのサークルになんで来たんだ?」
「んー、手続きで大学に寄ったんだけど、通りがけにたまたま見つけて、女の子二人と知らない男子学生しか居なかったから聴き込みしようと思って。あのときは正直焦ったんだ。瀬菜が女装してるから驚いたし、十王君にいちゃもんつけられるし。でも、あのときの瀬菜……可愛かったな♡」
外の景色に視線を移す悠斗は、デレデレと口元を緩ませながら遠くを見つめなにやら妄想している様子だ。
「悠斗お前の考えは読めてるぞ……俺、絶対やらないからな。それに俺、誰にもカメラやってること言ってなかった!」
「マスターには言ったでしょ?」
コンクールが終わったあとにvert oliveに再訪問した。勝手にお店の写真を展示会に使用してしまったこと、そのコンクールの結果とフォト雑誌に掲載される断りを兼ね約束の写真を届けに。マスターはとても喜んでいた。自分のお店が掲載されることではなく、俺が特別賞をもらったことにだ。そのとき雑誌名と発売日を聞かれたのを思い出す。
「悠斗もお店に行ったの?」
「ううん、俺は行っていないよ。村上君がたまに行っているみたい。マスターに雑誌渡されて、自分のことみたいに自慢されたんだって。それでね村上君が俺にその雑誌を送ってきてくれたんだ」
「そっか……」
「瀬菜の写真凄く綺麗だった。切なくて儚げで、でも最後の一枚は明るかった。胸がね……ポカポカしたよ? けどね、一緒に掲載されていた十王君の写真は全部瀬菜で悔しかった。写真越しの瀬菜は、綺麗で雰囲気が全然違っていて……俺の知らない瀬菜で……」
雑誌に掲載された小さなカット写真。実物より色合いは変わり、感動は薄れるはずだが悠斗はそのとき感じたことを口にしていた。
やはり写真は凄い力がある。人の心を動かし考えさせられる。俺も始めた切っ掛けは一枚の写真からだった。
「だからね、サークルの人に瀬菜が今どんな風に過ごしてるか、少しでも聞きたかったんだ。あと十王菊夫っていう噂の恋人のこともかな。二人揃ってあの場に居るとは思わなかったけど」
「俺だって、本当にビックリしたんだ……そのせいで足も捻挫するし、散々だった」
「足挫いたって言ってたのそのときだったの? やっぱり追い掛ければよかった……俺、最低。時間がないって躊躇した自分に腹が立つ」
「いや、今思えば追いかけられなくてよかった。俺も心の準備できてなかったし、たぶん拒絶しかできなかったと思うから」
「うん……ねぇ、瀬菜……十王君が撮った写真、瀬菜泣いていたよね? アイツに泣かされたの?」
玉夫の写真はどれも俺ばかりで、最後の一枚は多分眠っているときに撮ったのだろう。雰囲気から初めてアパートに玉夫を招いた日。胸のうちを吐き出したその日のものだろう。
悠斗の質問に俺は首を横に振り言った。
「……違うよ」
この二年間、俺が涙を流すのは──。
「俺は悠斗を想って泣くばかりだった。いつでも悠斗が恋しくて、寝ても覚めても……悠斗で一色だったんだ」
悠斗はクシャリと顔を歪ませ、瞳を潤ませていた。その顔を俺は真っ直ぐに見つめ頭をポンポンと撫でてやる。
そういえば新入生の勧誘で、悠斗が写真研究会に突然現れ絵美先輩になにか聞いていたことを思い出す。
「新学期にさ、悠斗うちのサークルになんで来たんだ?」
「んー、手続きで大学に寄ったんだけど、通りがけにたまたま見つけて、女の子二人と知らない男子学生しか居なかったから聴き込みしようと思って。あのときは正直焦ったんだ。瀬菜が女装してるから驚いたし、十王君にいちゃもんつけられるし。でも、あのときの瀬菜……可愛かったな♡」
外の景色に視線を移す悠斗は、デレデレと口元を緩ませながら遠くを見つめなにやら妄想している様子だ。
「悠斗お前の考えは読めてるぞ……俺、絶対やらないからな。それに俺、誰にもカメラやってること言ってなかった!」
「マスターには言ったでしょ?」
コンクールが終わったあとにvert oliveに再訪問した。勝手にお店の写真を展示会に使用してしまったこと、そのコンクールの結果とフォト雑誌に掲載される断りを兼ね約束の写真を届けに。マスターはとても喜んでいた。自分のお店が掲載されることではなく、俺が特別賞をもらったことにだ。そのとき雑誌名と発売日を聞かれたのを思い出す。
「悠斗もお店に行ったの?」
「ううん、俺は行っていないよ。村上君がたまに行っているみたい。マスターに雑誌渡されて、自分のことみたいに自慢されたんだって。それでね村上君が俺にその雑誌を送ってきてくれたんだ」
「そっか……」
「瀬菜の写真凄く綺麗だった。切なくて儚げで、でも最後の一枚は明るかった。胸がね……ポカポカしたよ? けどね、一緒に掲載されていた十王君の写真は全部瀬菜で悔しかった。写真越しの瀬菜は、綺麗で雰囲気が全然違っていて……俺の知らない瀬菜で……」
雑誌に掲載された小さなカット写真。実物より色合いは変わり、感動は薄れるはずだが悠斗はそのとき感じたことを口にしていた。
やはり写真は凄い力がある。人の心を動かし考えさせられる。俺も始めた切っ掛けは一枚の写真からだった。
「だからね、サークルの人に瀬菜が今どんな風に過ごしてるか、少しでも聞きたかったんだ。あと十王菊夫っていう噂の恋人のこともかな。二人揃ってあの場に居るとは思わなかったけど」
「俺だって、本当にビックリしたんだ……そのせいで足も捻挫するし、散々だった」
「足挫いたって言ってたのそのときだったの? やっぱり追い掛ければよかった……俺、最低。時間がないって躊躇した自分に腹が立つ」
「いや、今思えば追いかけられなくてよかった。俺も心の準備できてなかったし、たぶん拒絶しかできなかったと思うから」
「うん……ねぇ、瀬菜……十王君が撮った写真、瀬菜泣いていたよね? アイツに泣かされたの?」
玉夫の写真はどれも俺ばかりで、最後の一枚は多分眠っているときに撮ったのだろう。雰囲気から初めてアパートに玉夫を招いた日。胸のうちを吐き出したその日のものだろう。
悠斗の質問に俺は首を横に振り言った。
「……違うよ」
この二年間、俺が涙を流すのは──。
「俺は悠斗を想って泣くばかりだった。いつでも悠斗が恋しくて、寝ても覚めても……悠斗で一色だったんだ」
悠斗はクシャリと顔を歪ませ、瞳を潤ませていた。その顔を俺は真っ直ぐに見つめ頭をポンポンと撫でてやる。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
制服の少年
東城
BL
「新緑の少年」の続きの話。シーズン2。
2年生に進級し新しい友達もできて順調に思えたがクラスでのトラブルと過去のつらい記憶のフラッシュバックで心が壊れていく朝日。桐野のケアと仲のいい友達の助けでどうにか持ち直す。
2学期に入り、信次さんというお兄さんと仲良くなる。「栄のこと大好きだけど、信次さんもお兄さんみたいで好き。」自分でもはっきり決断をできない朝日。
新しい友達の話が前半。後半は朝日と保護司の栄との関係。季節とともに変わっていく二人の気持ちと関係。
3人称で書いてあります。栄ー>朝日視点 桐野ー>桐野栄之助視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる