王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第26幕 iの意味

06

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 悠斗がアメリカに留学したあとに始めたカメラ。詳しい話はまだしていない。
 そういえば新入生の勧誘で、悠斗が写真研究会に突然現れ絵美先輩になにか聞いていたことを思い出す。

「新学期にさ、悠斗うちのサークルになんで来たんだ?」
「んー、手続きで大学に寄ったんだけど、通りがけにたまたま見つけて、女の子二人と知らない男子学生しか居なかったから聴き込みしようと思って。あのときは正直焦ったんだ。瀬菜が女装してるから驚いたし、十王君にいちゃもんつけられるし。でも、あのときの瀬菜……可愛かったな♡」

 外の景色に視線を移す悠斗は、デレデレと口元を緩ませながら遠くを見つめなにやら妄想している様子だ。

「悠斗お前の考えは読めてるぞ……俺、絶対やらないからな。それに俺、誰にもカメラやってること言ってなかった!」
「マスターには言ったでしょ?」

 コンクールが終わったあとにvert oliveに再訪問した。勝手にお店の写真を展示会に使用してしまったこと、そのコンクールの結果とフォト雑誌に掲載される断りを兼ね約束の写真を届けに。マスターはとても喜んでいた。自分のお店が掲載されることではなく、俺が特別賞をもらったことにだ。そのとき雑誌名と発売日を聞かれたのを思い出す。

「悠斗もお店に行ったの?」
「ううん、俺は行っていないよ。村上君がたまに行っているみたい。マスターに雑誌渡されて、自分のことみたいに自慢されたんだって。それでね村上君が俺にその雑誌を送ってきてくれたんだ」
「そっか……」
「瀬菜の写真凄く綺麗だった。切なくて儚げで、でも最後の一枚は明るかった。胸がね……ポカポカしたよ? けどね、一緒に掲載されていた十王君の写真は全部瀬菜で悔しかった。写真越しの瀬菜は、綺麗で雰囲気が全然違っていて……俺の知らない瀬菜で……」

 雑誌に掲載された小さなカット写真。実物より色合いは変わり、感動は薄れるはずだが悠斗はそのとき感じたことを口にしていた。
 やはり写真は凄い力がある。人の心を動かし考えさせられる。俺も始めた切っ掛けは一枚の写真からだった。

「だからね、サークルの人に瀬菜が今どんな風に過ごしてるか、少しでも聞きたかったんだ。あと十王菊夫っていう噂の恋人のこともかな。二人揃ってあの場に居るとは思わなかったけど」
「俺だって、本当にビックリしたんだ……そのせいで足も捻挫するし、散々だった」
「足挫いたって言ってたのそのときだったの? やっぱり追い掛ければよかった……俺、最低。時間がないって躊躇した自分に腹が立つ」
「いや、今思えば追いかけられなくてよかった。俺も心の準備できてなかったし、たぶん拒絶しかできなかったと思うから」
「うん……ねぇ、瀬菜……十王君が撮った写真、瀬菜泣いていたよね? アイツに泣かされたの?」

 玉夫の写真はどれも俺ばかりで、最後の一枚は多分眠っているときに撮ったのだろう。雰囲気から初めてアパートに玉夫を招いた日。胸のうちを吐き出したその日のものだろう。
 悠斗の質問に俺は首を横に振り言った。

「……違うよ」

 この二年間、俺が涙を流すのは──。

「俺は悠斗を想って泣くばかりだった。いつでも悠斗が恋しくて、寝ても覚めても……悠斗で一色だったんだ」

 悠斗はクシャリと顔を歪ませ、瞳を潤ませていた。その顔を俺は真っ直ぐに見つめ頭をポンポンと撫でてやる。
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