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17 どんな顔して、とは申しますが
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「舞踏会…ですか?」
私はお父様の持ってきた手紙を見て眉根を寄せた。
「ああ。なんでも、帝国の皇太子がやってくるとか。表向きは友好を深めるためのものだが、おそらくなにか他の目的があるのだろう。もしかしたら輸送馬車の襲撃について抗議するのかもしれない」
「そうですか…あの、一応聞いておきたいのですけど、私のパートナーって…」
「…まだ、王太子殿下だな。婚約破棄について決まった訳ではないし、向こうもリリアをパートナーとして出席したいと言っている。もちろん、お前が嫌なら断っていいが…」
お父様は苦い顔で私に答えた。王太子殿下がパートナーとして私を指名する。つまり、私の参加はほぼ強制ってことだ。私はため息をついた。
「わかりました。殿下のパートナーとして出席いたします」
「そうか…では、そのように返事を書こう」
お父様は私を気遣うように見ながら、書斎の方へ歩いて行った。この前あんなことになったのに、どんな態度で殿下に会えばいいのだろう。そして、殿下は一体何を考えていらっしゃるのだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よく来てくれた、リリア」
久しぶりに会った殿下は、少しやつれているように見えた。目には生気がなく、どこか落ち込んでいるようにも見える。舞踏会の会場で、すでに多くの来賓や貴族がいる前でこんな表情を見せるなんて彼らしくない。
「あの・・・殿下、お加減がよろしくないのですか?」
私がそう尋ねると、殿下はああ、と気のない返事をして振り返った。
「少し…父上とトラブルがあってね。いつものことだから、リリアが気にするほどではないよ」
まるで他人事のようにそう言ってのけると、殿下は口元に薄い笑みを浮かべた。殿下と国王陛下の仲があまりよくないことは公然の秘密だった。みんな知っているけれども誰もその話題に触れようとはしない。どちらの機嫌を損ねても面倒なことになるのは火を見るより明らかだからだ。
「ならよろしいのですが…」
「…心配してくれるのか?」
殿下の声音が撫でるような調子になったことに気づき、はっとして顔を上げるとさっきとはまるで違う熱のこもった瞳と目があった。慌てて視線を外し、殿下の顔をなるべく見ないように横を向く。
「そ、それは、殿下はこの国の王太子でいらっしゃるのですから、臣下として心配するのは当たり前です」
「臣下として…ね」
殿下はそう言いながらも、どこかさっきよりも声が明るくなっていた。婚約者としてではありません、と言おうとすると、殿下が足を止めた。殿下の視線のさきを追うより先に、場違いなほど陽気な声がした。
「こんばんは。いい夜ですね。王太子殿下におかれましては相変わらずお元気そうでよかった」
ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべていたのは、帝国の皇太子、アドルフ殿下だった。
私はお父様の持ってきた手紙を見て眉根を寄せた。
「ああ。なんでも、帝国の皇太子がやってくるとか。表向きは友好を深めるためのものだが、おそらくなにか他の目的があるのだろう。もしかしたら輸送馬車の襲撃について抗議するのかもしれない」
「そうですか…あの、一応聞いておきたいのですけど、私のパートナーって…」
「…まだ、王太子殿下だな。婚約破棄について決まった訳ではないし、向こうもリリアをパートナーとして出席したいと言っている。もちろん、お前が嫌なら断っていいが…」
お父様は苦い顔で私に答えた。王太子殿下がパートナーとして私を指名する。つまり、私の参加はほぼ強制ってことだ。私はため息をついた。
「わかりました。殿下のパートナーとして出席いたします」
「そうか…では、そのように返事を書こう」
お父様は私を気遣うように見ながら、書斎の方へ歩いて行った。この前あんなことになったのに、どんな態度で殿下に会えばいいのだろう。そして、殿下は一体何を考えていらっしゃるのだろう。
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「よく来てくれた、リリア」
久しぶりに会った殿下は、少しやつれているように見えた。目には生気がなく、どこか落ち込んでいるようにも見える。舞踏会の会場で、すでに多くの来賓や貴族がいる前でこんな表情を見せるなんて彼らしくない。
「あの・・・殿下、お加減がよろしくないのですか?」
私がそう尋ねると、殿下はああ、と気のない返事をして振り返った。
「少し…父上とトラブルがあってね。いつものことだから、リリアが気にするほどではないよ」
まるで他人事のようにそう言ってのけると、殿下は口元に薄い笑みを浮かべた。殿下と国王陛下の仲があまりよくないことは公然の秘密だった。みんな知っているけれども誰もその話題に触れようとはしない。どちらの機嫌を損ねても面倒なことになるのは火を見るより明らかだからだ。
「ならよろしいのですが…」
「…心配してくれるのか?」
殿下の声音が撫でるような調子になったことに気づき、はっとして顔を上げるとさっきとはまるで違う熱のこもった瞳と目があった。慌てて視線を外し、殿下の顔をなるべく見ないように横を向く。
「そ、それは、殿下はこの国の王太子でいらっしゃるのですから、臣下として心配するのは当たり前です」
「臣下として…ね」
殿下はそう言いながらも、どこかさっきよりも声が明るくなっていた。婚約者としてではありません、と言おうとすると、殿下が足を止めた。殿下の視線のさきを追うより先に、場違いなほど陽気な声がした。
「こんばんは。いい夜ですね。王太子殿下におかれましては相変わらずお元気そうでよかった」
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