君と初恋をもう一度

さとのいなほ

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自覚

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 昼がまだだという瑞月を連れてファミレスに戻ると洋介がにやにやと癪に触る笑顔で二人を迎えた。

「おかえりヒーロー」
「からかうな」
「からかってない! 暴漢に襲われる瑞月さんを颯爽と助ける……いやあ男の鑑だね」
「洋介」

 まだ言うか、と洋介を睨みつけていると隣に座った瑞月がぐりぐりと人差し指で眉間を揉んでくる。

「朝陽、そんなに怖い顔しないで。 眉間に皺が寄ってるよ」
「余計なお世話だ。 それよりあいつに掴まれたとこ大丈夫か?」

 瑞月はシャツを捲って男に掴まれていたところを確認する。男はどれだけ強く掴んでいたのかそこには痣ができていた。

「うわ痛そう」

洋介が声を漏らすと瑞月は

「大したことないよ」 

と袖を元に戻しながら答える。

「家帰ったら湿布貼るか。 父さんのがあったはずだから」
「うん、そうする」
「食うもん決めたか?」
「たらこパスタにしようかな」
「ドリンクバーは?」
「いらない」

 呼び出しボタンを押すと程なく店員が来て、瑞月の注文を伝えてやる。ドリンクバーに飲み物を取りに行くと後から洋介もやって来た。にまにまと薄気味悪い顔をしている。

「なんだよ」
「結局好きなんじゃん」
「はあ?」
「朝陽はありえないって言ってるけど俺にはそうは見えない」

 朝陽の肩に腕を置いて洋介は続ける。

「なんの話だ」
「瑞月さんの話だよ」
「お前なあ」
「一回考えてみ? 朝陽クンよ」
「なんなんだよ……」

 二人で席に戻ると瑞月がパスタを食べ始めていた。朝陽には薄い唇の間から銀色のフォークが引き摺り出される様子が妙にスローに見えた。

「瑞月さんって恋人とかいるんですか?」

 唐突な洋介の質問に瑞月は答える。

「いないよ。 片想いしてる子はいるけどね」
「へえ! どんな子ですか?」
「年下で不器用な子。 子供の頃からずっと好きなんだ」
「ほうほう……幼馴染とか?」
「違う違う。 一回会ってそれきりだったんだけど最近また会えてね。 諦めようと思ってたんだけど無理になっちゃった」

 洋介は瑞月の話にうんうんと頷いて聞いている。それにしても件の想い人と再会しているとは知らなかった。

(大学の後輩とかか?)

いずれにせよ奇跡的な再会に違いない。よく大人になった相手が分かったものだ。それだけ瑞月にとって大切な子なのだろう。
 朝陽はもやもやと心に暗いものが立ち込めるのを感じた。この気が沈むような感覚の原因が分からない内に洋介が朝陽に話題を移した。

「朝陽もそんな感じだよな」
「は?」
「幼稚園の時たまたま公園であった子に恋しちゃったんだよな」
「ばか、やめろ」
「お花あげたんだっけ? 特撮ヒーローの真似して」
「なんでそんなの覚えてるんだ……っ」

 子供の頃に一回話したきりの話をよく覚えている。懐かしく恥ずかしい記憶を他人に掘り起こされて顔が熱くなった。

「あれ以来好きな子もできないんだもんな。 あれ? 瑞月さん、どうしました?」

 瑞月を見ると妙な顔をしていた。目を見開いて驚いているような、喜んでいるようなそんな表情だ。洋介に呼びかけられ、はっとした後すぐにいつのもやわやわとした顔に戻った。

「朝陽も可愛いところあるなあって思って」
「うるさい」
「その子のこと、今も好き?」

 朝陽はあの子の花が綻んだような笑顔を思い出した。

「……また会えたらいいなっては思ってるよ」

そう言うと瑞月は俯き目を伏せて、

「そっか」

と微笑んだ。その微笑みはやっぱり少しあの子に似ていると思った。



「じゃあ、俺もうちょっと店見てから帰るわ。 付き合ってもらってあんがとな」
「おう。 じゃあ月曜日」

 洋介と別れて瑞月と二人で帰る。

「今日夕飯の買い物はいいのか」
「午前のうちに行ったから大丈夫」
「そうか」
「朝陽、明日なんだけど行くところ変えてもいい?」
「別にいいけど」
「ありがとう」

 歩いていると不意に瑞月が呟いた。

「でも良かった」
「何が?」
「今朝、俺のこと避けてたでしょ? 嫌われちゃったのかなって思って不安だった」
「あー……あれは俺の問題だからその、悪い。 気にしないでくれたら助かる」
「よく分からないけど、うん。 分かった」

 朝陽はほっとして瑞月の横顔を見る。にこにことしているが心なしかいつもより上機嫌に見える。

「なんかいいことあったのか?」
「えぇ? そう見える?」

 瑞月は分かりやすく顔を赤くして照れ笑いを浮かべた。

「うん。 好きな子がね、俺のこと覚えててくれたんだ」

そう言う瑞月の声は弾んでいて、本当に嬉しいのだということが伝わってくる。反面、朝陽はぐっと息が詰まるような気分になった。

「俺だって気付いていないみたいだけど」
「その子に伝えるつもりか? 小さい頃に会ってたってこと」
「うん。 そのつもり」
「……その子と付き合いたい?」
「……うん」

瑞月は小さく息を飲んで頷いた。くすぐったそうに微笑む瑞月を見て朝陽の胸はやるせなさでいっぱいになった。そうしてようやく、気がついた。

『結局好きなんじゃん』

ファミレスでの洋介の言葉が響く。

「最悪だ」

 瑞月に聞こえないよう、口の中で呟く。自覚した瞬間に失恋するなんて気が付かない方がマシじゃないか。

「何か言った?」
「いや……なんでもない」

 茉莉の時のように成功すればいいとは言えなかった。
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