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夏休み②
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ホテルの近くにある観光客に人気のレストランで夕飯を済ませ、海岸線を散策する。洋介と茉莉は先にホテルへ戻らせた。
朝陽は食事の前に瑞月にメッセージを送っていた。20時頃にホテルの外で会いたいと。先程既読がついて、今から行くと返ってきた。
(よかった……)
遠慮して来ないのではないかと怖かったから朝陽はひとまず安堵した。直接会って西野に植え付けられた誤解を解かなければ。
ホテルから誰かが出てくるのが見えた。人影は朝陽に近づいてきて、親しげに手を挙げた。
「よう」
「西野さん……?」
街灯に照らされた西野は顔が赤くなっている。瑞月と二人で飲んでいたんだろう。チリチリと嫉妬が再燃し始めた。
「どうしてあんたが」
「瑞月の代わりに来たんだよ」
「俺は瑞月に用があったんですけど」
西野は苦笑した。
「用ってなに? 無理して瑞月に付き合わなくていいんだぞ?」
瑞月の部屋でも同じようなことを言っていた。なぜ西野がそう思うのか疑問で仕方ない。
「俺が無理してるってなんなんですか?」
「歩きながら話そうか」
なんであんたと、という反論を飲み込んで西野の後をついて歩く。砂浜に降りて適当な岩に腰掛ける。夜の海は昼間とは違い静かで、寄せては返す波の音だけが響いていた。
「朝陽、焼きそば大して美味くなかったろ」
「……は?」
西野は突然何を言い出すのか。朝陽が戸惑っていると、西野が答えるように促してくる。
「素直に言っていいぞ」
「えっと、まあ正直……」
西野が作っていたという焼きそばは水分が多くべちゃべちゃしていた。だが、それがどうしたのか。
「だよな」
暗いし少し離れた岩にそれぞれ座っているため、西野の顔はよく見えない。だが声からは軽さが消えて、真面目なトーンで朝陽に語りかける。
「お前は俺に気遣って美味いと言ったんだよな? その気遣いを瑞月にもしてないか?」
「は……?」
「つまり俺が言いたいのは、お前はあいつに気を遣って流されて付き合ってるんじゃないかってこと」
そんなわけない、そう言い返そうとしたが朝陽に口を挟ませないまま西野は続ける。
「まあ、はいそうです、とは言えないよな。 俺はお前が瑞月に対して気疲れを起こすんじゃないか心配してるんだ」
「気疲れ?」
「そうだ。 瑞月に気を遣ったまま付き合い続けてもいつか無理が来る。 そして破綻する。 そしたら瑞月が傷つくだろう。 俺はそれが怖い」
「……なんですかそれ。 そんなの西野さんの想像じゃないですか」
「俺の想像ならそれでいいんだ。 ただ、あいつはずっとお前を想ってたから生半可な気持ちで付き合ってほしくない」
西野の言葉は検討外れもいいところだ。勝手な想像で流されているだの気を遣ってるだのと言われるのは心外だ。
「不安なんだよ。 あいつの一方通行じゃないかって」
西野は決めつけるように言う。それが朝陽の神経を逆撫でる。
「俺は俺の意思で瑞月と付き合ってる。 一方通行に見えてるならそれは違う! 俺だって……」
子供の頃に一度会ったきりの瑞月を忘れることが出来なかった。改めて言葉にするのは恥ずかしいが、それを振り払ってはっきりと言う。
「俺だって瑞月が好きだ! あんたの想像で勝手なこと言うな!」
朝陽の声が海に響いた。必死になっていたから想像以上の大声が反響する。途端に振り切ったはずの羞恥が波のように襲ってきて顔がぼっと熱くなる。
朝陽の宣言に呆気に取られた西野は悪かった、と朝陽のところまできて頭を下げ、声のトーンを戻して言う。
「じゃあ戻るか。 お詫びにコンビニでアイスでも奢ってやるよ」
「は、ち、ちょっと」
西野は勝手に歩き出す。すっきりしたと言わんばかりに伸びまでしている。
「で、朝陽は瑞月のどこが好きなの?」
「は?」
コンビニへの道中、そんなことを聞いてくる。先程の真面目な空気はどこへやらといった感じだ。にやにやと底意地の悪そうな笑みを浮かべて、肘で脇腹を小突いてくる。
「お前の意思で付き合ってんだろ? なんかあるだろ」
「……笑顔」
「ほう?」
初めて会ったあの夏の日から瑞月の笑顔に惹かれていた。他にもあるがどこが好きと言われたらまず笑顔だ。
「まあ確かに可愛いもんなあ」
「……」
よく知っていると言わんばかりに頷く西野に朝陽がむすっとして沈黙で返す。やっぱり西野は気に食わない。朝陽の知らない瑞月をたくさん知っているのだろう。またジリジリと嫉妬が燃えだした。
「……お前ヤキモチ妬いてんのか?」
「……」
「俺は妬いたぞお前に」
あっけらかんと言う西野に朝陽は目を瞬かせる。どうして西野が朝陽に妬くのだろう。
「瑞月は弟みたいなモンだし、恋人できたってソイツのことしか眼中になくなったらなあ……首にでっけえ歯形作ってくるし」
「……ッ!」
瑞月が朝陽の話しかしないと言うのも驚きだし、なぜ噛み跡のことを西野が知っているのか。瞬間湯沸かし器のように赤くなった朝陽を見て、笑いながら西野が続ける。
「だいぶ気温上がってんのに一時期首元詰まった服しか着て来なくなったからな。 気になって聞いたら」
『内緒にしてね?』
そう言って瑞月はこっそりと西野にだけ朝陽がつけた噛み跡を見せたらしい。嬉しそうに、恥ずかしそうに。
「結構激しめなのなお前。 今の高校生ってみんなそうなの?」
「……知りません」
「その辺はあんま突っ込まないけど。 なあアイスどれがいい?」
そう言われてコンビニの冷凍ケースを覗き込む。恥ずかしくてこの場から早く去りたい一心ですぐに目についたソーダ味の棒アイスを選ぶ。
西野は自分の分のアイスと他にもカゴに何かしら入れてレジへ行った。
「改めて悪かったよ」
ホテルへ着くと再度西野が謝ってきた。
「さっきも俺邪魔だったよな」
さっきとは瑞月の部屋でのことだろう。確かに邪魔だった、決して口には出さないが。
「なんというか良かれと思ってだったんだ。 お前が瑞月に無理して付き合ってると思ってたからな。 これもやる」
アイスを取り出して代わりにポケットの中から何かを入れて、コンビニで買った袋を朝陽に渡してくる。中には
ホテルの鍵とローションとコンドームが入っていた。
「なっ……!」
「瑞月凹んでたから慰めてやってくれ」
「元はといえば西野さんのせいじゃないですか」
「だからそれで仲直りしてくれって」
「デリカシーってもんが無いんですか!」
「よく言われるわ、それ」
怒鳴る朝陽の脇を抜けて西野はじゃあな、と一足先にホテルに入っていった。なんて厄介な男だろう。朝陽と瑞月の間を掻き乱してさっさと引き上げるとは。
はあ、と一度息を吐き出して鍵を握りしめた。
(瑞月……)
西野に植え付けられた不安を拭って、そして朝陽の気持ちを改めて伝える。朝陽は頬を叩いてホテルへ入った。
朝陽は食事の前に瑞月にメッセージを送っていた。20時頃にホテルの外で会いたいと。先程既読がついて、今から行くと返ってきた。
(よかった……)
遠慮して来ないのではないかと怖かったから朝陽はひとまず安堵した。直接会って西野に植え付けられた誤解を解かなければ。
ホテルから誰かが出てくるのが見えた。人影は朝陽に近づいてきて、親しげに手を挙げた。
「よう」
「西野さん……?」
街灯に照らされた西野は顔が赤くなっている。瑞月と二人で飲んでいたんだろう。チリチリと嫉妬が再燃し始めた。
「どうしてあんたが」
「瑞月の代わりに来たんだよ」
「俺は瑞月に用があったんですけど」
西野は苦笑した。
「用ってなに? 無理して瑞月に付き合わなくていいんだぞ?」
瑞月の部屋でも同じようなことを言っていた。なぜ西野がそう思うのか疑問で仕方ない。
「俺が無理してるってなんなんですか?」
「歩きながら話そうか」
なんであんたと、という反論を飲み込んで西野の後をついて歩く。砂浜に降りて適当な岩に腰掛ける。夜の海は昼間とは違い静かで、寄せては返す波の音だけが響いていた。
「朝陽、焼きそば大して美味くなかったろ」
「……は?」
西野は突然何を言い出すのか。朝陽が戸惑っていると、西野が答えるように促してくる。
「素直に言っていいぞ」
「えっと、まあ正直……」
西野が作っていたという焼きそばは水分が多くべちゃべちゃしていた。だが、それがどうしたのか。
「だよな」
暗いし少し離れた岩にそれぞれ座っているため、西野の顔はよく見えない。だが声からは軽さが消えて、真面目なトーンで朝陽に語りかける。
「お前は俺に気遣って美味いと言ったんだよな? その気遣いを瑞月にもしてないか?」
「は……?」
「つまり俺が言いたいのは、お前はあいつに気を遣って流されて付き合ってるんじゃないかってこと」
そんなわけない、そう言い返そうとしたが朝陽に口を挟ませないまま西野は続ける。
「まあ、はいそうです、とは言えないよな。 俺はお前が瑞月に対して気疲れを起こすんじゃないか心配してるんだ」
「気疲れ?」
「そうだ。 瑞月に気を遣ったまま付き合い続けてもいつか無理が来る。 そして破綻する。 そしたら瑞月が傷つくだろう。 俺はそれが怖い」
「……なんですかそれ。 そんなの西野さんの想像じゃないですか」
「俺の想像ならそれでいいんだ。 ただ、あいつはずっとお前を想ってたから生半可な気持ちで付き合ってほしくない」
西野の言葉は検討外れもいいところだ。勝手な想像で流されているだの気を遣ってるだのと言われるのは心外だ。
「不安なんだよ。 あいつの一方通行じゃないかって」
西野は決めつけるように言う。それが朝陽の神経を逆撫でる。
「俺は俺の意思で瑞月と付き合ってる。 一方通行に見えてるならそれは違う! 俺だって……」
子供の頃に一度会ったきりの瑞月を忘れることが出来なかった。改めて言葉にするのは恥ずかしいが、それを振り払ってはっきりと言う。
「俺だって瑞月が好きだ! あんたの想像で勝手なこと言うな!」
朝陽の声が海に響いた。必死になっていたから想像以上の大声が反響する。途端に振り切ったはずの羞恥が波のように襲ってきて顔がぼっと熱くなる。
朝陽の宣言に呆気に取られた西野は悪かった、と朝陽のところまできて頭を下げ、声のトーンを戻して言う。
「じゃあ戻るか。 お詫びにコンビニでアイスでも奢ってやるよ」
「は、ち、ちょっと」
西野は勝手に歩き出す。すっきりしたと言わんばかりに伸びまでしている。
「で、朝陽は瑞月のどこが好きなの?」
「は?」
コンビニへの道中、そんなことを聞いてくる。先程の真面目な空気はどこへやらといった感じだ。にやにやと底意地の悪そうな笑みを浮かべて、肘で脇腹を小突いてくる。
「お前の意思で付き合ってんだろ? なんかあるだろ」
「……笑顔」
「ほう?」
初めて会ったあの夏の日から瑞月の笑顔に惹かれていた。他にもあるがどこが好きと言われたらまず笑顔だ。
「まあ確かに可愛いもんなあ」
「……」
よく知っていると言わんばかりに頷く西野に朝陽がむすっとして沈黙で返す。やっぱり西野は気に食わない。朝陽の知らない瑞月をたくさん知っているのだろう。またジリジリと嫉妬が燃えだした。
「……お前ヤキモチ妬いてんのか?」
「……」
「俺は妬いたぞお前に」
あっけらかんと言う西野に朝陽は目を瞬かせる。どうして西野が朝陽に妬くのだろう。
「瑞月は弟みたいなモンだし、恋人できたってソイツのことしか眼中になくなったらなあ……首にでっけえ歯形作ってくるし」
「……ッ!」
瑞月が朝陽の話しかしないと言うのも驚きだし、なぜ噛み跡のことを西野が知っているのか。瞬間湯沸かし器のように赤くなった朝陽を見て、笑いながら西野が続ける。
「だいぶ気温上がってんのに一時期首元詰まった服しか着て来なくなったからな。 気になって聞いたら」
『内緒にしてね?』
そう言って瑞月はこっそりと西野にだけ朝陽がつけた噛み跡を見せたらしい。嬉しそうに、恥ずかしそうに。
「結構激しめなのなお前。 今の高校生ってみんなそうなの?」
「……知りません」
「その辺はあんま突っ込まないけど。 なあアイスどれがいい?」
そう言われてコンビニの冷凍ケースを覗き込む。恥ずかしくてこの場から早く去りたい一心ですぐに目についたソーダ味の棒アイスを選ぶ。
西野は自分の分のアイスと他にもカゴに何かしら入れてレジへ行った。
「改めて悪かったよ」
ホテルへ着くと再度西野が謝ってきた。
「さっきも俺邪魔だったよな」
さっきとは瑞月の部屋でのことだろう。確かに邪魔だった、決して口には出さないが。
「なんというか良かれと思ってだったんだ。 お前が瑞月に無理して付き合ってると思ってたからな。 これもやる」
アイスを取り出して代わりにポケットの中から何かを入れて、コンビニで買った袋を朝陽に渡してくる。中には
ホテルの鍵とローションとコンドームが入っていた。
「なっ……!」
「瑞月凹んでたから慰めてやってくれ」
「元はといえば西野さんのせいじゃないですか」
「だからそれで仲直りしてくれって」
「デリカシーってもんが無いんですか!」
「よく言われるわ、それ」
怒鳴る朝陽の脇を抜けて西野はじゃあな、と一足先にホテルに入っていった。なんて厄介な男だろう。朝陽と瑞月の間を掻き乱してさっさと引き上げるとは。
はあ、と一度息を吐き出して鍵を握りしめた。
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