【完結】死に戻り~繰り返される生と死。この死に戻りに終わりはあるのか~

トト

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死に戻り

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『キャー!!』

 女の甲高い悲鳴で自分が再び死に戻って来たことに気が付いた。
 いままで繰り返してきた死んでから、ここにいたるまでの記憶が男の脳裏にまざまざと蘇る。
 死に戻りはこれで20回目である。

 男の視界に鋭い刃物の光がキラリと瞬いた。

 あぁ、またここからか。
 男はため息を付きたかったがそんな時間はもう残されていない。
 しかしどうせ死に戻りさせるなら、せめて駅を降りる前、いや1分でいいからこうなる前の時間に戻して欲しかった。こんなところがセーブポイントなんてどう回避しろというのだ、無理ゲーにもほどがある、それでも何とか渾身の力を振り絞る。

 ──動け! 動け! 俺!

 刃物の刃先を少しでもずらせたら助かるかもしれない。

 ──がんばれ俺! 少し、ほんの少しでいいから。

 ピクリ体が反応した気がした。

 ──そうだできるできるぞ!

 刃物を地面に落とすことさえ出来ればいいのだ。

 その時だった。『ウオー』という叫び声が聞こえたかと思ったら、刃物が手から離れ滑り落ちるのを見た。
 まるでスローモーションのように。

 ──動け! あとほんの少し!

 体をねじれば避けられる。
 しかし空中に放たれ刃物はまるで目印でもついているかのように、真っすぐに俺の胸に向かってその鋭利な刃の先を向けた。

 ──あぁ、また今回も避けれなかった。

 ゆっくりと心臓に刃先の冷たい感触を感じながら、そのまま前のめりに倒れる。狙いを定めた刃は、そのまま俺の体に吸い込まれるように入っていった。

 体から流れる自分の血を眺めながら、今回は前の20回より意識が長くあることに気が付く、気が付いたところでぜんぜんうれしくない。なぜならそれだけ痛みを長く感じなければならないということだからだ。
 20回目までは心臓を一突きして、地面に倒れた時には絶命していたはずなのに、今回は痛みでとても自分の口から出ているとは思えない絶叫を聞きながら、息絶えることもできずのたうち回っている。

 ──あぁ。神様。これはひどいよ。

 何もしなければ即死。生きようと足掻けば数秒だけ長く生きれる。

 ──こんなのあんまりだ。

 希望などなくていいから、死に戻りなどもう終わりにしてくれ。

──神様。お願いします。

 天を仰ぐ。
 周りにはいつのまにかやじ馬たちが群がっている。

──うるさい。うるさい。だから嫌なんだお前たちは。

──いや。今のは嘘です神様。もうこんなこと思いません。

──もう、知らない人を襲おうなんて考えませんから!

──だからお願いします。もう死に戻りだけはやめてください!

 男の視界にパトカーと救急車の光が映る。さっき切りつけた数名の男女が救急隊員に手当てをされている。
 最後に襲い掛かった女は怯えた顔で俺を指さしながら警察官に何が起きたか説明している。

「おい、大丈夫か!」

 唯一俺に声をかけてきたのは、俺を後ろからタックルしてきた男だった。

 ──大丈夫なわけないだろ。

 返事の代わりに俺は口の中にたまっていた血を吐き出した。

「俺はただ止めたかっただけで」

 英雄が犯罪者に言い訳をしているのが、少しだけおかしかった。

──そうだ、全て俺が悪いのだ。

 自分の不幸を全て世の中のせいにして、その腹いせに見も知らない人を殺すためにこの場にやってきたのだ。
 そして最後に女に切りつけようと刃物を振り下ろした瞬間、俺は後ろからタックルをくらい、持っていた刃物から手を放してしまったのだ。
 そして背中を押された俺は空中を舞う自分の刃物が自分の心臓を捉えた瞬間地面に倒れ込んだのだ。

 ──あぁ。神様。もう反省したからせめて俺が駅に降り立つ前に記憶を戻してくれよ。そしたらそのまま誰も傷つけず俺はもう一度電車に乗ってそのまま自分の家に帰るから。

 薄れていく記憶の中で男は懇願する。

──そしたら、怪我人たちもうまれないし、英雄さんにこんな情けない顔もさせない。女性だってあんな怯えた表情を浮かべることもないのだから。俺は静かに部屋に引きこもるよ。これまでのことだってちゃんと反省する。もう親にも迷惑かけない。

 それに対し神様が返事をするように。沈んでいこうとする意識を再び揺さぶり起こした。同時に薄れようとしていた痛みが全身を駆け抜ける。

──わかった。贅沢は言わない。悪いのは全部俺だ。犯した罪を無くしてくれなんて願わない。だからせめてもう死なせてくれ!

──痛いのはもうこりごりだ! 地獄に落としてくれていいから!

 懇願しながら、ふと男の脳裏にある考えが浮かぶ、そして青ざめる。

──ここが地獄?
 
『キャー!!』

 女の甲高い悲鳴で自分が再び死に戻って来たことに気が付いた。
 21回目……
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