【完結】異世界勇者、魔王と一緒に新天地を目指します

トト

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勇者と魔王

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「楽勝だな」

 勇者としてこの世界に召喚された俺はその強すぎるチートスキルのおかげて、なんなく魔王城まで辿りついた。

「ゴールは目前」

 しかし俺の心はいまいち晴れやかでなかった。別に最後の対戦を前に緊張しているわけでも、強大な敵に恐れを抱いているわけでもない。

「さて、魔王倒したらどうしようかな~」

 心に浮かんでこようとする考えを打ち消すように楽しいことを思い浮かべる。

「王様には姫と結婚して国を継いでくれ、とか言われたけど、それもなぁ」

 召喚後勇者と認められ、城を旅立つ時に王の隣にいた姫を思い出す。
 豪華なドレスに身を包み、派手なメイクをした姫。たぶんメイクを落としてもそれなりに整ったきれいな顔立ちをしていそうだが、それ以上にその内面からにじみ出るきつそうな性格、人を値踏みするような鋭い眼光。微笑まれたはずなのにブルリと背筋を冷たくするその気迫。

「無理だ、いくらきれいでもタイプじゃない。俺はどちらかというと、天然ポワポワ系女子が好きなんだ」

 誰に言うでもなく叫ぶ。

「それに王様なんて責任の塊のような役職絶対就きたくない、俺には可愛い嫁さんと娘とのんびり田舎暮らしがいい」

 妄想を爆発させる。

「さて、しかしどうしたものか」

 眼下に広がる巨大な城下町。多分俺を召喚したオルガ王国より広そうだ、高い壁にぐるりと囲まれたその中心に見える高い建物がたぶん魔王の住む城だろう。
 俺はスキルを使い遠くから数日町の様子を探った。
 しかしそれは潜入方法を思案しているわけでも、警備の厳しさに行き詰まっているからでもなかった。

 その時、城壁の門に一台の馬車が近づいてくるのが見えた。
 荷台には、薄汚い布切れを一枚巻き付けただけの子供が何人も乗せられているのが見えた。

「あぁ、また街を襲ったのか」

 爪を噛む。そしてゆっくりとその馬車が壁の中に消えていくのを眺めながら俺は今夜魔王を襲撃することを決めた。

~~ ~~ ~~ 

「勇者か」

 魔王は思いのほか冷静にそう聞いた。自分の喉ぼとけに鋭い剣が突きつけられていることに気が付いていないわけではないだろうに。

「魔王だな」

 俺が少しでも力を込めれば、魔王の首は胴と永遠の別れをつげることだろう。しかし俺はそれをせず、まるで友達の家に遊びに来た親友のように、そのまま会話を続けた。

「そうだ」

 魔王は力の差を認め諦めてしまっているのか。いや違う、魔王は喉ぼとけに剣を突き付けられたまま身を起こした。そうすれば俺が剣を引くのをわかっていたかのように。

「あぶないだろ! 俺が剣を引かなかったら刺さっていたぞ」

 誰を心配していっているのか、と魔王が鼻で笑う。

「お前は、私を倒しにきたのではなかったのか?」

 おかしそうに小首を傾げる魔王にウッと言葉を詰まらせる。

「それはそうなんだが、一応言い訳ぐらい聞いてやろうかと」

 魔王に言い訳を尋ねる勇者が、果たしていままでいただろうか。

「余裕だな」

 あれだけ厳重な城壁も一匹の魔物にも気付かれることなく、魔王の寝室まで忍び込めたのだ。もっというなら、ここまで忍び込む必要さえなかった。魔王城もろとも街を焼き払うことなど俺の力では容易くできた。でもそれはしなかった。したくなかった。

 ここに来るまでに、いくつかの人間の村や街を通って来た。
 そのどこでも人々は俺を見ると森で魔物が暴れているからやっつけてくれと頼んできた。
 皆から称賛され、その日の食事も寝床も保障してもらえるならと喜んで俺も魔物をやってけてまわった。
 しかしある時ふと気が付いたのだ。

 森で暴れている魔物は何をしたのかと。

 そこであるとき村人「いままで魔物に襲われた村人はいますか?」と、聞いた。
 しかし村人たちは「いたら大変ですよ。だからそうなる前にやっつけておくんですよ」と答えた。

 またある時たくさんの魔物の子供ばかりを奴隷として使役している街を通った。
 俺は「可愛い、魔物はいますか?」と男に尋ねた。
 すると男は下卑た笑みを浮かべながら街はずれの古びた洋館を指さし「勇者様もお好きですね」と笑った。
 その夜俺は飲んだことのないお酒を浴びるように飲んで、泥のように眠りについた。

「魔王、お前は何のために魔物たちを集めている」

 俺は剣を向けたまま尋ねた。
 自分を召喚した王の話では、いままで魔物たちは小さな集落を作るものはいたが、数人の兵士でつぶせるほどのものだったし、ほとんど単体で行動するものばかりだったから狩るのも大変ではなかったという話だった。
 しかしこの数十年で、魔物たちの行動が変わってきたという。そしてその原因を探っていたところ、オルガ王国から遠く離れたこの深い森の奥に、魔物たちが集まりまるで一つの国のように暮らしていることを知ったのだ。
 オルガ王はすぐに軍隊を率いて魔物たちの暮らすこの国に攻め入った。しかし帰ってきた兵士は数名、その報告では、軍隊と戦った魔物はたった一匹、その一匹により軍隊のほとんどは壊滅的被害を受け、命からがらオルガ王国に逃げ帰ってきたのだという。
 その後も兵士を増やし武器を強化させたが、オルガ王国の惨敗は続いた。
 そして占い師がその一匹が魔物を統制している魔王であり、魔王さえ倒せば、魔物の国などいままでと同じただの烏合の衆となると告げた。同時に魔王は強大な力を持っているため、今のオルガ王国の軍事力ではとても歯が立たないと告げた。
 その結果の勇者の召喚である。勇者はこの世界にない強大な力を持ってこの世界に召喚されるとされていたからだ。

「勇者、お前はなんのために戦っている?」

 問いに答えず逆に尋ねられる。

「人間が平和に暮らすためだ」
「人間の平和のためになぜ魔物を殺す」
「それは魔物が人間を襲うからだ」
「勇者、お前は魔物が先に人間を襲ったところをみたことがあるか?」
「えっ……」

 しかし俺はキッと魔王を睨むと。

「今日お前たちは人間の街を襲ったはずだ、荷馬車に沢山の魔物の子供が乗っていたのを見たぞ」

 あれは街で奴隷として使役されていた子供たちだろう。
 
「ならお前は仲間が、同胞の子供たちが奴隷としてひどい目に合わされていると知っていても、争いたくないから助けないというのだな」

 ウッと言葉につまる。

「ここの世界の魔物たちは、自ら人間を襲ったりしない、いやそんな知能も持っていないのだ。仮に魔物に襲われた人間がいたとするなら、それは先に人間がその魔物に手を出したに違いない」

 俺は魔王の言葉を否定できなかった。
 ここに来るまでになんとなく感じていたもの。森で凶悪な姿の魔物と遭遇しても魔物はすぐに襲い掛かってこようとはしなかった。ただ兵士が魔物に対し剣を向けた瞬間、魔物はその力を執行する。
 だから、俺は途中から同行していた兵士たちを国に帰し一人でここまでやって来たのだ。

「じゃあ、あの門番はなんだ?」

 武器を持ってこの国の入り口を固めている魔物の兵士たち。

「彼らは私が教育した。この国の魔物たちを人間から守るためには、そうするべきだと思ったからだ」

 そして魔王はさらに驚くべきことを話した。

「私はもともとこの世界の魔物ではない、違う世界の魔族だった。お前とは少し違うが、私は気が付いたらこの世界に飛ばされていた。そして私は知ったこの世界の魔物たちの扱われ方を」

 魔王は何かを思いだしたかのように、苦しそうな表情を浮かべた。

「私のもといた世界には人間などいなかった、色々な種族がいたがとても平和だった。でもこの世界では魔物は人間に訳も分からないまま殺され、使役されている。だから私が知恵を授け導いてやろうと思った」
「人間を滅ぼすためにか?」

 俺の言葉に魔王は驚いた表情を見せた。

「違う、私たちは誰も傷つけたくない、静かに暮らしたいだけだ。だから今船を出し人間のいない島がないか探している、もし島が見つかれば移住するつもりだ、ただその時まで、この国をこの世界で奴隷としてひどい目に合わされている同胞たちを少しでも救ってやりたい。この城の周りは人間が入ってこれないように私の魔力で塀を作り結界を張った。人間が奴隷たちを開放してくれるなら、わざわざ襲って助けたりもしない」

 真っすぐに俺の瞳を見詰めて話す魔王を俺は静かに見つめ返した。嘘はついていなかった。スキルでわかってしまう。
 魔王は本当にただ静かに魔物たちが幸せに暮らせることを願っているだけなのだ。

 俺はハァと嘆息した。

「実は俺も将来静かに田舎でのんびり暮らしたいんだよね」

 魔王がその意味を読み取れず小首を傾げる。

「魔物も結構可愛い子いるよね」

 街でみた魔物と人間のハーフの子供たち。
 
「この国って人間は移住禁止なの?」
「いや、危害を加えないと誓うなら……私はいつか人間たちともわかりあえたらいいと思っている」

 なんともお優しい魔王もいたものである。
 この国には汚れ仕事ができるものが必要だ。しかしそれはこの魔王ではない。

「俺って結構強いだろ」
「あぁ」

 実はこの魔王も相当の実力者だ。たぶん本気をだせばどちらが倒れるかなどわからないぐらい。寝首を襲ったつもりだったが、本当は剣を向けた時から体はピクリとも動けなくなっていたのだ、魔王に殺意があったならあそこでやられていたのは自分かもしれなかった。

「なら俺もこの国に移住させてくれよ、きっと役に立つから」

 魔王の顔がぱっと明るくなる。

「よかった。お前をどうやって口説こうか思案していたところだった」
「しかし島を探すより人間たちを滅ぼした方が早くないか?」

 俺の提案に魔王がブンブンと首を振る。

「わざわざ憎しみを生むことはない。人間たちも魔物が怖いものでないとわかれば自ずと交友を結んでくれるだろう」

 優しい、優しすぎる。でも嫌いじゃない。
 魔物と人間が仲良く暮らす世界。

 俺がこの世界に呼ばれた時のゴールは目の前で新たなスタートラインに変わった。
 遠すぎて見えないゴールテープ、でもきっとこのゴールの先に、俺は世界で一番素晴らしい景色が広がっている気がした。
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