【完結】二次元しか愛せないと言った彼女をおとすには

トト

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二次元しか愛せないと言った彼女をおとすには

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「見て! シルビア様本当に最高だから」

 彼女は僕にスマホ画面を向けてそう叫んだ。
 画面には、紫の髪に青い瞳で漫画に出てくるような騎士のような格好をした、見た目麗しい青年が映っていた。

「これはね、”騎士団長と王子様”っていうBL漫画のオリバー騎士団長のコスプレで」

 彼女は、僕にそう説明してくれた。

「もう、シルビア様のコスプレは本当に、どれも作品のイメージにぴったりで最高なの」
「あれ、2次元以外愛せなかったんじゃないの?」

 僕の指摘に、彼女は一瞬目を泳がしたが。

「そうだけど、そうだったけど。でも、でもねシルビア様は別! よく見てよこの、報われない愛、それでも王子に自分を見てもらいたい。そんな切なさが伝わってくるこの流し目を!」

 画面を拡大しながら、ぐいぐい押し付けてくる。

『ごめん。私、2次元しか愛せない』

 5年前、僕の告白をそう切り捨てた彼女。
 そう彼女はこよなくアニメや漫画のキャラクターを愛するオタク女子、それも腐女子と呼ばれる部類の。
 バイトで稼いだお金は全て、好きなキャラクターのグッズに変わり、そのキャラクターの誕生日にはもちろん誕生会を開いてお祝いする。
 そして隣に住む僕は、小さなころからそんな彼女の趣味に付き合わされた結果、すっかり腐男子になっていた。
 でもそれはそういったアニメや漫画が好きというだけで、恋愛対象はちゃんと女の子である、そしてお互いの趣味を理解し合い子供のころから一緒だった僕が彼女に恋心を抱かないわけがなかった、きっと彼女もそうに違いない、そう思っていたのに……。

「そんなに、シルビア様って格好いい?」

 それでもいまだに僕たちがこうして一緒にいるのは、同じ趣味を持つ同士であり、お互い大切な存在には変わりなかったからである。

「当たり前じゃない。あぁ、一度会って話してみたいな」
「会ったらがっかりするかもよ」
「そんなわけないわ!」
「だってアニメの実写化とかいつも文句タラタラじゃん」
「そうだけど、あれはあまりに原作のイメージと違ってたりするから。でもきっとシルビア様は違うわ。見てこの、細部にまでわたる再現力」

 騎士団の複雑な紋章や剣の装飾品、手の甲の傷跡。を見せながら力説する。

「これは深くその作品を読みこんだ者しか再現できないものよ。なによりこの表情。こんなのもうオリバー騎士団長そのままじゃない」

 王子をかばった時にできた手の傷を、まるで勲章のように誇らしげに見つめる彼の表情が好きだと彼女は言っていた。

「それにこの間一緒に見た、2.5次元の舞台はまあまあよかったし」

 さらに頬をピンク色に染めながら、口を尖らしながらそう付け加える。

「それにシルビア様の今までのコスプレ見てよ。”花と僕のキラ様”に”王子様に溺愛されるのハロルド様”。もう私の好きなキャラばかりなのよ、それもどれも私の好きなシーンばかり。これで気が合わないはずないわ」
「そうだね」

 2次元から2.5次元。

「次は……」
「えっ、なんか言った?」
「ううん。何も」

 うっとりとした顔で画面を見詰める彼女を眺めながら。
 次は、どのキャラクターになろうかな。僕はそんなことを考える。
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