セイレーンのガーディアン

桃華

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キズナとキオク

13.変わらない(テル)


「今日だなんて…早すぎるだろ」

ため息と共にひとり『待機室』で呟いた。
 国王が現れたのは、今朝一口も食べてないシュウの朝食を下げた時だった。いきなり休憩を言い渡されて「病室には近づかないように」と命令された。戸惑う俺とは違って、シュウは落ち着いていた。今日行われることを知っていて、俺に黙っていたようだ。

(そういう事を教えないところが、シュウらしい)

少し素直になったと思ったけれど、甘え下手なのは変わりない。

 国王から許可が下りるまでは、病室の隣にある『待機室』で待て。との命令だった。しかも病室の前には父さんが見張りとして立っている。俺が尋問中に冷静じゃ無くなるということを見越してのことだろう。しばらく待機室に一人にされてしまった。ベッドに横になってみたけれど、全く眠れないし、気が休まらない。

(何でを思い出すだけで取り乱すシュウを尋問するんだ?)

全く眠れていないシュウを知っている。それに、食事も取れていない。日に日に弱っていくシュウが不安で仕方ない。

(また、発作が起きたらどうするんだよ)

「…っ!眠れるわけないだろ!!」

頭の中でぐるぐると考えが浮かんでは消える。大声で叫ぶと徐に大剣を掴んだ。
 何かしてないと病室に押し入りそうで、とりあえず大剣の素振りを始めることにした。
 いつも通りのイメージトレーニング。剣を振るうと無心になれた。手の中で重量のある大剣を回して構える。テーマを決めながら、あらゆる攻撃を想定して避けながら剣を振るう。本気の演武を集中してやってみる。
 剣を振るう事に集中すると、忘れかけていた日常が戻って来た気がした。
 これが終わったら、いつも通りリウム達が「手合わせして下さい!」なんて言いながらやってくる。剣を振るうみんなを、少し離れた所からシュウが微笑ましいと言って見守っている…。
 まだ1週間も経っていないのに、遠い昔のように感じてしまう。そんな何気ない日常が。

(まだ終わらないのか?)

 額から流れる汗を拭うと時計を見た。シュウの尋問は思った以上に長引いているようだ。こんな長時間するつもりは無かったけれど、久しぶりに剣を振るったら、時間を忘れて集中できた。
 シャワーを浴びて着替え終わると、部屋の椅子に静かに誰かが座っていた。

(父さんにしては、背格好が小さ過ぎる)

「!!国王陛下!?」

ハッとして跪いた。この人はいつもいきなり現れる。

「こんな場所でも鍛錬を欠かさないなんて、僕が見込んだだけあるね」

 国王はいつもと変わらない余裕の微笑みを浮かべて話しを続けた。

「尋問と言っても、今日は僕が話を聞いただけ。まだシュウの精神状態が不安定だからね。テル君に要らない心配させてしまったかな?」

(本当の尋問じゃなかったのか)

 シュウのことを考えてくれているようで少し安心した。

「…シュウは大丈夫ですか?」

「思ったよりも弱ってるね。いつものシュウじゃなかったよ」

国王は苦笑いを浮かべている。

(当然だろ…あんなことされたんだから)

強がっているだけで、ずっと助けを求めていたシュウを知っている。「大丈夫だ」と自分に言い聞かせて、周りにも余裕に見せるのが得意なだけ。

「娘のことはテル君に任せるよ。僕より安心出来るみたいだ。頼りにしてるよ」

困った顔で微笑む国王に「任せてください」と返事した。

「陛下も大丈夫ですか?」

「君に心配されるようじゃ、僕もまだまだだね」

正しく休む暇もない。膨大な後処理に加えて、怪我人の治療(特にレイ)。まともな精神じゃやってられない状況だろう。そんな状況でも余裕を見せる国王陛下を心底尊敬する。

「大丈夫だよ。昼食の用意をして、そのままガイア君とシュウの護衛を交代するように」

そう言って慌ただしく部屋を出て行った。急いで昼食を取りに行くとシュウの病室へと向かった。父さんに交代を告げると、すぐさま病室に入った。

「シュウ!?」

 扉を開けて目に入ったのは、ベッドの上で苦しそうにうずくまるシュウの姿だった。膝を抱きながら荒い呼吸を繰り返し、体は小刻みに震えている。俺の声は全く届いていないようだった。
 驚かせ無いようにもう一度、今度はそばで優しく声をかけた。声に気付くとシュウは目を丸くしてこっちを見た。触れていいか聞くと小さく頷いてくれたから、そっと手を重ねた。触れた手は氷のように冷たい。
 しばらくすると、シュウの荒かった呼吸が整ってきた。青白い顔で額に汗を浮かべたまま「ありがとう」と言うシュウがもどかしくて、何も出来ない自分に余計腹が立った。
 サイドテーブルの上を片付けて昼食を置くと、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。すると今度は「休憩時間にごめん」と謝られてしまった。

(…出会ったときから変わらない…)

 あんなに酷い目にあって自分の方が辛いはずなのに、俺の身体を気遣う所とか。

「昼食持って来ただけ」

 そう言うとシュウは少し考えてから「後で食べる」と呟いて、ブランケットを引き寄せた。無理に微笑んで言う顔もあの時から変わらない。

(既視感しかない)

 次にすることも分かってしまう。きっとブランケットに潜り込んで「食欲ない」って言うんだろ?
 その前にゼリーの蓋を開けてシュウの手を引いた。

「ずっと食べて無いだろ?」

「ごめん…食欲無くて…」

(合ってた)

 こんな時なのに、出会った時と変わらないシュウに笑ってしまった。胸の中で不思議そうに見上げるシュウに、ごめんと謝った。

「…あの時に似すぎ」

 そう言ってもまだ気付いてないシュウにまた笑ってしまう。ゼリーを手に微笑みかけた。

「あの時みたいに口移しがいい?」

ちょっと意地悪してみた。やっと思い出したのか、シュウの顔がみるみる赤く染まっていく。シュウが無言で手にしていたゼリーを奪い取り、一気に飲み干した。

(絶対にブランケットを引き寄せる)

 思った通り、シュウは顔を隠そうとブランケットを引き寄せた。あの時と同じなんて笑っていると、シュウは顔を真っ赤にしながら固まっている。
 最近は見せなかった顔。照れてどうしようかと困っている顔。多分俺にしか見せたことのない表情。
 愛おしくて守りたくてシュウの頬に手を添えた。

「本当…シュウは何も変わらない。俺の好きなシュウのままだから」

そんなことを呟いた気がする。涙ぐみながら見つめ返すシュウが、そっと頬に触れた。
 一気に身体が熱を帯びてくる。久しぶりにシュウの方から触れてくれた。

「…キスしてもいい…?」

 なんてつい口をついて出てしまった。ヤバいと口を手で押さえたけれど、俺の予想とは違ってシュウは小さく頷いた。
 初めてするかのように、胸がうるさいくらいに高鳴る。軽いキスをして、シュウと目を合わせた。照れて微笑むシュウが強く指を絡めるから、可愛いくてもう一度唇を合わせた。

「顔色…良くなってきて良かった」

「うん…もう平気」

 何度もキスを繰り返した後に、不自然に立ち上がった。

(これ以上はまずい。理性が持たない)

「あー…スープも飲めそう?」

「飲めそう…かな?」

顔を赤くしながら視線を逸らして頷いた。二人して照れていることがおかしくて笑い合った。
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