くそったれな人生に、僕だけの歌を。

しののめ

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5.妹の推しとバンドマン崩れの現実

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投稿から1週間が経った。
律の“U-TUBE”チャンネルの動画再生数は——13回。
そのうちの5回は、自分で確認のために開いたものだった。

「……マジかよ。」

デスクの上に肘をついたまま、律は天井を見上げた。
コメント欄も、いいねも、何もない。
たった数分のインスト曲。タイトルは《untitled 01》。
録音機材とかも何もないスマホ直撮りなので
録音のノイズも、コード進行も、完璧とは言えない。
でも、誰か一人くらい“何か”を感じてくれてもいいと思っていた。

——現実は、静かすぎた。

「おい……おいおいおい、そんなはず……」
画面に向かってぼそぼそと呟いていた律は、
気づけば頭を抱えて机に突っ伏した。

「うわぁああああぁぁぁぁ!!!」

腹の底から、思わず声が漏れた。
悔しさと情けなさと、ちょっとした笑いの全部を混ぜた叫びだった。
その瞬間——

ダッダッダッ ドンッ!!

隣の部屋のドアが勢いよく開いた。

「ちょっと兄貴!! うるさいんだけど!!!」

パジャマ姿で、髪をぼさぼさにした妹、香菜かなが立っていた。
スマホを片手に、明らかに怒っている。

「は? 何だよ急に。」

「“何だよ”じゃないの! 今、透澄とすみアリアの配信見てたの!
イヤホン壊れてるからスピーカーで聞いてたのに、
あんたの叫び声でサビまるごと聞こえなかったんだけど!!!」

「……誰?」

「透澄アリア! 知らないの!? 音楽系Vシンガーで今めちゃくちゃ人気なの!
透き通る声で歌唱力がすごくて、ガチで“心が震える”って感じの人!」

律は目を瞬かせた。
「……透澄……アリア?」

「そう! 配信もライブも両方やってる。しかも、ちゃんと自分で作詞作曲してるの。
今日の配信、レアな視聴者リクエスト生歌コーナーだったのに、
兄貴の“うわぁぁぁ!!”で全部ぶっ壊れたんだよ!!」

「悪かったって……。」

香菜は両手を腰に当ててため息をつく。
「まじで頼むよ。推しの声、聞こえるわけないでしょ!あんな大声で!!」

「……推しの声って、そんなに大事?」

「当たり前でしょ。あの人の歌は、生きる糧なの!」

その言葉の熱量に、律は思わず黙った。
香菜の目は、ただの“ファン”のものじゃなかった。
本気で音楽に心を掴まれてる人の目だった。

香菜はふとスマホの画面を見下ろし、小さく呟く。
「……アリアさん、ほんとすごいんだよ。
画面越しなのに、息遣いまで伝わってくるみたいで。」

「……息遣い、ね。」

律は、その言葉を頭の中で何度も転がした。

香菜は律の表情に気づくと、ちょっとだけトーンを落として言った。
「兄貴だって音楽やってたんでしょ? だったら一回聞いてみなよ。
“自分の世界だけに酔ってる音”とは、違うから。」

そう言い残して、香菜はドアをバタンと閉めた。

部屋に、再び静寂が戻る。
モニターの明かりが律の顔を照らしている。
画面の右下には、「視聴回数:14回」に変わった数字。

「……お前だろ、見たの。」

律は苦笑して、そっとため息をついた。
でも、その目の奥には、確かに光が宿っていた。

「透澄アリア、か……」

その名前を静かに反芻はんすうする。
——それが、次の扉の音だった。
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