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55 side テリー

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 妹と学校から帰宅すると、姉さんが魔力切れで倒れたと聞かされた。もうこれで何度目だろう。姉さんは何時も一人で無理して倒れる。そして、目を覚ますと自分の力不足を責めて鍛練を繰り返す。そうやって強くなった姉さんはいまだに一人で無理をしている。




 姉さんが眠ってからもう半年。こんなに長い間、寝ている姉さんは初めてだった。夜中に容態が急変しても対応出来る様にって言って、団長さんの部屋に寝かされているけどそろそろ限界だと思う。団長さんの顔色が悪いから寝ていない様な気がする。
 だから僕達は決めたんだ。もうここを出て行こうって。そして、その話を団長さんに直接伝えたんだけど…………団長さんは、どうして引き留めているんだろう。

「えっと、理由を聞いても良いですか?」

 姉さんがギルマスに頼んでいたのもあって、壊れた家は以前と同じ間取りで新しく建ったし、僕の訓練も来月から城内訓練場で他の騎士団候補生と一緒にする事が決まった。もう僕達がここに残る理由は無くなったんだけど……

「先ずはルーシーの容態の確認の為にドラゴンが来ているんだ」

「へ?ど、ドラゴン!?いつの間に」

 団長さんは困った様に眉を下げて頭を掻きながら、姉さんが眠ってしまった伯父の暴挙の話をした。
 伯父は力が欲しくて危ない魔法道具に手を出し、今は枯れ木の様に細い体で城内の牢屋にいるらしい。その危ない魔法道具を解明する為だけに生かされている伯父は、毎日、祖父や父。そして、姉さんに謝っているらしい。今更、謝られても姉さんは起きないのに。

「その魔法道具を止める時に一緒にいたドラゴンで、彼女に友人でもある。普通の家にドラゴンが行って元の姿に戻ると問題がある」

 団長さんの言葉を聞いて頭に浮かんだのは、壊れた家の真ん中に座るドラゴンの姿。今は番って言う魔術師さんの影響で人の姿だけど詳しい事が分かっていないから、何時、元の姿に戻るか分からないらしい。そ、それは問題だけど……

「もう一つは個人的な理由なんだが……ルーシーと結婚したいと考えている。彼女から返事待ちなんだ」

 耳を赤くした団長さんの口から聞こえた言葉に目が点になる。お世辞にも可愛いとは言えない、気が強く姉御肌の姉さんが好きなんですか?しかも結婚したいって……

「本気ですか?」

 真っ先に出た言葉はその一言。だってこの人は貴族で騎士団の団長で、正直な話、相手は選り取り見取り。わざわざ一般市民の姉さんを選ぶ必要はない。
 噂で顔が怖いとか、魔力のせいで人が逃げるとか聞いたけど話をすればそれは半分は嘘だと分かった。確かに魔力が強いから圧を感じるけど逃げる程じゃないよね。

「本気だ。俺は騎士団を辞め、騎士団候補生の講師になる」

 は?辞める?団長を?花形の仕事を辞めて裏方に回る?何言ってんのこの人は……

「以前から考えてはいたんだ。今回の事件がきっかけで、騎士団の在り方にも問題が発覚した」

 どうやら伯父の監視をしていた部隊には実力の乏しい人が多かったらしい。適正があっても鍛練しなければ腕は落ちるし意味がない。最初は鍛練をしていた彼等だが、大きな事件や魔物の襲撃が無い事から鍛練をサボり、その結果、伯父の逃亡を阻止出来なかった。

「鍛練を怠った者達は候補生からやり直しになった」

 一度、上に上がってから最下位からやり直しって、教官の話を素直に聞くとは思え……まさか。

「彼等も僕と同じ訓練をするんですか?」

「そうだ。ただの候補生として基礎からやり直しだ。その為にも俺が行かなければならない」

 確かに元とはいえ団長だった人と一般団員だった人とでは力の差は必然。それは文句も言えないよね……凄い事になりそうだけど、姉さんと何の関係があるのかなぁ?

「俺はルーシーに助けられてばかりで、守る事が出来なかった。だから自分自身も一から鍛えなおしたい」

「姉さんは、助けたつもりも守ったつもりもないと思います。あの人は直感で動く人だから」

 苦笑いしながらそう言うと、団長さんも笑いながら頷いた。

「まぁ、グダグダと理由を並べてはいるが、俺が離れたくないんだ。せめて、彼女が目を覚ますまでは見守らせて欲しい」

 真っ直ぐに僕を見詰める深い緑の目に強い意思を感じる。まさか僕の方が説得されるなんて思いもしなかった。……確かに団長さんを逃がすと姉さんの結婚は厳しいよね。このチャンスは逃がしちゃダメだよね。

「分かりました。もう暫くここに残ります。でも、一つだけお願いがあります」

「願い?」

「姉さんに仕事を辞めさせないで下さい。治療師の仕事が大好きだから目を覚ましても、結婚しても姉さんは続けたいはずだから」

  団長さんから息を飲む声が聞こえた後、大きくハッキリと頷いた。団長さんは今、後任の人への引き継ぎと、候補生の訓練内容の見直しに忙しくて寝不足らしい。姉さんの看病が原因でないから気にするなと言う。それは無理な話だよ。

「せめ夕食後の数時間で良いので僕達がみますから休んで下さい。そんな顔見たら姉さんが怒りますよ」

「……そうだな。そうさせて貰うよ」

 苦笑いを浮かべた団長さんはありがとうと一言残して仕事に戻った。部屋に残っていた僕は椅子に背中を預けて顔を上に向けて息を吐き出した。

「そっか……姉さんが結婚か……」

 言葉にすると改めて団長さんは本気なんだと実感する。返事待ちなんて言ってたけど、団長さんは絶対に逃がさない気がするんだよね。姉さんは素直じゃないから大変だろうけどね。

「お兄ちゃん、お話はどうだった?」

 ドアの隙間から顔だけ出した妹を手招きして呼び寄せる。ここに残りたかった妹にとって良い報せを伝えながら、全力で逃げる姉さんを全力で追い掛ける団長さんの姿が頭の中を掠めた。



…………団長さん、頑張ってね。

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