婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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龍人の村編

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 ミューが猫の姿になろうが日々やるとこは変わらない。契約の維持の為に魔力を常に使うから逆に訓練は順調で、他にも勉強がしたいと考えてソフィア様に伝えたら分厚い本を渡された。

「ソフィア様、これは?」

「ルナには有り余る魔力がある。じいさんがくれた逆鱗もあるんだ。装具や魔法補助具を作れば良いさ」

 雪深い村ではこの時期はほぼ家に隠って、刺繍や編み物に工芸品や武器・装具を作ったりするらしい。何処の家でも一通り道具も揃っていて何でも出来ると言われたけど……

 この本……教科書より分厚いですが、これを先ず読めと?読むだけで何日掛かるか分からない。それに急に装備とか補助具と言われても、何から手をつけて良いか思いつかなかった。

「どうせ外には出りゃしないんだ。ゆっくり読みな」

 ソフィア様の言葉につられて自然と窓の外に視線を向けると、真っ白な雪だけの世界。雪の壁しか見えない中、リュカ様は二階の窓から外に出て素振りをしている。確かに私が外に出れば雪に埋まる姿しか想像できないしソフィア様の言う通りね。
 そう考えた私は、暖炉の前の椅子に座り本を読み始め、ミューは足元で丸くなる。私が本を読み始めるとソフィア様はソファーに座り装具の点検を始めた。


 本を読みながら、ゆったりとした時間が流れる日々。翁さんから貰った逆鱗は魔法補助の杖にする事に決めた。ソフィア様に何度も相談したり、リュカ様に意見を出して貰ったりしながらやっと杖が完成した時には、この村で過ごす時間も残り少なくなっていた。

「あと、二ヶ月で帰るのかぁ。早いですね」

「なに若い娘が年寄り臭いこと言ってんだい」

 ソフィア様に呆れた表情で完成した杖をチェックしている。杖をそのまま持つと目立つから、ミューとお揃いの黒いリボンに銀のチャームが付いたチョーカーとして身に付けられる様にした。

「悪くないね。目立たないしミューと契約している目印にもなる」

「お洒落だな」

 完成しチョーカーを眺めるリュカ様は、私の真後ろから覗き込んでいる。顔の真横にある顔に驚いて仰け反ると、ソフィア様がリュカ様に拳骨を落とした。

「女心の分からない脳筋は黙りな」

 これも恒例となっているリュカ様へのダメ出し。距離感が可笑しいリュカ様は、ソフィア様に毎回拳骨を落とされている。時々、リュカ様が拳骨を避けるとソフィア様は更に怒って魔法で拘束してからのお説教になる。リュカ様は頭を押さえながらソフィア様のお叱りを黙って聞いているけど、男兄弟の中で育ったせいか本人の性格のせいか一向に治る気配はなくこの光景はまだまだ続きそう。

「ルナ嬢、すまなかった」

「謝罪は受け入れますが気をつけないと頭のたん瘤消えなくなりますよ」

「うっ……ぜ、善処する」

「善処じゃない止めろと言ってんだよ!本当に脳筋がぁ!!」

 ゴンと豪快な音が部屋に響き再び頭を抑えて蹲るリュカ様を見てミューがクスクスと笑っている。涙目のリュカ様は不貞腐れた様子で部屋の角に置かれた椅子に座って、頭を冷やし始めた。リュカ様が余りにも痛そうで近づいて回復魔法をかけると、苦笑いしながらお礼を言った。

 レア素材のドラゴンの逆鱗を使った杖のお陰で、攻撃魔法のコントロールも上達しダミー人形に必ず当たる様になった頃には雪も溶けて学園に戻るまで残り一週間。荷造りをしていると思っていたより小物が増えている事に気付いた。
 帰る時に大変だからお兄様へのお土産以外、何も買わなかったはずなのにリュカ様から貰ったアクセサリーがこんなに増えているわ。……いくらお詫びだと言われても、これは貰い過ぎね。どうしたら止めてくれるかしら。そんな事を考えている時、ドアをノックする音が聞こえて返事をするとドアの隙間からリュカ様が顔を覗かせる。何故か部屋に入ろうとしない彼に首を傾げていると、ゆっくりとソフィア様に怒られた事を話し始めた。

「その……婆さんが物を贈り過ぎると相手は困るから止めろと……」

 困った様な泣きそうな何とも情けない表情を浮かべるリュカ様は、私が困ってないか好みとかけ離れていないか気になってしまったらしく確認に来た様だ。私より歳上なのに叱られた子犬の様に見えてしまうから不思議。私が何も言わないから不安になったのかリュカ様の顔色が悪くなってしまった。

「そうですね。頂いた物は、やはり数が多いので今後は控えて頂けると助かります」

「いや、しかし何とお詫びしたら」

「お詫びなら“ごめんなさい”の一言で良いじゃないですか。それでも気になるのでしたら切り花を一輪下さい」

「一輪だけで良いのか?」

“一輪の花”と聞いて目を丸くするリュカ様はまるで少年の様に幼く見える。

「私を思って選んで下さった物ですから何でも良いんです。でも、これは金額的にも私の方が気になるので止めて欲しいです」

 そう言ってアクセサリーが入った箱を指すと、改めてその数を見て贈った本人が黙り込んでいる。この顔は金額とか数とか考えていなかったわね。そりゃ、ソフィア様も怒るはずだわ。

「……あー、そこまで考えが及ばなかった」

 決まり悪そうに頭を掻くリュカ様は気さくな方だから忘れてしまいそうになるけど、騎士団の小隊長を任されている方。本来ならしがない学生の私とは接点のない大人だから金銭感覚も違う。学生に不相応なアクセサリーは成人するまで日の目を見ることは無さそうだわ。

 こうして魔法が使えない“ポンコツ魔法使い”と呼ばれていた事を忘れるくらい穏やかな日々は終わり学園に戻る日がやってきた。
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