婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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学園復帰編

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 ソフィア様の部屋の作業台を借りて魔石を固定する。サリーナ先生と一緒に魔石を作ったのは十年も前の事で、今更だけど失敗できない状況にプレッシャーを感じながら魔石と向き合う様に座る。

えーと、石の中の結晶が平らな部分を探して……魔法陣は自分の血に魔力を流しながら刻む。

 頭の中で加工工程を改めて確認してから、深呼吸をして心を落ちつかせようとしたけどゾクっと全身に悪寒が走った。病気で熱が上がる前の寒気とは違って言い表せない恐怖を近くに感じて、思わず周囲に視線を向けて安全を確認していた。何もないわよね?結界の中のはずだし……

「ルナ?」

 ソフィア様の声が膜を隔てた様に遠くから聞こえ、無意識に震える自分の体を両手で押さえていると、急にソフィア様が私の左手を掴んだ。

「……血が滲んでいるじゃないか」

「え?」

 ソフィア様に言われて左手を見ると、呪具の痕がついている場所から血が滲んで赤く染まっていた。あれ?……痛くはないけど何時怪我したのかしら?

「怪我じゃない……魔女の血かねぇ」

 ボソッと呟いたソフィア様は、作業台の上にある棚から小さなビンを取り出すと聞きなれない言葉を口にした。

「∅∌℘℘∂∥∫⊆」

 言葉の後に私の左手が光ると滲んでいた血がビンの中に吸い込まれる様に入っていく。指に滲んだ赤い物が全てビンの中に入ると蓋を閉めた後、紙に見た事のない魔法陣を書いて蓋に貼り付けた。貼り付けた紙が淡く光った後、蓋に隙間がなくなり密着した。

「……これは生き物ですか?」

 ソフィア様が手に持つビンの中に閉じ込められた赤い物は、中でウネウネと動いてスライムみたい。このウネウネと動いている物が私の指に貼り付いていたかと思うと気持ち悪くて、気持ち悪くて今すぐ手を洗いたくなった。

「おそらく呪具に使われた魔女の血だろうね」

 その言葉から始まったソフィア様の話の内容は、私の指に残っていた痕は魔女の魔法陣だったらしいって事。その大きさから追跡か盗聴ではないかと推測出来たけど、下手に解除して魔女に気付かれても何をするか分からないから、そのままにしていたと言われて納得した。

「黙ってて悪かったね。前のルナならパニックになるか迷惑を掛けるとか言って黙って出て行くと思ったから話せなかったのさ」

 ソフィア様の言葉を否定出来ない私は黙って首を横に振った。今でも申し訳ない気持ちだけど、眠る前の私なら誰にも助けを求めず逃げたと思うし、今ならそんな事をしたら魔女に囚われていたのだろうと分かる。でも、一年も経った今頃、どうして出てきたのかしら?

「おそらく遮断の結界で魔女と繋がりが切れたんだろうね」

 遮断されて魔力の供給が無くなった事が原因で、魔法陣を維持出来なくなった可能性に気付く。魔石の魔法陣を刻んで使えるのは石の魔力で魔法陣を維持するから。逆に魔力がなくなれば、魔法陣は消えるだけ。呪具の魔法陣も同じなのかもしれないわね。

「これは封印の魔法陣。悪さしないから安心しな」

 ソフィア様の言葉を聞いてやっと肩の力が抜ける。いつの間にか悪寒は治まり恐怖も消えていた。原因は魔女の血だったのか?もう大丈夫そう。

「さぁ、作業に戻って考えなしの脳筋を起こしてやってくれ」

 ソフィア様に促され再び作業台に座った私は、深呼吸して気持ちを落ちつかせると指先に針を刺して少しだけ血を出した。
魔石にだけ集中して正確性重視で、ゆっくりと魔法陣を刻む。目の前の魔石が赤く光ながら少しずつ魔法陣を飲み込んでいった。




「……終わりました」

 その一言と共に顔を上げるとソフィア様も大きく頷いてくれたので、成功しているはず。あとはリュカ様の手に握らせて……うん?

「ソフィア様、今更ですけど一つ質問しても良いですか?」

「なんだい」

「リュカ様は、どうやって私から魔女の魔力だけを取り出したのですか?」

 本当に今更だし時間もないけど、"リュカ様に出来たならソフィア様も出来るのでは?"そんな疑問から出た言葉を聞いたソフィア様が、苦虫を十匹くらい噛み潰したよう渋い表情を見せた。

「それはリュカにしか出来ない。起きたらあのバカに説明させるから待ちな」

「はぁ、はい」

 何となくこれ以上聞いても答えてくれない気がして、私は了承すると疑問を頭のスミに追いやった。


今は早くリュカ様を助けなくっちゃ。

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