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学園復帰編
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ポロポロと涙が止まらなくなった私を見て、リュカ様が慌てた様子で目の前に来てハンカチを顔に押し付けてきた。あぁ、良かった。ちゃんと元気になった……
「大丈夫か?何処か怪我でもしたのか?それとも試験に失敗したのか?」
「違いますよ。上級試験は合格です。リュカが心配だったのではないですか?安心したのでしょう」
アラン先生の言葉に同意する為に首を縦に振るだけで声が出せない。涙が止まらなくて自分でも困惑していると、リュカ様の手が私の頭を優しく撫でるから余計に止まらなかった。やっと涙が止まった頃、遅れて来たソフィア様はカイト団長と一緒にだった。
「確認したい事があるから卒業試験のついでに、リュカに回復魔法をかけてやっておくれ」
「それは大丈夫ですが、急にどうしたのですか?」
リュカ様が目を覚めして直ぐに回復魔法を使う事を止めたのはソフィア様だった。以前、魔力の量を間違えて全回復してしまったから、失敗した時の事を考えて止めたと勝手に考えていた私はキョトンとしていた。
「リュカの意識もハッキリしたし、ルナの魔力も回復したからね」
ソフィア様は私の回復を待っていただけで、私の事とは別の理由もあると言い出した。
「私とリュカは魔力の相性っていうのかね、回復魔法の効きが悪いんだよ」
ソフィア様が気づいたのは偶然だったらしい。左腕に酷い傷を負って帰って来たリュカ様に、魔法を使ったけど回復に時間が掛かった。
「僅かな時間の差さ。その僅かが致命的な傷を残す事もあるからねぇ……リュカの古傷はそれが原因なんだよ」
"古傷"と聞いて首を傾げた私にソフィア様は苦笑いしながら、村に来て直ぐに回復魔法に失敗した時の事を話し始め、偶然だけど古傷を私が治したのだとか。あ!確か魔力の量が多すぎって叱られたあの時の事か!
「失敗したから偶然、治っただけだと思っていました」
「まぁ、失敗したで間違っちゃいないね。回復が全回復になるんだから他の人間にゃ出来やしないよ」
話を聞いたカイト団長の呆れたような残念な物を見るような視線が痛くて、私は食事に集中して誤魔化した。リュカ様はソフィア様特製の不味い薬湯を飲まなくて済むなら回復方法は何でも良いらしい。
その後も、どの魔法をやるのか話していると休憩も終わり試験の時間。実技室に戻ると見学席は空のまま静かな部屋で試験を開始した。
回復魔法は試験立ち合いの講師がリュカ様の現在の状態と、私が状態確認して魔法を掛けた後の状態を確認する事で合否が決まる。他に二人以上魔法を掛けないと試験にならないから、カイト団長と立ち合い講師とは別の座学講師の一人にも魔法を掛ける事に決まった。
「先ずは私から」
そう言って講師の先生が前に出てきた。この座学講師は元ギルド幹部なんて噂がある。偶然、お腹に大きな傷痕を見た生徒が言い出したらしいけど、手を握って魔力を流し状態を確認すると内臓に損傷痕と骨折した右足に変形があった。
「内臓損傷による機能低下と右足、骨折痕に変形があります」
「はい、どの魔法を使いますか?」
立ち合い講師の確認は関係ない魔法を使って悪化させない為の予防策でもあるとか。中級の回復魔法の一つ『体内再生』を選択して講師に魔法を掛けると、講師が目を丸くしながら右足に視線を向けた。
「ニールセン君、凄いな。違和感がなくなり痛みが消えた」
「確認します」
立ち合い講師が確認すると内臓と骨の変形は回復して機能も元通り問題なしのお墨付きを貰った。雨の日には古傷が痛んで辛かったから助かったと最後には笑顔でお礼を言われ嬉しくなる。
誰かの役に立てる。
必要として貰えてる。
単純な事だけど、私は魔法で困っている人を助けたくて魔法の練習を始めた幼い頃の自分が
『やっと思い出してくれたのね』
そう言って笑って手を振っている気がして自然と笑みが溢れた。
「次は私か」
続けてカイト団長は、背中にあった傷痕を消す為の『表皮回復』。表皮回復はその名の通り皮膚の回復をする魔法。回復はただやれば良いって訳じゃないから難しいけど私は好きだわ。だって目の前で回復した誰かの笑顔が見れるもの。
カイト団長の回復も終わり最後にリュカ様。手を握って確認すると、体力低下と魔力量低下がハッキリみえた。二つが低下すると全身の不調に繋がるからかな?他にも視力以外の不調があるわ。私の替わりに魔女の魔力を受けたから……私のせいで……
『全回復』
間違えた前回と同じようにリュカ様の足元に魔法陣が広がり白銀の光が全身を包み込んで消えた。目を閉じていた彼がゆっくり目を開けると、少し驚いたような表情で自分の手を見詰めていた。
「どうですか?」
「……凄いな。身体に残っていた違和感も霞んでいた視界も全て治った」
驚いているリュカ様の体調を立ち合い講師も確認して、一番心配だった回復の試験は無事に終了した。攻撃と防御の試験も難なく終わり……
「卒業試験、合格です。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
長く辛い事も多かった学園生活もこれでお仕舞い。中途半端だから卒業式はないけど、後日、お城で国王陛下から直々に卒業証書の授与があるとか。
えっと……今、卒業証書を貰っちゃダメですか?……ダメ?陛下が迷惑掛けたお詫びがしたいって言ってる?
緊張するし大袈裟だから辞退したいと言ったけど、お城で訓練する時に絶対、陛下に会わなきゃダメだった。
はぁ……今から胃が痛いです。
「大丈夫か?何処か怪我でもしたのか?それとも試験に失敗したのか?」
「違いますよ。上級試験は合格です。リュカが心配だったのではないですか?安心したのでしょう」
アラン先生の言葉に同意する為に首を縦に振るだけで声が出せない。涙が止まらなくて自分でも困惑していると、リュカ様の手が私の頭を優しく撫でるから余計に止まらなかった。やっと涙が止まった頃、遅れて来たソフィア様はカイト団長と一緒にだった。
「確認したい事があるから卒業試験のついでに、リュカに回復魔法をかけてやっておくれ」
「それは大丈夫ですが、急にどうしたのですか?」
リュカ様が目を覚めして直ぐに回復魔法を使う事を止めたのはソフィア様だった。以前、魔力の量を間違えて全回復してしまったから、失敗した時の事を考えて止めたと勝手に考えていた私はキョトンとしていた。
「リュカの意識もハッキリしたし、ルナの魔力も回復したからね」
ソフィア様は私の回復を待っていただけで、私の事とは別の理由もあると言い出した。
「私とリュカは魔力の相性っていうのかね、回復魔法の効きが悪いんだよ」
ソフィア様が気づいたのは偶然だったらしい。左腕に酷い傷を負って帰って来たリュカ様に、魔法を使ったけど回復に時間が掛かった。
「僅かな時間の差さ。その僅かが致命的な傷を残す事もあるからねぇ……リュカの古傷はそれが原因なんだよ」
"古傷"と聞いて首を傾げた私にソフィア様は苦笑いしながら、村に来て直ぐに回復魔法に失敗した時の事を話し始め、偶然だけど古傷を私が治したのだとか。あ!確か魔力の量が多すぎって叱られたあの時の事か!
「失敗したから偶然、治っただけだと思っていました」
「まぁ、失敗したで間違っちゃいないね。回復が全回復になるんだから他の人間にゃ出来やしないよ」
話を聞いたカイト団長の呆れたような残念な物を見るような視線が痛くて、私は食事に集中して誤魔化した。リュカ様はソフィア様特製の不味い薬湯を飲まなくて済むなら回復方法は何でも良いらしい。
その後も、どの魔法をやるのか話していると休憩も終わり試験の時間。実技室に戻ると見学席は空のまま静かな部屋で試験を開始した。
回復魔法は試験立ち合いの講師がリュカ様の現在の状態と、私が状態確認して魔法を掛けた後の状態を確認する事で合否が決まる。他に二人以上魔法を掛けないと試験にならないから、カイト団長と立ち合い講師とは別の座学講師の一人にも魔法を掛ける事に決まった。
「先ずは私から」
そう言って講師の先生が前に出てきた。この座学講師は元ギルド幹部なんて噂がある。偶然、お腹に大きな傷痕を見た生徒が言い出したらしいけど、手を握って魔力を流し状態を確認すると内臓に損傷痕と骨折した右足に変形があった。
「内臓損傷による機能低下と右足、骨折痕に変形があります」
「はい、どの魔法を使いますか?」
立ち合い講師の確認は関係ない魔法を使って悪化させない為の予防策でもあるとか。中級の回復魔法の一つ『体内再生』を選択して講師に魔法を掛けると、講師が目を丸くしながら右足に視線を向けた。
「ニールセン君、凄いな。違和感がなくなり痛みが消えた」
「確認します」
立ち合い講師が確認すると内臓と骨の変形は回復して機能も元通り問題なしのお墨付きを貰った。雨の日には古傷が痛んで辛かったから助かったと最後には笑顔でお礼を言われ嬉しくなる。
誰かの役に立てる。
必要として貰えてる。
単純な事だけど、私は魔法で困っている人を助けたくて魔法の練習を始めた幼い頃の自分が
『やっと思い出してくれたのね』
そう言って笑って手を振っている気がして自然と笑みが溢れた。
「次は私か」
続けてカイト団長は、背中にあった傷痕を消す為の『表皮回復』。表皮回復はその名の通り皮膚の回復をする魔法。回復はただやれば良いって訳じゃないから難しいけど私は好きだわ。だって目の前で回復した誰かの笑顔が見れるもの。
カイト団長の回復も終わり最後にリュカ様。手を握って確認すると、体力低下と魔力量低下がハッキリみえた。二つが低下すると全身の不調に繋がるからかな?他にも視力以外の不調があるわ。私の替わりに魔女の魔力を受けたから……私のせいで……
『全回復』
間違えた前回と同じようにリュカ様の足元に魔法陣が広がり白銀の光が全身を包み込んで消えた。目を閉じていた彼がゆっくり目を開けると、少し驚いたような表情で自分の手を見詰めていた。
「どうですか?」
「……凄いな。身体に残っていた違和感も霞んでいた視界も全て治った」
驚いているリュカ様の体調を立ち合い講師も確認して、一番心配だった回復の試験は無事に終了した。攻撃と防御の試験も難なく終わり……
「卒業試験、合格です。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
長く辛い事も多かった学園生活もこれでお仕舞い。中途半端だから卒業式はないけど、後日、お城で国王陛下から直々に卒業証書の授与があるとか。
えっと……今、卒業証書を貰っちゃダメですか?……ダメ?陛下が迷惑掛けたお詫びがしたいって言ってる?
緊張するし大袈裟だから辞退したいと言ったけど、お城で訓練する時に絶対、陛下に会わなきゃダメだった。
はぁ……今から胃が痛いです。
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