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魔物と魔女編
2 side ソフィア
しおりを挟む「私はノリスに話がある。負傷者も気になるからお前達は先に見てきておくれ」
「分かりました。瘴気やられと怪我の回復ですね」
「あぁ、それ以外にも気づいた事があれば後で教えておくれ」
「はい」
ここに来てから騎士やノリスの態度に違和感を感じて二人を部屋から出るように促した。実際、負傷者が気になるのも事実。違和感を感じることなく部屋を出て行った二人が、廊下の角を曲がった所でノリスに向き直った。
「さて、二人には聞かせたくない事を話して貰おうか」
「……参りましたよ」
やっぱり何か隠していたようだね。部屋の奥の棚から一冊の紙束を取り出すと、私の前に広げて見せた。
「最近、変な噂が街に広がっています……龍人と交わると桁外れの魔力を手に入れるという内容です」
「噂の元はなんだい?」
「それが全く分からないんです。何処の誰から聞いた確認すると全員が覚えていないというのです」
「ドラゴンじゃなくて龍人ねぇ……」
しかも"交わる"とは何を指しているんだか……血肉を食べる?それとも身体を繋げるとでも?後者なら気持ち悪い話だよ。差し出された紙には魔物の目撃情報とは関係ない地域にまで噂は広がっている事が確認されたと書いてあった。
「リュカが龍人だというのは騎士団に関わる者なら皆、知っています。弟子の娘より心配ですね」
ノリスの話によると噂が聞こえ始めたのは約半年前。その頃っていうと私達は村に居た……ワーウルフの群れを見つけたのは何時だい?あの時、リュカは消えた魔物の死体に変な窪みがあったと言ったね。確か……リーダー格。
「目撃された魔物の群れにリーダーは居たかい?」
「大きな個体が確認されてます」
「その個体の身体に何か付いていなかったかい?」
「身体?そんな報告はありませんが、近くで見ていないので断言は出来ません」
目撃される魔物は日に日に数を増やし、いつの間にかリーダー格と思わせる大きな個体が群れの中央に現れる様になってらしい。しかし、警戒心が強いのかリーダーだけは人間に近づかないという。まるで意思を持っているかの様な行動と統率性。
「魔女しかいないね」
「魔女」
魔女と聞いて不思議そうに首を傾げるノリスには悪いが、私が想定していた最悪の事態になりそうな予感がした。
「ドラゴンから聞いたんだが魔女は魔石に魔力を込めれば魔物を操れるらしいんだよ」
「は?そんな話初めて聞きましたが……」
「私だって最近まで知らなかったさ。魔女は大昔にドラゴンで試したんだと。それが切っ掛けでドラゴンの住む場所から永遠に追い出されたそうだ」
「……なんとも凄い話だ……最早、人間では相手しきれませんよ」
「だから私達が来たんだろうが」
そう人間だけでは対処はまず無理。氷の魔女は二百年程生きている元龍人であり魔人となった闇に呑まれし者。
「隠居したとはいえ私は大魔法使いを名乗る者だよ」
「いや、しかし弟子が娘は人間じゃないですか!」
「あの娘の事情は何処まで聞いているかい?」
「呪具の影響で魔力が異常に多いと」
ルナの事情をほぼ知らないノリスに、口止めの契約魔法を掛ける事を条件に全てを話す事にした。魔女の件が片付くまでは、下手に話を広げる訳にはいなかいからねぇ。
「呪具の影響で人間の身体には収まりきれない程の魔力があるんだよ」
「は?収まりきれない?どういう意味ですか?」
「契約者がいただろう。常に契約で魔力を使い、更に食事変わりに魔力を与えてもまだ有り余る」
魔法に詳しくないノリスは混乱している様子だが、あの娘の魔力はいまだ増え続けている。あと半年後の誕生日を迎えるまでは、増える可能性があるから本当に厄介だよ。
「あの娘はね魔力を使い続けないと命に関わるんだよ。私と同じ位の魔力になってしまったんだよ」
「龍人の貴女と同じ?人間で?そんな馬鹿な」
「だからドラゴンと契約したのさ。そして、魔女の後継者として狙われている」
「な!?……団長は知っているんだよな?」
ノリスの質問に頷いて肯定すると、ドサッと大きな音と共に椅子に座り込んだ。混乱するのも無理はないだろうね。魔物の急増ってだけでも厄介なのに最早、世界共通の敵と認識されている魔女まで出てきたからねぇ。
「ほれ、頑張れ脳筋ども」
「……無茶言わんで下さいよ大魔法使い殿」
「警戒心の強い魔女の事だ直ぐには何もしないさ」
「警備計画の見直しから始めましょう」
疲れた表情で新しい地図を出すノリスは、明らかに肩を落としていた。
これからだって時に、湿気た顔してんじゃないよ!
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