山椒魚

らくがき猫

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演じることは尊いと。またはよく見せたいという飾り。

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オカルト好きの警察に巻き込まれたことの話だ
彼はオカルト的な体験をしたいという理由で警察になったという色々と発想がよくわからないやつだ。
だが、理由はそうあれそれなりに優しいため子供たちにはよく懐かれるようだ。
そんなある日迷子の子供を見つけて親元に送り届けたという相談を受けた。


いつも来る飲み屋の奥の座敷で夕食を取りながら話を聞く。
「全額出すから相談に乗ってほしいって、親のところに連れて行ったのなら問題解決。相談することなんてないとおもうのだけど?」
「迷子は解決したんだけど別の問題を見つけた。その子の両親が子供を怖がっている。」
普通は逆ではないか、と。
「逆でしょ?子供が怖がってるって相談にきたの。それで虐待かどうか知りたいってことか。」
見たことないお酒だがとてもおいしいので、どんどん飲めてしまうお酒を飲みながら話は進む。
「違うんだ。両親が子供が動くたびに不安げに子供をちらちらとみるんだ。」
彼が言うには、子供を両親のもとに届けてほかの迷子の子供たちを送り届けた時のようにお礼を言われていたのだが、その最中もずっと子供の機嫌を窺うような妙な動きばかりで、こちらの言葉もほとんど聞いていないかの様子だったらしい。
暴力的な子供だったりするとそういう親もいるらしいが、どうもその子供は物静かで暴力的な物とは無縁に思われたため思わずどうしたのかと聞いてみたそうだ。
硬い表情をした彼が言うには親が躊躇いがちに話したことによると、この子供は人の心が読める、と。


「妖怪覚(さとり)」
思わず口から出る。それを聞いた彼は軽くうなづくような動作をする。
人の心を読むという妖怪がいるという。
それは人の心を読み、すべて当てて相手が動揺して隙を見せた時に襲い掛かると言われる妖怪だ。
だが、それはあくまで空想上のものであり妖怪の話だ。
子供に向かって妖怪と言っては失礼すぎた。
「ごめん、妖怪と一緒にするのは失礼すぎた。人間ならエスパーとかそういう部類か。」
慌てて訂正するが彼は硬い表情のまま続ける。
「自分もそう表現するべきだと思うんだが、どうにも両親が言うには妖怪だと。」
そこまで彼は言葉を綴った後、すこし躊躇うようにしているため代わりに続きを言ってみる。
「そして両親はその妖怪が怖いという事?」
硬い表情のままこちらを見た後少し困ったような表情をみせてまた口を開く。
「正確には妖怪がとりついてるんじゃないかって。そこまで聞いてしまったせいか、両親に何とかならないかって相談されてしまってね。」
この後は、いつもの少し笑っているような子供たちに好かれているというか、子供たちに混ざっていても違和感のない笑顔になる。
「私も妖怪がとりついたとか言われても、実際にあったわけじゃないし答えようもないんだけど。ってまさか、押し付ける気?」
先ほどまでの笑顔がさらに深くなりいたずらに成功した子供のような笑顔が咲く。
「押し付けるなんてとんでもない友人のちょっとした頼みだよ。ちなみに君がさっきのんだそれおいしかったでしょ。特注で2万するお酒なんだ。ちなみに、いま口に入れたその料理店長に無理言って作ってもらったメニューにない特注料理。自分のおごりだから楽しんでね。」
はめられた。さすがに持ち合わせが足りない。
仕方なく引き受けることとなった。
せめてもの恨みを晴らそうと同じお酒をもう一本注文して持ち帰った。




いつものおどけた顔が語り掛ける。
「君は思っていたよりお人よしなんだな。無理だって押し切れば逃げれたんじゃない?」
そう言われても実際においしかったし、何より私が興味を持ってしまったから引き受けてしまったのだ。
「そして君もだけど彼もなかなかにお人よしだね。」
自分の頼まれたことを人に頼んで逃げるののどこが、と思ったが確かによく考えるとそうかもしれない。
「話を聞いて職場に持ち帰って上司に相談しました。だけでもいいのにわざわざ引き受けそうな人を呼び出し自分の財布から少なくないお金を出して頼みを聞かせるんだ。それにたぶんその子のところにしばらく通えるだけの交通費とかも渡されたんだろ。」

彼はお酒は重いだろと言って家の前まで運んでくれて別れ際にしばらくの分の移動費などの分だといって封筒を渡していった。
足りなくなったらいつでも連絡してくれと言ってそのまま帰って行った後、家に入って一息ついた後封筒を開けると20万も入っていたのだ。
「忙しくて使う暇がないって言ってたらしいけど少ないお金じゃない。彼も無茶な頼みだとおもってそのお詫び分も入っているんだろうね。」
まあ、おそらくそうなのだろう。
奇人変人の類の人間だが彼の周りには常に人がいる。たかるためという人も少なくないが彼の気前の良さや細かいことにこだわらない性格のため嫌われにくいのだ。
「ところで、妖怪がとりついてるかどうかなんてどうやって調べるつもりなんだい?」
霊能者や超能力者でない以上自分の足で一つずつ確かめていくしかないだろう。彼もそう思って移動費などを先渡ししてきただろうし。
幸いなことにこの時期は私は仕事の手があきがちのため、当日の朝に数日の有給申請して手続きをすれば終わった後にすぐに退社して遊びに行けるぐらい暇なのだ。
まあその分忙しい時期は下手をすると会社に泊まり込んでも時間が足りないのだが。
「僕から助言を一つだけしておこうと思う。」
彼は珍しくまじめな顔をしてこちらに語り掛ける。
「深読みするな。よく見ろ。目の前でそれは起きている。」
そして、私の顔を覗き込んで驚いたようなジェスチャーをした後見えなくなった。
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