魔術師事務所へようこそ

鏡月

文字の大きさ
14 / 32
2章 騎士と少女と界層魔術師

4話 お嬢様は取調べられる

しおりを挟む

『取調べ』や『調書』という言葉から湧くイメージといえば何を思い浮かべるだろうか。


ちなみにこの少女。


アミーティア·フェザーは、怖い顔をした騎士からカツ丼を出され故郷の母さんが泣いてるぞ。等と言われながら滾々と理詰めを食らう。


そんなイメージを持っていた。


最近読んだ小説にもそんな描写があったし、昔両親と見に行った演劇『ミッドナイト黄門』でも似たような描写があった。


しかし実際その取調べというモノは
加害者側と被害者側ではだいぶ違うらしく、



「─────はい、これで以上です。
すいません、ちょっと長くなっちゃいましたね」


被害者側というか。

聖者に絡まれたこちらは座り心地の良い来客用の椅子に座らされ、立派な執務机を挟んで向かい側にいる女騎士ことレイン·リバーに聞かれたことに素直に答えるだけだった。

名前。

年齢。

現住所。

今日王都で何をしてたか。


聞かれたのはほぼコレだけ。


でもって、カツ丼ではなく美味しいミルクティーを出してくれた。



────しかしながら。

慣れない環境と目の前の美人に妙に緊張してしまったのは事実だ。

頷く度にツヤツヤの長い緑色のポニーテールを揺らし、問いに答える自分をジッと獲物を見つけた猫のような目付きと琥珀のような黄色い瞳で見つめ、時に、その整った顔立ちにクスッと優しい笑みを浮かべる。

身長も高いし手足が長くてスラッとしてて非常に羨ましい。

それでいて一般的に言う所のヒジョーにけしからん体型をしていらっしゃる。

自分もそこそこ自信のある所はあるが、この人には負ける。主に色気で。

それでいて所作も綺麗でカッコイイのは反則では無いだろうか。


まあそんな感じの人が目の前に居るものだから


「はい!全然大丈夫ですっ!!」

普通に返事をしたつもりでも声が裏返ってしまう訳で。


それを見たレインはフフッと笑い、纏めた調書をファイルに綴る。


「それにしても驚きました。フェザー家のお嬢様だったんですね」


「あ、はい……ははは……」


アミーティア·フェザー。

世界に五つしかない界層魔術師事務所にその名を連ねるフェザー家の娘。

父はそのフェザー界層魔術師事務所の所長で母も現役の公認魔術師。

そして姉も名が知れた公認魔術師。

いわゆる名家であるフェザーという名を出せば大体みんな同じ反応をするので、まあ、驚かれても仕方がない。

しかし自分としてはこの名の重さもあって、色々と複雑な思いがある訳で苦笑いで返す他無い。


「あとコウェル所長に直談判しようなんて、なかなか攻めますね……」

「お恥ずかしい限りです……」


取調べ中。

話の成り行きでジュリアス界層魔術師事務所で働きたい事や、その為に所長であるコウェル·ジュリアスに面接の直談判をしようとした事をレインに話した。しかも結構熱っぽく。


当たり前だがそれを聞いたレインは─────熱量も凄かったので─────猫のように目を丸くしていた。


要約すると『界層魔術師事務所で働きたいからアポも取らずに突撃して面接の直談判をしようとした』なので、正直これは誰が聞いても同じ反応をする。間違いなく。


「ちなみにこれから向かおうとしてたというお話でしたけど、お一人で行かれるつもりですか?」


「はい、湖畔の道を通っていけば今日中には着くと思うので!」



目を爛々と輝かせて言うと、それを聞いたレインは「いやあ……それは……」と苦笑いして人差し指で頬を掻いた。

そして本棚から地図を取り出すとアミーティアのほうに向けて開いた。

その開かれたページには王都の外に広がる広大な草原や丘、そして隣国ロミリア·ユニオンと隣接している湖が見開きで載せられている。


そして今、まさにアミーティアが行こうとしているジュリアス界層魔術師事務所もそこにあった。


当然湖畔の道も載っているが、そこには赤いペンで大きく『水路貫通』やら『道路陥没』やら『土砂流出』と記されバツ印が書き込まれていた。


「えーと湖畔なんですけど。
あの、とても言いにくいんですが、この前、水の魔導師様が吹き飛ばしてしまって……」


「吹き飛ばした?!?!」


言葉のインパクトに丸い瞳を更に丸くするアミーティア。

確かに道を吹き飛ばすなんて事は魔女や魔導師にとっては造作も無さそうだ。

でもなんでまたそんな事を。
何か深い事情でも──────


「コウェルさんいわく、ユキノ様が水の魔導師様を煽ったらしいんですよね。ああ、ここの修理大変だよなぁ絶対……嫌だなぁ……嫌だぁ………工事は嫌だぁ……寒いし汚れるしお風呂入れないし……うう………」


────無かった。


しかもここで冠名魔女 氷華の魔女ことユキノ·フローズの名が出るとは思わなかった。

それにしても、あの冠名魔女が水の魔女を煽ったとは一体何が起きたんだろう。

そして地図。

そのバツ印が付いている場所を光すら宿らない黄色い瞳で、実に絶望的な様子で見つめてうなだれている女騎士レイン·リバー。

なんというかご愁傷様としか言えないが更に凹まれそうなので飲み込んだ。

しかし、こうなるとジュリアス界層魔術師事務所に行く方法がひとつ無くなってしまった。


「あ、あのっ、えーと、レインさん?ここの他に道ってありませんか?」


天を仰いで現実逃避しているレインに問うと彼女は「へ?」と気の抜けた声を出してから頬を僅かに赤く染めて「すいません」と可愛らしく呟き、また地図に目を落とした。


「い、一応ありますよ。でも、森の中を迂回しなくちゃいけないので結構危険ですけど」


細い指で地図をなぞりながらそう言う。

途中までは湖畔の道が使えるようだ。

しかし森の中を通るとなると道の悪さもさる事ながら、遭遇したくない輩や動物との接触もあり得る。

当然ながら、新卒の魔術師といえど身を守る為の魔法や心得は充分持っている。

それにフィールドワークである程度、野営の仕方等も学んだ。行ける。多分。

なんてことを地図を見つめて考えていると。


「お供しましょうか?」

「え?!いいんですか?!」


レインの唐突な申し出にアミーティアは再び目を輝かせた。

でもって、

「修繕箇所の確認もしなくちゃいけませんし。あと────ユキノ様に『お話』しなくちゃいけませんので」


「アッハイ」


レインは、とても綺麗な顔に引くほど真っ黒な何かを含ませニッコリ笑った。これにはドラゴンやコボルトと逃げ出しそうだ。

修繕工事の恨みは恐ろしいと見える。

そう思いながらアミーティアが彼女の真っっっ黒な笑みを見て顔を引き攣らせていると、不意にドアがノックされた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...