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2章 騎士と少女と界層魔術師
8話 魔術師は見つける
しおりを挟む吹き飛んだ道もとい川は事務所から歩いて20分程の場所にある。
この辺は、あまり人が来ない場所なので王都周辺に比べると道は悪いが────良い点もある。
「あ」
人が来ず、手入れなど全くされないからこその、生い茂った雑草や大きな岩。
自然そのものの姿が見られる道端に目を向けると、王都で買うと結構値の張る薬草が生えていたり、質はちょっと微妙だが魔術鉱石も転がってたりするのだ。
これで僅かながら消耗品の補充も出来る。
少量でもコレが後々かなり懐事情に響いてくるので結構バカに出来ない。
あと、取りすぎないようにしておくのも重要だったりする。
すぐに葉やら実を付けてくれるなら別だが、自然の恵みに、そう都合の良い物は無い。
それに
(3枚くらいにしておこう)
万が一。
ここを通った誰かがコレを必要とする状況だったら。と考えると全回収は出来ない。
かつてユキノに拾われる前の事だが、森で腹を空かせて木の実を探し回っていたら取り尽くされた後で酷く絶望した事があるので、余計そう思ってしまう。
「ケースは……」
綺麗に切り取った薬草をポーチから出した保存布で包み保管用のケースにしまう。
友人いわく。こうすると鮮度が落ちにくくなる────らしい。
(あいつ元気かなあ)
ケースにしまった薬草を見つつ。
しばらく会っていない友人の事と、学院時代の彼の行動を思い出しコウェルは一人苦笑いしてしまった。
才能はあるし頭も良いのに適当で、面白おかしい奴だった。
入学当時。魔術師としての適性がほぼゼロの自分に余程気になったのか、それとも単純にウマがあったのか。
アイツは田舎者の自分に色々と教えてくれたし味方になってくれた。友人というか親友だ。
しかし、学院を突然辞めて『俺は旅人になりてえのよ』と屈託の無い笑顔で王都を出て行ったのは本当に驚いた。
確かに突飛な行動を取るような奴で、何を考えてるか分からない奴ではあるがアレには本当にびっくりだった。
それでいてマメな奴なので、たまに事務所にやってきて旅の話を聞かせてくれたり毎月のように手紙も届く。
まあ、あの明るい性格だ。
端から見れば何も考えて無さそうな奴だけど、アイツはメチャクチャ頭が良い奴だ。要領良く元気でやってるんだろう。
なんて事を考えながら歩いていると。
水の魔導師フラッドが道ごと吹き飛ばして水路になってしまった川が見えてきた。
遠目からでも川の水は綺麗になっているし、流れも多少穏やかになっているように見える。
それと────
(誰だろう?)
川を挟んで対岸に人影が二つ見えた。
一人は見覚えがある。
緑色の装衣を着た明るい緑色のポニーテールの女性。
腰にはカタナと呼ばれる片刃の剣が収まった鞘を下げている。
レイン·リバー。
よく知ってる人だ。
しかしもう一人は見覚えが無い。
格好からして学院生のようだ。
黒髪のショートボブの小柄な女の子。
制服は王立魔術師養成学院のモノだが、学章を付けていない所を見ると学院の卒業生だろうか。
(あの子は……どうしたんだろう?)
獅子皇の新しい魔術師だろうか。
でも、あそこに空きが出来たなんて話は聞いたことがない。
学院の卒業生が獅子皇の騎士。
しかも剣姫と名高い使い手と一緒に居る。
なんともよく分からない組み合わせにコウェルは思わず首を傾げてしまった。
というか。
(レインさん、死にそうな顔してるなあ……)
対岸から見てもレインの顔に色濃い絶望が張り付いているのが分かる。
なんなら地面に両手両膝をつけてガックリと項垂れているのが見える。
そりゃそうだ。
道があったハズの場所が幅約10メートル程の川になって寸断されていれば誰だってそうなる。
自分だって依頼先がこんな事になってたらレインと同じように地面に膝を着いて依頼元を恨む。
それはともかく。
二人で川岸の様子を見ているようでこちらには気付いていないようだ。
試しに両腕を大きく振ってみるが彼女達は全く気付いていない。
「おーい………」
自分的には少し大きめの声で呼びかけてみるが、まあ、そもそも声量がある方では無いし川の音に掻き消されて聞こえていないようだ。
と、なると。
(向こう行くしかないか)
直接行って声をかける他無い。
距離的には────ほぼ真正面。
ここを突っ切れば森の中を迂回するより近いし早い。
そういう移動系の魔法もあるが苦手項目だ。
川の真ん中で失速して落ちるのは目に見えてるので、同じく苦手項目でも近距離なら安定して使える転移魔法の術式を宙に書き込む。
これくらいの距離ならなんとか出来るし、この前みたいに知らないどこかの山奥に吹っ飛ぶような事は無い。多分。
でもちょっと不安なので、もう一度座標と移動する場所をしっかり確認してから。
コウェルは虹色の軌跡となって対岸に飛んだ。
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