魔術師事務所へようこそ

鏡月

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3章 働く魔術師、サボりたい冠名魔女

2話 魔術師は興味を抱く

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一般的に魔術師事務所という物は外観も内装も結構なコダワリが見える場所である。


例えば飾り気のないシンプルさに素直な美しさのある外観だったり、内装も外観も豪華絢爛だったりと様々だ。

ちなみにジュリアス界層魔術師事務所は。


「わ、すごい!!」


小さな丸太小屋からは想像出来ない程度に内部は広く、非常にシンプルな作りになっている。


「ユキノ様が空間拡張魔法で広げたんです」


事務所の主。コウェル·ジュリアスがソファーで寝てる師匠にタオルケットをかけつつ言うと、興味津々といった様子で室内を見回している少女は「おお~!」と可愛らしい声を上げた。

狭いという理由だけで超がつく高等魔法である空間拡張魔法を使い、それを平気で展開したままで固定している辺りは流石の冠名魔女だが─────


「でへぇ………クソデカメロンパフェ~……ふへっ」


だらしない寝顔からは全くその威厳とか貫禄は全く感じられない。


「……ちなみに、ユキノ様どれくらいで起きます?」


好奇心全開で部屋を見回しているアミーティアに反し。

寝ているユキノをジーッと見下ろしているもう一人の客人。

獅子皇騎士団の女騎士レイン·リバーは実に不満そうに呟く。


「ご飯出来るまでは絶対起きないですよ。ほっぺた引っ張っても起きませんから」


言ってコウェルは寝ている師匠の柔らかい頬を軽く引っ張る。

すると彼女は「んぇ~」とカリスマの欠片もない声と表情を浮かべた。

一回寝たら食事が出来るまでは絶対にこの魔女は起きない。

遊びに来たホノカが外で焚き火の火力調整に失敗してキャンプファイヤー化しても起きなかった。

この前はセレスティアの激苦コーヒーを飲ませても全く起きなかった。

ちなみにホノカとセレスティアいわく『昔からこう』らしい。

氷華の魔女の尊厳を軽く破壊しつつ「この通りです」とコウェルが苦笑いすると、レインは「はぁ」と小さな溜息をついて肩を落とした。


そして


「食事が出来たら起きるんですね?」

「え?はい、そうですね」

「じゃあ私が作ります。カレーでしたよね?」

「あのレインさん???」

「料理は得意ですから。キッチンお借りします」

「レインさん???」

「お 借 り し ま す ね ?」


中々に強引な提案と共に、物凄い圧力と猫のような黄色い瞳をジトッとコウェルに向けた。

この迫力に気弱なコウェルは「アッハイ」としか答えられない。

しかしながら。

彼女は、なんだか疲れているのか今日は妙に溜息が多いように見える。

それに正直、客人に料理をしてもらうのはコウェル的にもちょっと気が引ける。

疲れている人なら尚更─────


「レインさん?あの、僕やるんで休んでて頂いても」

「大丈夫です。それにユキノ様が起きるまで暇ですし。コウェルさんはアミーティアさんの面接をしてあげてください」


いずれにしても自分がやるつもりだったので声をかけたが、会話はバッサリ切られてしまった。

何か思う所があるのかも知れない。
それに雰囲気的にもこれ以上は声をかけにくい。


「じゃあ、すいません。お願いします。調味料は左の棚に入ってますんで」

「わかりました」


ひとまずカレー作りは彼女に任せる事にし、コウェルは本棚を眺めているアミーティアに目を向けた。


「とりあえず、アミーティアさんは、えーと、そこに掛けて貰って。あとハルト団長の書状を拝見しても?」


「あ、そうだった!こちらです!」


声をかけられたアミーティアはカバンから封筒を取り出し差し出した。

ハルトが彼女に託した書状。

紹介状だ。

正直な話。一体どういう経緯でこういう流れになったのか────魔術鉱石の鑑定依頼はともかく────コウェルはそれが一番気になっている。


「では、失礼して」

アミーティアから受け取った書状には獅子皇の紋章で封印がされていた。

それと、紹介状一枚にしては少々分厚く感じた。

封筒を慎重に開けると中には丁寧に折り畳まれた紙が三枚入っていた。


内容は。


『拝啓 コウェル·ジュリアス界層魔術師殿。

突然ですまない。ハルトだ。
今回書状を三枚封入させてもらった。

一枚目。今君が読んでるこの書状は、目の前に居るであろう学院の卒業生。アミーティア·フェザーさんの紹介状だ。

二枚目は創剣の魔女様から預かった魔術鉱石の鑑定依頼状だ。総組には申請済みだから安心してくれ。

そして三枚目はレインに関して頼みたい事があり内容を記した。無理にとは言わないので検討して貰いたい』


ハルト団長らしい書き出しだ。


それにしてもアミーティアはともかく。
レインに関してというのは、どういう事なのだろう。

気になるので先に三枚目の書状に目を通してみると。


(な、なるほど)

納得の理由と頼み事が書かれていた。
これはあとで本人にも読んで貰おう。これに関してはその方が話も早そうだ。

そう思いつつ三枚目の書状たたみ、二枚目の依頼状にもサッと目を通してから一枚目を読み進める。


『アミーティアさんは、その名の通りフェザー家の御息女だ。
君の事を学院で知り、書庫に籠もって色々調べて興味を持ったらしい。

フェザーの御息女なだけに才能もあるし、何より彼女はやる気に溢れてる。

苦手を克服する努力も知っている。

フェザーという名や実家に頼らず
自分の力で何事も乗り越えようとする気概。

自分という人間を評価して欲しい。という強い意志もある。

名家の出でこんな子は今時珍しいぞ。

それにかなりの努力家気質のようだ。
フィーネに調べさせたんだが、彼女の担任いわく。知らないことを知るための努力は惜しまない子らしい。

コウェル、昔の君にそっくりだと思わないか?

許されるなら俺が獅子皇に採用したいくらいの逸材だ』



「……なるほど」


素直に感心しコウェルは呟いた。

そしてアミーティアがジッと見つめているのを感じ、チラッと彼女に視線を送る。

青く丸い瞳は真っ直ぐこちらを見据えている。

可愛らしい顔を僅かに紅潮させ、色濃い緊張も張り付いているが視線だけは、しっかりとこちらに向けている。


(資料室で何を見たんだろう)


自分に興味を持った。というのは────恐らく昔のアレとか、学院時代のアレを見たんだろうが────ちょっと気になる所かも知れない。


それにハルトにここまで言わせるのは、中々凄いことだ。

人をよく褒める人ではあるが、彼にここまで言わせる者もそういないし、あの人は名家の出だからといって忖度するような人でも無い。


恐らく純粋に彼女を『推して』いるんだろう。



懐事情は厳しいが─────この娘にちょっと興味が出てきた。


「履歴書って、今日持ってますか?」


「は、はい!」


履歴書。という単語にアミーティアは素早く反応し椅子から立ち上がると既に手にしていた履歴書をコウェルに差し出した。
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