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3章 働く魔術師、サボりたい冠名魔女
7話 魔術師は(物理的に)落とされる
しおりを挟む「確認しますね」
「は、はいっ!お願いします!」
緊張気味のアミーティアから鑑定書と魔術鉱石を受け取り彼女の鑑定書に目を向ける。
そしてすぐ思ったのは『よく出来た鑑定書』だという事。
記載されている魔術鉱石の透明度、不純物の確認をしてみても鑑定結果と相違は無い。自分が同じ方法で鑑定しても同じ結果になるのは間違いない。
(僕らの時よりレベル高くなってるとは思ってたけど)
首席で卒業しているとはいえ、未加工の魔術鉱石の鑑定がきちんと出来ているのは本当に素晴らしい。
最近の学院の教科書を見ていないので何とも言えないが、授業でやる事が少ない些細なことも頭にいれているのは間違いなさそうだ。
そう思いながら静かに感心していると。背後から見慣れた横顔が「どれどれ~」と覗き込んできた。
「おー、最近の学生はレベル高いとは思ってたけど凄いね~」
冠名魔女は紫色の瞳を鑑定書に記された文字列に向け頷きながらそう宣う。同意見のようだ。
「ふむ」
そしてユキノは、そのままコウェルの肩に顎を乗せて呻く。
「ユキノ様的には100点満点で採用決定なんだけどー。さてさて~?所長さん的にはどーですかねぇ?」
で。にんまり笑いながら横目でコウェルを見つつ彼の肩に腕を回し─────
「明日まで考えてもぐえェ゙ェ゙!」
「考 え る 必 要 無 い で し ょ う が!」
細い腕はコウェルの首を的確に締め上げた。
「キミは本当に!ほんっっっっっとーーーーーーーに!優柔不断が過ぎる!誰がどう見たって採用以外の答え無いでしょうが!このおバカ!!!」
────ちなみに。完璧にキマったチョークスリーパーという物はプロの格闘家でも抜ける事が出来ない。なので当然コウェルは。
「ユキノ様!キマってますから!完全にキマってます!!コウェルさん!!起きてくださいコウェルさーん!!」
レインに救助されるも爆速で意識を手放しており、白目なんか剥いて床に横たわる事になる。
「まったく」
で。見事なチョークスリーパーを決めた冠名魔女は腕組みなんかして実に不機嫌そうにジトーッと弟子を見下ろす。
「だーいじょうぶよ。コールなんてこの手の技かけられ慣れてんだから。こんなもんじゃ死にゃあしないわよ」
言って完全にのびている弟子を容赦なくひと睨み。そして、とんでもないやり取りを目の当たりにし、顔を引き攣らせてコウェルを見ているアミーティアに目を向けユキノは小さな溜息をついた。
「見ての通り。コールは本当に優柔不断で自尊心低くて超が100000個付くくらいの鈍感男だし、魔女締め、あ、さっきの締め技ね。あんなんですぐに落ちちゃうし。まあ、こんな感じで頼りないの」
レインとアミーティアが『そこまで言うか』と思うくらい滔々と。しかもハッキリ言う冠名魔女。
彼女の弟子であるコウェルも師であるユキノに対してなかなか容赦がないように見えたが、この師あってあの弟子ありといった所だろうか。
なかなかに辛辣な物言いだが。
「───でも、コールは素直で真面目で努力家。誰よりも苦労する事を知っているし誰よりも優しい。頭ごなしに怒るなんて事も絶対にしないし、なんといっても丁寧なのよね。この子は」
やはり愛弟子は可愛いようで優しい笑みを浮かべて言った。
が。
「……もしかしてそれをコウェルさんの目の前で言うの恥ずかしくて絞め落としました?」
伸びているコウェルを近くにあった団扇で扇いでいるレインが鋭くツッコむとユキノは「うん」と物凄く良い笑顔を浮かべ親指を立てた。これには流石のレインもアミーティアも「ええ……」と困り顔である。
一体何を考えているんだろうか。この冠名魔女は。
(コウェルさん大変だなあ………)
(コウェル所長いっつもこんなノリに付き合ってるんだ……)
同時に同じような事を考えた二人は、この冠名魔女のノリに付き合うコウェルの器の大きさを改めて認識した。器というか彼自身の耐久性かも知れないが。
「まあまあ、そんな訳で。コールは頼りない所長だけど界層魔術師だし実力は師である私が保証します。それに、その辺の魔術師よりも社会って物もよく知ってるし。意外と剣の腕もいいからねこの子は」
ユキノはレインに引きずられながら床からソファに移動させられていくコウェルを見ながら滔々と宣う。剣の腕という言葉にレインが「そうなんですよね」とどこか不服そうに呟いた。
「魔術師ですよねコウェルさん」
「うん」
「なんであんな恐ろしい踏み込み出来るんですか。ユキノ様何か教えたんですか?教えたのなら私にもですね」
「オーケー落ち着こうかレインちゃん。あと、私、コールに剣は一切教えてないから。アレはもう才能よ才能」
はっはっは。と肩をすくめて快活に笑うユキノ。
そして納得していない様子のレインの肩を「まあまあ」と軽くポンポン叩き、呆けているアミーティアを見ると────
「─────という訳で。アミちゃん。こんなコウェルでも所長として認めてくれるのなら、私は貴方を採用したいと思ってるのだけど、どうかしら?」
先程までの腑抜けた声や表情では無く氷華の魔女らしい妖艶な表情と声色で問うた。服装は非常にラフな部屋着のままだが、その迫力や得体の知れなさは本物。まさに冠名魔女だ。
その問いにアミーティアは。
「ぜ、ぜひ!お願いしますっ!!」
答えはもう決まってる。とばかりに返し深々とユキノに会釈した。口には出さないが、最初からそのつもりで来ていると。言うくらいのつもりで。
「それでこそロベルトとカレンの子。じゃあ、これからよろしくねアミちゃん」
「ありがとうございます!」
「へへへ……コレで私も合法的にサボれる……ふへへ……」
言ってだらしなく笑うユキノ。すぐにレインに「ユキノ様」とツッコまれていたが、その表情には妖艶な表情でも先程までのだらしない笑顔では無く、街で見かけた時の優しい笑顔に変わっていた。
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