幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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きっと二度目の恋。

一瞬で欲情したんだ。

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忙しければ、忘れられると思った。
悲しければ、もう恋なんかしないと思ってた。
自分自身が大嫌いならば、もう人を愛することもないと思ってた。

―クレハを愛していたのに、殺めてしまって、もう死ぬべきかと思った。

それでも、夜毛布にくるまり、寝静まると心臓の音が聞こえてきて、
それでも、自分を覆ってる毛布がパサパサなのに温かく、

俺は生きてるんだな、血が通ってるんだな、そして、いつか死んだら―

彼女に会いに行くんだ。

「レア」

貴方に一目惚れした入学式の春。
俺は貴方の家庭教師になったよ。
クレハと同じ顔をした紅い目の天使に、

一瞬で欲情したんだ。

銀髪の髪を撫でたい。
紅い目を涙で満たしたい。
小さな胸に触れたい。
…桜色の唇に…キスしたい。

ここまで俺は馬鹿だったろうか。

同じ顔をした未成年(それも中学一年生)の女の子に何を求めてるんだろう。

刑務所を出た春、二度と愛さない、誰も好きにならない。

そう思うのに、

一瞬で、俺はまたティアナを好きになったのだから。

「どうしようもねーよなぁ…」
「ん?何か言ったレア?」

きょとんとした顔をして、

その唇を唇で塞ぎたいと思う。

でも、今は勉強中。

子供ガキに恋するのは犯罪だろう…と思いつつ、頬を人差し指で撫でる。

「きゃぁっ!な、なななな」
「バーカ、お昼ご飯のオムライス付いてる。
お母さんお手製なんだから大事に食えよ」

ぺろと、人差し指についたご飯を舐めて食べると、ティアナは益々真っ赤になって奇声をあげる。可愛いと思うけれど、まだまだ乳臭いガキだなとも思う。気づいたら笑顔になっている自分に気づいた。

「レア、何かエロイ!!」
「何がだよ?」

顔を赤らめながら、あからさまに目すらも合わせられないのを見ていると…いくら中1とは言え、純粋すぎて今時のませてる中学生と比べてしまう。

「キスぐらい経験ないのか?」

いやいやいや、それ言ったらおじさんな上にセクハラって訴えられるからね!ぽんぽん頭の中では、「処女なのか?」「彼氏居ないの?」「可愛いのに?」

とそこらの道のナンパのお兄さんと変わらないような台詞が浮かんでくるのが情けない。でも、ずっとこれからはこの子を大事にすることを考えたい。

―クレハのように、無理強いはしたくない。

この子の初めての相手が俺だったらなんて妄想もいい加減にしろ、俺。

「レア…?ねぇ、レアは今、好きな人居る…?」

「さぁ?」
ストレートな告白のような、言葉に、
そう答える。

彼女ティアナの気持ちはいくらなんでも鈍感な俺でも分かってる。

『今を壊したくない』

それが臆病な俺の愛情表現__本心__#。

「むぅ、何でそんな意地悪な事言うの…」

拗ねて宿題に再び戻るティアナが心底可愛くて…。

同時に、こんな幸せじゃいけない。
俺は幸せになってなんていけない。
気持ちを向けられるほど、いい男でも何でもない。

生まれてきた環境育ちの違い。

彼女ティアナは幸せな家庭の子で、

俺なんか、

と言う皮肉な気持ちになるのも事実だった。

この気持ちが、何に変わるのかは分からないけれど、

今、この幸せを噛み締めることだけは、

クレハ、どうか許してほしい。
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