【完結】碧よりも蒼く

第1章

かつての栄光

　誰よりも先にゴールラインを走り抜ける、それが快感だった。
　それをもう一度体験するために僕はスタートラインに立っていたのかもしれない。

　幼い頃から運動会の徒競走で負けることはなかった。
　小学四年のときにランニングスクールを紹介されてから、僕はもっと速くなることができた。
　この頃は、文字通り走れば走るほど速くなっていくような気がしていた。


　中学二年のときに100ｍ走で富山県記録を塗り替えたときに、何か「先」が見えたような気がした。
　
　その感覚を追い求めていった結果、僕は二年の夏に全国制覇を成し遂げることができた。


　相沢碧斗あいざわあおとという名前が陸上雑誌に載り、いろんな取材を受けるようになった。
　同じ中学校で僕のことを知らない奴などおらず、体育大会のリレーのアンカーが僕の定位置だった。
　勝つのが当たり前、あとはどんな記録になるのか？　だけが注目されていた。中学歴代の何位だかになったらしく、あと何人かの過去の短距離走者スプリンターを全員倒すつもりだった。

　しかし、僕の栄光はそこまでだった。

　中学最後の全国大会、連覇を期待されていた僕は全国大会の第4組で敗れた。
　いや、正確にはゴールすることさえできなかった。

　偶然、隣のレーンにいた男に僕の抱いていた思いは破壊されてしまった。
　自分がこの先どんなに頑張ったとしても超えることはできないと、「才能」の差というものを感じさせられてしまったからだ。

　その男の名前を僕は今でも忘れられずにいる。

　藤枝真司ふじえだしんじ、僕が一生かかっても勝てないと思わされた男の名前だった。