【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

文字の大きさ
15 / 80
第3章

かつて住んでいた町で

しおりを挟む
 新幹線のドアが開くと熱風が襲い掛かってきた。
 富山だって八月は暑い――、そんなことは知っていたけれど、いざこの風を浴びるとうんざりする。



 駅のホームに足を降ろすことに少し戸惑っていると、後ろからの視線を感じたので慌てて足を降ろした。
 いざ降りてみれば何てことのないただのコンクリートだった。
 三月の終わりに愛知へ向かったのだから、約五カ月ぶりの富山だが、三月と違うのは雪が見当たらないぐらいだった。そんなに何かが突然変わるものではないのかもしれない。

 改札を出て、北口のバスロータリーを出る。最近増えたとかいうショッピングモールが見えたが、混んでいるらしく一階の駐車場へと車が列を成していた。
 笹谷ささたに行きのバス停に並ぶと、すぐにバスがやってきた。
 バスに乗り、富山駅からの町並みをバスの窓から見ていた。駅と同じくたった五ヶ月で変わるものなんてほとんどなく、コンビニがひとつ増えているぐらいだった。その前に建っていたのが何かも思い出せない。僕の記憶なんて適当なものだ。

 三十分近く時間をかけて「栗田南口くりたみなみぐち」で下車すると、そこには大きな陸上競技場があった。
 中学時代は何度もこの場所で行われる大会に出場した。ここで走って負けた記憶なんてほとんどない相性のいい競技場だった。
 今日は高校生向けの大会が行われる日なので、いろんな高校のジャージを着た高校生たちがいた。


 僕の知名度なんていまやどのぐらいのものか想像することもできないが変に僕を知っているという人にも会いたくなかったので、変装、というわけではないけれどキャップを被った。
 芸能人でもないくせにバカみたいだ、と思いつつ深めに被った。


 この競技場に来た目的、それは「相沢碧斗」がここで行われる大会に出てこないかを確かめるためだった。


 もしこの大会に出場したなら一体何者なのかを確認したかった。
 もちろん僕本人が走っていたはずはないが、偽者だとして一体誰だというのか、それがわからない限り、すっきりとしないままの日々を過ごすことになる。そんなのは御免なので僕はバイト代を一部充てて、あとは祖父母に帰省の交通費としてくれたお金を使って、一人で富山にやってきた。


 もし出場していなくとも、無駄足にはしたくない。そのときは所属している高校の陸上部が集まっている場所へ行ってみれば何かわかるかもしれない。

 総体予選のときに「相沢碧斗」の所属しているとされる高校は「青城南高校」だった。


 それは紗季が通う高校でもあった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...