【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第3章

かつて住んでいた町で 7

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 僕や紗季が小学校のとき通っていたランニングスクールの瀧澤先生の言葉だった。
 かつて実業団選手だったという先生で、僕たちが出会ったときは既に白髪の老人だったが、走る楽しさや厳しさを教えてくれた人だった。
 大会になればベストを出せると言った生徒に先生が言ったことがあった。

「陸上競技は実力以上の結果がでないんだよ」


 先生の言葉に僕たち小学生は驚いた声をあげる。
 もう既にいくつかの大会を経験していた僕たちは本番でベストタイムを更新するということを何度か経験していた。みんながそれを口々に言うと、


「それは、みんなが練習で積み上げてきたものが発揮されたということだよ」
 
 先生は微笑みながら優しく言った。
 僕の前髪をそよ風が揺らしたような気がした。

「陸上はね、サッカーでいう偶然ゴール前にいたらボールが来て触れただけでのゴールもない。バスケでいう放り投げたら入っただけのゴールもない」


 他の競技で例えを先生は出した。

「野球はー?」


 野球もやっていた若松が手を挙げた。
 先生は微笑む。こういった茶々にもひとつひとつ丁寧に答えてくれる先生だった。


「野球? そうだね、ホームランは練習しなければ打てないかもだけど、ピッチャーが偶然すっぽ抜けた球でもすごい打者を打ち取れちゃうってことはあるかもしれないね」

「あー、オレ、この前、カーブ曲がんなかったのに三振取ったわ」


 若松が笑うとみんなも笑った。先生も微笑んでいた。

 
「陸上はね自分がやってきた練習で積み上げたもの以上の結果は出ないんだ。長距離とかだと相手についていったらベストタイムを出せたっていう場合もあるよね?」

 みんなが頷く。

「でも、全く何も積み上げていない人はついていくことはできないんだ。引っ張られて身体をうまく使いこなしてベストが出せたなら、それはやっぱり練習の積み上げ、既に持っていた実力だと僕は思っている。スタートラインに立ったら、あとは自分が積み上げてきたことを信じて走るしかないんだよ。実力以上のものでは戦うことができない、ある意味、陸上競技とはすごく残酷な競技なんだ」

 練習で全く届かないタイムに本番だけ達成するなんてことはない。
 だから、日々の練習をしっかりして、その積み上げを信じて走らなければいけないんだと小学生なりに胸に響いた言葉だった。


 そして、いま思い出して響いたのは、

「ある意味、陸上競技とはすごく残酷な競技なんだ」


 という言葉だった。
 先生は微笑みながらなんて重い言葉を言ったんだろう。小学生の僕には気づくことができなかったが、今の僕に強烈に響く言葉だった。


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