【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第4章

体育大会 4

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*
 朝からよく晴れていて、体育大会は予定通り始まった。
 もう9月も後半だというのに陽射しが強くて、朝からひどく暑かった。

「でらえれーあちー」

 という愛知の言葉も近頃は聞き慣れてきた。
 クラスごとに設けられた団席でもそんな声が聞こえてきた。隣の伊藤も言っていた。

「なんで体育大会の団席って屋根付きじゃないんだろうな。来賓席はテントの中なのに」
「あー、やっぱ富山もそうなんだね?」
 僕の言葉に伊藤が言った。
「そりゃね。金持ちの私立じゃなきゃたぶん、全国共通じゃないかな」
「お互い熱中症にならないようにしないとね」
「伊藤は走る競技ばっかりだから大変だな」

 伊藤は個人100m、クラス選抜リレー、クラス対抗リレーに出る。騎馬戦も上に乗って戦うはずなので、体力勝負ばかりだ。
 
「勉強の授業よりは全然いいよ」
「それはたしかに」

 僕たちは笑った。
 中学までは選抜リレー的なものは皆勤賞とでもいうべき種目だった。今回は全く関わらず、外から見ることになる。新鮮なのか、不思議なのか、なんとなく落ち着かない。

「伊藤は選抜リレーも出るんだよな。1年のアンカーだっけ?」
「そうなんだ。クラス対抗もアンカーだしさ、どんだけオレにプレッシャーかけるんだって話だよ」
「速い奴の宿命みたいなもんだな。そんなにプレッシャー弱そうじゃないけど」
「いやー、緊張するときはするしね。クラス対抗は余裕の1位とかで回ってきてほしい」

 他のクラスの実力は正直よくわからないが、割といいところまで行けるんじゃないかなと思っている。体育委員の梶本も足が速いし、男子はある程度タイムを稼ぐ奴が揃っていた。

 伊藤が先輩から聞いた話では二つのリレーが最も盛り上がる競技らしく、クラス選抜リレーが午前最後の種目なのに対し、クラス対抗リレーは午後最後の種目になっている。

*
 伊藤の先輩とやらの言葉に偽りはなく、午前最後の種目であるクラス選抜リレーは盛り上がった。僕が走ったパン食い競争とは全く比べものにならないほどに。
 1年生の各クラスの俊足が男女それぞれ3名ずつが選抜されて走る。僕たち1年4組からは伊藤が1年クラスのアンカーとして走る。

 女子、男子の順で走る。男子の第1走・梶本が先頭に出るとそのまま1位争いを続け、アンカーの伊藤へとバトンが渡った。伊藤はバトンをもらった時点で2位だったが、大きなストライドを活かした走りでバックストレートの途中で先頭の3組の背後に。そのまま最後のコーナーを回ったとき、3組を交わして伊藤は1位でゴールした。

 ガッツポーズで喜びを表す伊藤と、歓喜で盛り上がる団席の中、僕には戸惑いがあった。


 団席に戻ってきた伊藤と僕はハイタッチを交わしながら、僕は自分が心あらずな感覚があった。
 
 自分のクラスが勝ったことは嬉しい。友達の伊藤が活躍したことも嬉しい。

 でも、なんていうのだろう。知らない曲だらけのバンドのライブ会場のど真ん中に一人で立っているような、何とも言えない落ち着かなさを僕は感じていた。

 9月の陽射しで軽くやられているのかもしれない。

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