【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

文字の大きさ
29 / 80
第4章

体育大会の後

しおりを挟む
*
「それにしてもすごかったねぇ、あそこから逆転できるとはウチは思ってなかった」

 三吉が自販機で買った紙パックのリンゴジュースのストローをくわえたまま言った。

「さすが伊藤だな」

 僕は伊藤がいる方向を見ながら言った。
 グラウンドでの歓喜の熱が教室までやってきていて、まだみんなは興奮気味だった。

 女子アンカーの細谷が2位と1位の女子への差を詰めた後、男子アンカーの伊藤がその2人を抜いて大逆転で僕たちのクラスは優勝を果たした。
 伊藤はクラスの中でいろんな奴らに声をかけられてスマホで写真を撮られていた。


「いやいやいや、相沢くんもすごかったやん」
「え?」
「ウチ、すごーくびっくりしたもん」

 と三吉が言っているところに、

「ね、すっごい速かった、相沢」

 細谷も三吉の横にやってきて会話に入ってきた。

「あっという間に2組を抜いちゃったとき、『うわ、速っ』って思ってたら、最後の曲がるとこで転んだ5組をジャンプで避けるし。『あれ? なんかの特撮?』とか思っちゃった」
「あー、あれは危ねって思ったら無意識に飛べただけ。もう一回、敢えてやろうとしたらこけるかぶつかるかするやつ」

 僕はうまくおどけながら話せているだろうか。

「走りもすごかったけどねぇ、バトン渡すときもビビった」

 三吉が言った。

「バトン渡すとき? あー、結衣が相沢に渡したんだっけ」
「うん。最後の曲がるとこ抜けて、相沢くんに渡そうとしたらさぁ、目の前にいる相沢くんが怖かった」
「怖い? なんで?」
「うまく言えないんだけどぉ、黒いオーラみたいのに包まれてるように見えてー」
「黒いオーラ? なにそれ? ゲームのキャラか」

 細谷が笑った。三吉が少し膨れっ面を見せる。

「うまく言えんって言ったじゃんねぇ。ゾクってなったけどバトンを渡さないわけにいかないから一生懸命渡したんよ」

 さっきリレーを走るとき、三吉に声をかけたことは覚えている。当然、僕は黒いオーラなど僕は出すことはできないし、ゲームのキャラなんかではない。

「よくわかんないけど、オレはただ走っただけ」
「でも、すっごい速かったよねぇ」
「なんか前を捕まえようって思ったら、自分が持ってる実力以上のが出ちゃっただけだよ。証拠にコーナーの最後はバテバテになって、スピード落ちてたし」
「ジャンプしてかわしたときも体幹がすごくいいのかキレイにかわしてたよね。そんだけ動けるなら部活やればいいのに」

 細谷の言葉を愛想笑いでかわそうとしていると

「それならぜひサッカー部に入らない?」

 振り返ると、そこにいたのは体育委員の梶本だった。いつもどおりのニコニコ顔だった。

「え、サッカーやったことないし」
「この高校なら未経験のサッカー部員は何人かいるよ。それにあのスピードとボディバランスあれば、すぐにやっていけるって。ウイングとか向いてそうだよ」
「ウイングがどこのポジションかわからないし無理だよ。キーパーじゃないってのはわかるけど」
「いまから覚えれば間に合うと思うよ? 僕が推薦するからいつでも声かけてよ」
「いや入らないって。っていうか何だ? 細谷に用事とか?」

 梶本が僕の元に来たのは同じ体育委員の細谷に用があるのかなと思った。
 話題を変えたいというのもあったが。

「あ、違……いや関係はあるんだけど」
「どっちだ」
「今日、この後、クラスの集まれる奴らで体育大会の打ち上げやろうって話になってるんだけど、相沢くんはどう?」
「え、そんなんやるの?」
「細谷さんの提案で急遽決めたんだ。相沢くんはどう? 大活躍したんだし、ぜひ」
「うん、相沢くんもおいでよー」
「ていうか来るよね?」

 三吉と細谷まで食いついてきた。反応を見る限り、二人は行くのだろう。

「あー、悪い。オレ、今日バイトあるからさ、もう行かないとなんだ」
「バイトぉ? 体育大会のあとなのに?」
「いや、そんなんあるって知らなくて。さすがに急にサボるのは無理。また今度」

 時計を見るともう16時半過ぎだった。

「うわ、本当にもう時間やばいじゃん」
「どこでバイトしてるん?」
「北町の『Amy's』、水金土日はそこでバイト」
「働くなぁ」
「だから部活ってわけにいかない。悪いな、梶本。誘ってくれてありがとう」

 僕はカバンを手に取り教室の後ろ側のドアから外に出た。

 すると前の黒板側のドアが開いた。出てきたのは伊藤だった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

処理中です...