前世を思い出した巫女は神のもとに行きたい

だるま

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二人の夢

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「これより血の儀式を始める。」
長が、儀式の開始を告げた。


神官の一人が長い祝詞を読み上げる。まぁ、この儀式を行うことで、領主と神殿がより強固に繋がるとかそんな事を言っていた。
本当に人間の都合なのだと、聴きながら思った。


祝詞を終え、私は血を出すために神官に刃物で手を切られる。腕から流れ出る血は、小さな盃に注がれる。

簡単な応急処置をされ、盃はカイン様の元へ運ばれる。

これでカイン様が血を飲めば儀式は終わる。
そもそも血なんか飲む人の気が知れないけれど、私は喜びを感じていた。
私の血がカイン様の一部になるのだ。そばにはいることはできないけれど、私の一部がこの人の中で糧になるならこれ以上の喜びはなかった。


カイン様は盃を飲み干した。
私は深くお辞儀をした。
気持ち悪いだろうにごめんなさいカイン様。でも嬉しいの、ごめんなさい……



儀式は終わり、カイン様たちは神官に誘導されてこの場を出ていった。
最後までカイン様は私を見ていたけど、声をかけられることがなかったことに安心した。
最後に見れてよかった……







領主様たちがいなくなったので、頭巾は外された。

神官が、また別の祝詞を御神体に向かって唱えている。
終わると、長が私の前に立ち

「では、この盃を飲みなさい。」

長が私に盃を差し出す。受け取り盃の中を見た。
ああ……これ毒だ…

「意外です。刃物で刺されるかと思ってましたのに。」

「今回この意味を知る者が、盃を取るのはお前が初めてだ。
皆知らずに飲んでいたからな。
あと刺したりしたら、この場が血で汚れてしまう。ミコト様を不快にさせるのは本意ではない。」

「何を今更……」

「お前が今朝言っていた事について考えていた……
神殿が掟で縛ろうとも、いつかは変わっていくだろうと思う。この儀式もその一つかも知れない。
ただそれは…今ではないということだけだ。」

「そうですね……今ではないんですよね…
では…私はその未来のために礎となりましょう。」

私は盃の中の毒を飲み干した。
すぐに毒が効き目を表す、身体の力が入らなくなり、その場に倒れ込んだ。直に指も動かせなくなり、呼吸も……だんだん意識が遠のいていく……
私は妹を守れたのだと、誇っていいよね……
カイン様…幸せになってください……




そして私の生涯は閉じたーーーーー





**********

サニアと会ったのは森の深いところにある祠に祈りを捧げた帰りだった。
俺に力はないが、この地を守ってくれている土地神に少しでも感謝したかった。
時間ができれば俺は祠に行っていた。
神殿に行くのはあまり好きではない。あの巣窟のような場所は近寄りたくはなかった。
領主である父からも神殿の独立した自治については苦言を言っていた。しかし、なかなか介入できないのだと。

確かにあの場所は独特というか、世間から隔離されたような場所だと思う。
限られた者しか外には出ることはなく、神殿の中がどうなっているのか全くわからなかった。

そんな時に出会ったのがサニアだった。
泉をただ眺めている彼女の目には泉や周りの自然を見ていない、1人世界から取り残されたような……
ただそこにいるだけの彼女が消えてしまいそうで、ひどく儚げに見えた。
俺は目が離せなかった。


声をかけてみれば、彼女は巫女だった。
少し話しただけで、世間知らずなのは分かった。しかし、外の事にに興味を持つつもりもないようだった。
このひとは誰にも渡さない。
一目惚れ……告白の時に彼女にはそう言ったが、自分のものだと誰にも渡したくない…そう思った。

彼女は約束は律儀に守って会ってくれた。
巫女の仕事についても話ししてくれて、サニアは土地神であるミコト様が見える唯一の巫女なのだそうだ。力も強いらしく、勤め以外は特に口出しされないが、悪く言えば放置されていた。
神殿では、妹とミコト様くらいしか話せる人はいないという。神様も友達の数に入れているあたり、彼女の友達基準が常識とは違うのだろう。でも、サニアらしいと思った。
始め彼女は神殿の外の事には興味をしめさなかった。
興味が出ると、できないことの方が多いから辛いだけだと。
でも、小さな世界だけよりもっと広い世界があるのだと知って欲しかった。だから彼女に様々な事を話ししたり、本を渡したりした。
始めはサニアも躊躇っていたが、面白さを知ったためか、彼女にも興味が湧いてきたようだった。
真っ白なサニアに俺が、俺だけが色をつけることができる。優越感に浸りながら、彼女を独占した。





そうして歳を重ねて、ついに自分の気持ちを伝えることができた。サニアも戸惑いながらもちゃんと考えてくれて受け入れてくれた。

浮かれた俺は愚かにも、父に彼女との未来の事を話してしまった。
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