覚醒者の安穏

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前編

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ジュリアは突然思い出した。思い出したはずだが、ハッキリ出てこない。(だから、あれってあれよ!)なんだこの魚の骨が引っかかったような違和感。モヤモヤした気分のまま、知らない間にブツブツ言っていたらしい。

「ちょっと、ジュリア何ブツブツ言ってるの?大丈夫?」

引き気味に聞いてきたのは幼馴染のキースだ。黒髪に緑の瞳、背が高く細マッチョな美少年だ。
(思い出した。こいつが主悪の根源だった。)

ジュリアはキースに惚れ抜いていた。一方通行ではなく、両思いで恋人同士だった時期も確かにあった。だが、勇者だと判明し聖女に出会い一方的に捨てられ惨めに狂気の中で死んだのだ。(あの時は聖女を恨んでいたけど、でも本当に悪いのはこのキースだ。)

何故かは分からないが同じ人生をやり直していたことを今思い出した。今日は15歳になる年に必ず受ける魔力測定の為に、2日掛けて近くの町ルディエアまでキースと一緒に来たのだ。
 この魔力測定が終わると自分の魔力の適正が分かると同時に成人として認定カードが貰える。認定カードがあれば、成人として扱われ結婚することも、冒険者になることも可能となる。

前の時はこの日に私から告白して恋人同士となったのだ。今思い出して良かった。2度と私から告白なんて馬鹿なマネはしない。

「何でもないわ。魔法適正の結果が気になっただけ。」

キースの方へは振り向かずそう言うと、こっち向いてよ。と強引に振り向かせた。

「何するのよ!」
「だってジュリアがこっちを見ないからっ」

にへらっと笑ってジュリアの怒りはスルーする。今までは結局ジュリアが仕方ないなと最後には折れていたが・・・。

そういえば、前回よりスキンシップが激しい気がする。初めて出会った5歳の時、力いっぱい抱き締められたあと、ジュリアを離さないと泣いたのは何故だったんだろう?今までは比較する物がなかったが、ことあるごとに抱きしめてきたり、額にキスしたりと幼馴染に対するにはちょっと過剰じゃないか?うん、ちょっと処じゃないかもしれない・・・。

物思いに沈み込むジュリアが気になって仕方ないのか、キースが右手に指を絡めてきた。

「どうしたのジュリア、なんだか今日は変だよ。大丈夫?」

キースを遠巻きにボウっと見つめていた複数の女子から悲鳴が上がる。と同時に殺気を込めた視線がジュリアに刺さる。いや、今のは私のせいじゃないですけど。

「キース離して。」

キースの手を離そうとしても、力が強くて外れない。この馬鹿力!

「なんで離さないといけないの?俺はジュリアと手を繋いでいたい。」

ニッコリ笑って拒絶された。こうなったら何を言っても聞いてくれない。ジュリアはため息をついた。

「まだかな?こんなに時間が掛かるものなんだね。」

ソワソワしながらキースが言った。キースも何だかいつもと様子が違う。落ち着かずキョロキョロしてる。
 そういえば前から早く成人したいとしきりに言っていた。の魔力測定の時、キースは魔力が大きすぎて測定不能だったことと、「勇者」のスキルが判別できず、都の魔力測定協会に赴いた。あの時は恋人として同行し、長い長い旅の始まりとなったのだった。今回はついて行く気は全くないけど。

「お待たせしました。認定カードをお渡しします。呼ばれた方はカウンターまでお越しください。」

かなりの人数が続々と呼ばれていったが、ジュリアもキースもなかなか名前を呼ばれない。
 ポツンとした空気の中で何故だか、キースがジュリアにしきりに物言いたげにしている。なあに?と聞くと何でもない。と言うのだが・・・。

しばらくしてキースの名が呼ばれた。金色の認定カードが渡され、周囲がザワつく。
 金色の認定カードは冒険者ならSランクに匹敵する。それほどの魔力があるということだ。しかしジュリアはキースに認定カードが渡されたことに驚いた。今回は魔力の測定が出来たってこと?どうして?

今度はジュリアの名が呼ばれた。しかし、カウンターではなく事務所に来て欲しいという。
 キースが焦ったようについて来たがったが職員に止められている。どうして?なんでジュリアが?と言っているのが聞こえた。そう、前回とは全く逆なのだ。前回事務所に呼ばれたのはキースだったから。

 事務所内にある小さな客間に通された。小さなソファーに座ると、50代くらいの男性が事務的に話し始めた。

「ジュリアさん。カウンターではなくこちらでお渡しするのは、特殊なスキルや魔法などが発見された場合になります。あなたの場合は、魔法は水魔法と、治癒力がAクラスである以外は普通Cクラスだったんですが、スキルが普通ではなくて」

そう言って認定カードから映し出されたのはふたつのスキルだった。

『覚醒者』『女神イリスの加護』

「あの 『覚醒者』『女神イリスの加護』ってなんですか?」
「『女神イリスの加護』は極稀ですが、偶にあるのです。本来は戦いの女神で"勝利の女神"と呼ぶ人もいます。冒険者となるのであれば、自分の実力の倍以上の力が発揮できると言われています。例えばジュリアさんの場合だと、水魔法と治癒力がSランク級の力が発揮できることになります。
戦う必要がない場合は、病気や怪我にあいにくくあっても早く治るそうですよ。とても便利・・・とてもありがたい加護です。」

便利って言ったわよね。この人。視線を感じたのかコホンと咳払いをして話を進める。

「問題は『覚醒者』の方です。このようなスキルは聞いたことがありません。過去の測定履歴を調べましたが、やはり該当が無くて・・・このような場合は都に行って確認いただくのが通常の習わしなのですが、都までは遠く道中は危険です。どうされますか?もし都まで行くのが難しければ、私達が代わりに都の魔法測定協会まで問い合わせることは可能ですが。」

 なるほど、前回のキースは魔力測定外でスキルも確認できなかったから、都まで自分自身が行かなければならなかったが、問い合わせるだけなら本人は行かなくて済むようだ。

「はい。代わりに問い合わせいただけますか?」
「分かりました。但し問い合わせとなると、文書代が500ギルかかります。よろしいですか?」
「あっはい。手持ちがありますので大丈夫です。」

 文書代を渡すと、覚醒者のスキルが何か分かるまでは認定カードのステータスは他人には見せないよう注意を受けた。
 問い合わせした文書の回答が来るのに1ヶ月位掛かるという。文書代には保管料も含まれてて1年間取りに来なければ破棄する。との説明を受けた。

事務所から出てくると、キースが駆け寄って来た。

「ジュリア、大丈夫?何があったの?」

焦ってるような表情だった。あのね。と口を開きそうになり、慌てて口を閉ざした。まばらとなったとは言え、まだ人目もあるしここでは言えない。宿に戻ろう。と言って魔力測定所を後にしたのだった。

 宿に戻るとキースのソワソワが激しくなって来た。宿の食堂でジュリアを見ては、赤くなったりニヤっとしたり落ち着かない。

──何だか嫌な予感がするんだけど・・・そういえば、前回は今いる食堂で私から告白したんだった!・・・無視しとこう。

キースの様子も見なかったことにして、食事を終えて部屋に戻ろうと立ち上がるとキースに腕を取られて引き止められた。

「ジュリア、待ってまだ何か話があるよね?」
「ううん。」

 否定すると、若干顔が青ざめた。「なんで、どうして?どうして?」ブツブツ言い出して自分の世界に入って行ってしまった。さっきのジュリアと同じだ。コソコソと部屋に戻ろうとしたのだが、キースが再びジュリアの腕を取って振り向かせた。

「ちょっと」何するのよ!と言おうとしたが目の前に花束が広がった為、その先が続けられなくなった。
えっ?この花どこから出したの?

「ジュリア、愛してる。結婚してください!」

キースが、真っ赤になりながら跪きプロポーズしていたのだ。

「えっ?嫌だけど。」
「ええええ。ジュリアどうして?どうして?ジュリアは俺が好きだよね。好きって言ってくれたじゃん。ひどいひどいよ!」

キースは恥も外聞も無く子供のように泣き出した。
いや、ここまだ食堂なんだけど!

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