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中編
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おいおい、泣かすなよー。
痴話喧嘩は部屋でやれ!
他の客たちに野次られ、ジュリアは慌てた。キースの腕を取ると自分の部屋に連れてきた。
キースはまだグズグズ泣いている。いつものキースは痛みに強くて滅多なことでは泣いたりしない。涙なんて下手したら、10年くらい前に見たきりかもしれない。
前回の時はこんな姿は見たことなかった。
いつも男らしく我慢強かったのに。
子供のように泣きじゃくるキースを見ながらため息をついた。
「・・・ヒッィク・・・なっなんで?ジュリア俺のこと嫌いになっちゃったの?俺はずっとずっとジュリアのこと大好きなのに、なんで?」
そう言いながらジュリアに迫って来たので、慌てて後ろに下がる。必然的に壁際に追い詰められた。
「いやっ、私達只の幼馴染じゃない。」
「只の幼馴染じゃないよ!ジュリアは覚えてないかもしれないけど、俺達は愛し合った恋人同士だったんだ。なんでだよ。誰か他に好きな人出来たの?」
「えっ?キースも前のこと覚えてるの?」
思わず聞くと、キースも驚いたようだ。
「ジュリアも覚えているの?じゃあなんで嫌がるの!あんなに愛し合っていたじゃないか!」
キースの身勝手なセリフに怒りが込み上げてきた。
「キースが聖女と浮気したからでしょ!あんなに酷いことしておいて、今更なんなのよ!」
腹ただしくてキースの胸をバンバン叩く。
キースは目を真ん丸くして驚いた。
「えっ?聖女と浮気って何のこと?俺はずっとジュリア一筋だよ。それに一緒に旅したのは聖人のアレク(♂)だし。アレクを覚えていないの?聖女なんて会ったこともないよ。」
今度はジュリアが驚く番だった。
キースと私の記憶が違うのだ。
キースとお互いの記憶を話しあった。
わかったことは、聖女に出会うまでの記憶は一致していて、私が聖女と出会ったと思い込んでいる以降の記憶が全く違うことだ。
魔王討伐の旅の途中まで、ジュリアはキースの恋人兼ヒーラーとして一緒に同行していた。ヒーラーといっても治癒魔法はパーティー全員が使える為、キースがジュリアを離したくない為の口実だった。
ここまでは2人の記憶があっている。
キースの話はこうだ。
戦いが激化しこのままではジュリアに危険が及ぶため、魔王の国アルディに乗り込む前に手前の国ファーザで私はパーティーから脱退したのだ。魔王を倒したら迎えに行く。再会したら結婚しようとキースと約束して・・・
(キース、アレク?・・・アレク・・・アレク・・・聖職者のクセに酒飲みだった男がいたような、いなかったような・・・)アレクのことを思い出そうとすると、頭にカスミがかかったようになって思い出せない。
キースが嘘をついてるようには思えなかった。また、自分の記憶を辿りながら話していくと辻褄が合わないところがあるのに気づいた。どうして記憶が違うんだろ。魔力測定の結果も前とは違うし、おかしい。何かが間違っている。
「ジュリア、そういえば魔力測定の時別室に呼ばれていたよね。あの時、なんて言われたの?」
ステータスは見せない方が良いと忠告を受けたけど、キースなら大丈夫だろうと判断して事務所で受けた説明をそのまま話した。
話を進めて行くと、キースの眉間に縦じわがだんだん増えていった。
「『覚醒者』、『女神イリスの加護』だと・・・」
聞いたことがない低い声で唸るように呟いた。
その声には明確な怒りが含まれていた。
キースのそんな声聞いたのは初めてで、理由がわからず困惑する。
イライラと指を鳴らしたキースは、部屋の天井に向かって怒鳴りつけた。
「女神イリスどういうことだ!姿を現せ!」
キースの怒鳴り声に応えるように、何も無かった空間からキラキラした光が集まりある程度の塊になったと思うと、急激に眩く光り輝いた。
「どうもっ女神イリスで~す。」
光の中から軽い調子で女神が現れた!
波打つ黄金の髪、神秘的なブルーアイ。だがどう見ても10歳くらいの少女に見えた。ちっさい魔法の杖を右手にてヘラヘラ笑っている。その姿に威厳はまったく感じられなかった。
「イリス!ジュリアの記憶がおかしいぞ。なんで俺が聖女って女と浮気したことになってるんだ!!!それに『覚醒者』、『女神イリスの加護』ってなんのことだ!」
「えっえっ~」
もじもじ。チラッ。もじもじ。チラッと言いずらそうにもじもじしている。あざと可愛い仕草だが、その態度にキースがさらにイラっとしたようだった。
「えっえっ~じゃない!ジュリアに何かしたのか!」
「ちょっとキース、こんな小さい子にそんなに怖い顔で言わなくてもいいじゃないの。」
女神なのだが、姿は少女なので思わず庇ってしまう。
「ジュリアが死んだのは、イリスが俺との約束を破ってちゃんとジュリアを守らなかったからだ。庇う必要なんてない!」
ええっとイリスを振り返ると、女神はしゅんとしながらテーブルにのの字を描いていた。
「どういうこと?」
「キースに死んでもジュリアを守れって言われたけど·····アルビスが来てね·····」
アルビスは魔王軍の四天王の一人だった。
「戦ってる内に頭に血が上ってジュリアから離れちゃったんだ·····」
シャシャシャシャと音を立ててのの字を描きながら、空いてる手で頭をパチンと叩いた。
「気づいたら、結界が壊れて~その時ジュリアが夢魔に捕まって·····」
「夢魔·····じゃああのキースは夢?」
「そー。イクスピアリ(四天王の一人)の闇魔法。私がアルビスに誘い出されたスキにジュリアが夢魔に捕まっちゃったの。私、戦いの女神だけど光魔法は使えなくて·····サイハント(太陽の女神)を呼びに行ってる間にジュリアが死んじゃったんだ~ごめんね。」
死んじゃったんだ~の口調が軽すぎて、ポカンとしてしまう。
「死んじゃったんだ~じゃないだろ!魔王を倒して凱旋したら、ジュリアが死んだって聞かされて俺がどんな気持ちになったか!」
キースは拳を女神に突きつけて、涙声で罵った。
「キースごわーい。だからごめんてー。お詫びにこの世界をもう一つ作ったんだから許してよぉ」
高速でのの字を描きながらペコりと頭を下げた。シュシュシュ、シュシュシュとリズミカルに音が響いている。テーブルにのの字型の傷跡が残りそうな勢いだ。
「この世界をもう一つ作った?どういうこと?」
「勇者になる時、魔王を倒したら1つだけなんでも希望を叶えてくれると聞いてたんだ。だから、俺はジュリアを生き返らせてくれと願ったんだ。でも・・・」
「さすがに死者を蘇らせることは無理って言ったのに、キースがしつこくてしつこくって・・・キース怖いから睨まないでよ!」
女神はキャッと言って両手で目を覆った。
「キース!睨まないで、話が続かないわ。で、どうしたの?」
「・・・ジュリア」
キースは眉毛が八の字に下げて、シュンとした様子で黙った。その姿が、主人に叱られた子犬のようでちょっと可哀想になった。キースは何も悪いことはしていないのだ。
そっと、キースの右手に手を絡めて恋人繋ぎをすると、満面の笑みを浮かべながらもう一方の手でジュリアを抱き寄せた。
キースの腕の中で、ジュリアの偽物の記憶が浄化の雨に濡れたように、溶け出した。徐々に一生を共に生きようと誓い、愛し合った記憶が蘇ってくる。
いつでも誠実に愛を与えてくれたキース・・・
「キースごめんね。本当の記憶を思い出したわ」
「ジュリア、本当に?」
「うん。キース大好き。愛してる。」
「ジュリア、本当に!じゃあ、じゃあ結婚してくれる!」
「はい。」
パチパチパチと女神は、祝福するように拍手した。
「キース、ジュリアと仲良くなれたじゃない!お幸せに!じゃあ私はこれで!」
この隙に逃げろ!と言わんばかりに去ろうとしたが、すかさずキースが制止した。
「 ちょっと待てコラ!話は終わってないぞ。この世界をもう一つ作ったのは分かった。で、何故ジュリアは『覚醒者』、『女神イリスの加護』なんてスキルを持ってるんだ?」
女神はしょぼんと俯いた。
「えっと~「女神イリスの加護」は、死なせちゃったお詫びというか・・・御守り代わりにつけたんだけどぉ~」
女神はチラッと、上目遣いでジュリアを見上げた。
小さな少女のこの仕草は、あどけなくていたいけな感じだった。
ジュリアは(何かあざといわぁー)と思いながら次の言葉を待った。
「実は~失敗しちゃったんだ。えへへへっ」
てへぺろ(・ω<)★。
女神はかなりキュートなてへぺろを披露したが、ジュリアはそれを可愛いと思う余裕は無かった。
痴話喧嘩は部屋でやれ!
他の客たちに野次られ、ジュリアは慌てた。キースの腕を取ると自分の部屋に連れてきた。
キースはまだグズグズ泣いている。いつものキースは痛みに強くて滅多なことでは泣いたりしない。涙なんて下手したら、10年くらい前に見たきりかもしれない。
前回の時はこんな姿は見たことなかった。
いつも男らしく我慢強かったのに。
子供のように泣きじゃくるキースを見ながらため息をついた。
「・・・ヒッィク・・・なっなんで?ジュリア俺のこと嫌いになっちゃったの?俺はずっとずっとジュリアのこと大好きなのに、なんで?」
そう言いながらジュリアに迫って来たので、慌てて後ろに下がる。必然的に壁際に追い詰められた。
「いやっ、私達只の幼馴染じゃない。」
「只の幼馴染じゃないよ!ジュリアは覚えてないかもしれないけど、俺達は愛し合った恋人同士だったんだ。なんでだよ。誰か他に好きな人出来たの?」
「えっ?キースも前のこと覚えてるの?」
思わず聞くと、キースも驚いたようだ。
「ジュリアも覚えているの?じゃあなんで嫌がるの!あんなに愛し合っていたじゃないか!」
キースの身勝手なセリフに怒りが込み上げてきた。
「キースが聖女と浮気したからでしょ!あんなに酷いことしておいて、今更なんなのよ!」
腹ただしくてキースの胸をバンバン叩く。
キースは目を真ん丸くして驚いた。
「えっ?聖女と浮気って何のこと?俺はずっとジュリア一筋だよ。それに一緒に旅したのは聖人のアレク(♂)だし。アレクを覚えていないの?聖女なんて会ったこともないよ。」
今度はジュリアが驚く番だった。
キースと私の記憶が違うのだ。
キースとお互いの記憶を話しあった。
わかったことは、聖女に出会うまでの記憶は一致していて、私が聖女と出会ったと思い込んでいる以降の記憶が全く違うことだ。
魔王討伐の旅の途中まで、ジュリアはキースの恋人兼ヒーラーとして一緒に同行していた。ヒーラーといっても治癒魔法はパーティー全員が使える為、キースがジュリアを離したくない為の口実だった。
ここまでは2人の記憶があっている。
キースの話はこうだ。
戦いが激化しこのままではジュリアに危険が及ぶため、魔王の国アルディに乗り込む前に手前の国ファーザで私はパーティーから脱退したのだ。魔王を倒したら迎えに行く。再会したら結婚しようとキースと約束して・・・
(キース、アレク?・・・アレク・・・アレク・・・聖職者のクセに酒飲みだった男がいたような、いなかったような・・・)アレクのことを思い出そうとすると、頭にカスミがかかったようになって思い出せない。
キースが嘘をついてるようには思えなかった。また、自分の記憶を辿りながら話していくと辻褄が合わないところがあるのに気づいた。どうして記憶が違うんだろ。魔力測定の結果も前とは違うし、おかしい。何かが間違っている。
「ジュリア、そういえば魔力測定の時別室に呼ばれていたよね。あの時、なんて言われたの?」
ステータスは見せない方が良いと忠告を受けたけど、キースなら大丈夫だろうと判断して事務所で受けた説明をそのまま話した。
話を進めて行くと、キースの眉間に縦じわがだんだん増えていった。
「『覚醒者』、『女神イリスの加護』だと・・・」
聞いたことがない低い声で唸るように呟いた。
その声には明確な怒りが含まれていた。
キースのそんな声聞いたのは初めてで、理由がわからず困惑する。
イライラと指を鳴らしたキースは、部屋の天井に向かって怒鳴りつけた。
「女神イリスどういうことだ!姿を現せ!」
キースの怒鳴り声に応えるように、何も無かった空間からキラキラした光が集まりある程度の塊になったと思うと、急激に眩く光り輝いた。
「どうもっ女神イリスで~す。」
光の中から軽い調子で女神が現れた!
波打つ黄金の髪、神秘的なブルーアイ。だがどう見ても10歳くらいの少女に見えた。ちっさい魔法の杖を右手にてヘラヘラ笑っている。その姿に威厳はまったく感じられなかった。
「イリス!ジュリアの記憶がおかしいぞ。なんで俺が聖女って女と浮気したことになってるんだ!!!それに『覚醒者』、『女神イリスの加護』ってなんのことだ!」
「えっえっ~」
もじもじ。チラッ。もじもじ。チラッと言いずらそうにもじもじしている。あざと可愛い仕草だが、その態度にキースがさらにイラっとしたようだった。
「えっえっ~じゃない!ジュリアに何かしたのか!」
「ちょっとキース、こんな小さい子にそんなに怖い顔で言わなくてもいいじゃないの。」
女神なのだが、姿は少女なので思わず庇ってしまう。
「ジュリアが死んだのは、イリスが俺との約束を破ってちゃんとジュリアを守らなかったからだ。庇う必要なんてない!」
ええっとイリスを振り返ると、女神はしゅんとしながらテーブルにのの字を描いていた。
「どういうこと?」
「キースに死んでもジュリアを守れって言われたけど·····アルビスが来てね·····」
アルビスは魔王軍の四天王の一人だった。
「戦ってる内に頭に血が上ってジュリアから離れちゃったんだ·····」
シャシャシャシャと音を立ててのの字を描きながら、空いてる手で頭をパチンと叩いた。
「気づいたら、結界が壊れて~その時ジュリアが夢魔に捕まって·····」
「夢魔·····じゃああのキースは夢?」
「そー。イクスピアリ(四天王の一人)の闇魔法。私がアルビスに誘い出されたスキにジュリアが夢魔に捕まっちゃったの。私、戦いの女神だけど光魔法は使えなくて·····サイハント(太陽の女神)を呼びに行ってる間にジュリアが死んじゃったんだ~ごめんね。」
死んじゃったんだ~の口調が軽すぎて、ポカンとしてしまう。
「死んじゃったんだ~じゃないだろ!魔王を倒して凱旋したら、ジュリアが死んだって聞かされて俺がどんな気持ちになったか!」
キースは拳を女神に突きつけて、涙声で罵った。
「キースごわーい。だからごめんてー。お詫びにこの世界をもう一つ作ったんだから許してよぉ」
高速でのの字を描きながらペコりと頭を下げた。シュシュシュ、シュシュシュとリズミカルに音が響いている。テーブルにのの字型の傷跡が残りそうな勢いだ。
「この世界をもう一つ作った?どういうこと?」
「勇者になる時、魔王を倒したら1つだけなんでも希望を叶えてくれると聞いてたんだ。だから、俺はジュリアを生き返らせてくれと願ったんだ。でも・・・」
「さすがに死者を蘇らせることは無理って言ったのに、キースがしつこくてしつこくって・・・キース怖いから睨まないでよ!」
女神はキャッと言って両手で目を覆った。
「キース!睨まないで、話が続かないわ。で、どうしたの?」
「・・・ジュリア」
キースは眉毛が八の字に下げて、シュンとした様子で黙った。その姿が、主人に叱られた子犬のようでちょっと可哀想になった。キースは何も悪いことはしていないのだ。
そっと、キースの右手に手を絡めて恋人繋ぎをすると、満面の笑みを浮かべながらもう一方の手でジュリアを抱き寄せた。
キースの腕の中で、ジュリアの偽物の記憶が浄化の雨に濡れたように、溶け出した。徐々に一生を共に生きようと誓い、愛し合った記憶が蘇ってくる。
いつでも誠実に愛を与えてくれたキース・・・
「キースごめんね。本当の記憶を思い出したわ」
「ジュリア、本当に?」
「うん。キース大好き。愛してる。」
「ジュリア、本当に!じゃあ、じゃあ結婚してくれる!」
「はい。」
パチパチパチと女神は、祝福するように拍手した。
「キース、ジュリアと仲良くなれたじゃない!お幸せに!じゃあ私はこれで!」
この隙に逃げろ!と言わんばかりに去ろうとしたが、すかさずキースが制止した。
「 ちょっと待てコラ!話は終わってないぞ。この世界をもう一つ作ったのは分かった。で、何故ジュリアは『覚醒者』、『女神イリスの加護』なんてスキルを持ってるんだ?」
女神はしょぼんと俯いた。
「えっと~「女神イリスの加護」は、死なせちゃったお詫びというか・・・御守り代わりにつけたんだけどぉ~」
女神はチラッと、上目遣いでジュリアを見上げた。
小さな少女のこの仕草は、あどけなくていたいけな感じだった。
ジュリアは(何かあざといわぁー)と思いながら次の言葉を待った。
「実は~失敗しちゃったんだ。えへへへっ」
てへぺろ(・ω<)★。
女神はかなりキュートなてへぺろを披露したが、ジュリアはそれを可愛いと思う余裕は無かった。
応援ありがとうございます!
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