禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

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1.バレてしまった資産総額

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 週末の夜。
 白富士インテリジェンス株式会社の総合開発部第二システム課で働くシステムエンジニアの楠灘源蔵くすなだげんぞうは、同僚のイケメン金村啓人かなむらけいとに呼び出され、何故か社内の合コンの席に加わっていた。
 女性四名、男性四名という構成で、源蔵以外はいずれも美男美女ばかりだ。
 逆に源蔵は誰もが認めるブサメンで、しかも禿げだ。悲しいぐらいに頭髪が薄く、顔の造りはゴリラと爬虫類を微妙に掛け合わせた様な構造になっている。
 それ故、どうして自分がこんな席に呼ばれたのかいまいち分かっていなかったのだが、啓人曰く、元々の面子だった営業部のイケメン君が急遽仕事の都合で参加出来なくなり、他に代役を探していたところ、暇そうな源蔵に白羽の矢が立ったという訳らしい。

「有り難く思えよ、楠灘。こーんな美人揃いの合コンなんて来たことねぇだろ」

 やたら恩着せがましく上から目線で絡んでくる啓人。
 もとはといえば、人数が足りないからということで必死になって代役を探していたらしいが、釣れたのが源蔵だと知るや、いきなり高慢な態度を取り始めたというのだから、もうどうしようもない。
 しかし源蔵は別段気にすることも無く、笑って受け流していた。
 美女達はいずれも、イケメン達の調子の良いトーク術に笑いの花を咲かせ、大いに盛り上がっている。
 その一方で源蔵は端っこでひとり、ちびちびとビールをすすりながら美味い料理を適当につつくばかりで、余り会話には加わろうとはしなかった。

(変に僕が絡んでも、皆嫌がるだけやろしな)

 自分がブサメンで禿げで、女性に相手にされないことは誰よりも自分自身が一番よく分かっている。だからこういう席では空気を読み、路傍の石と化すのが一番平和に済むというものだ。
 女性陣も時折気を遣って話を振ってはくれるものの、源蔵は言葉少なに相槌程度で応じるだけで、必要以上に食いつく様な真似はしなかった。
 だからイケメン三人も機嫌良く、女性達の気を引くことに専念出来ている。
 こういう場では兎に角、無に徹するのが一番だ。下手にしゃしゃり出てイケメン連中の怒りを買っても、面白いことなどひとつも無い。
 そうしてひとり蚊帳の外状態で事実上のひとり飲みを楽しんでいた源蔵だが、不意にスマートフォンが振動した。契約しているプロのファンドマネージャーからの連絡だった。
 手酌でビールをグラスに注ぎながら、画面上に踊る数字をつらつらと読み解いてゆく。

(おー、流石やな、東出さん。もうこんなに儲けてくれはってんのか)

 次々と流れ込んでくる数値に、源蔵は内心で拍手を贈っていた。
 源蔵自身は己の資産総額には然程興味を抱いていなかったが、彼が信頼しているファンドマネージャーの東出靖男ひがしでやすおには、心からの敬意と感謝を示す毎日だった。
 と、その時、正面の席に座っていた雪澤美智瑠ゆきざわみちるが、幾分興味を惹かれた様子で、スマートフォンに視線を落としている源蔵の顔を覗き込んできた。

「ねぇねぇ楠灘さん。何見てるの?」
「え? あぁ、いや、ちょっと契約してるファンドマネージャーさんから連絡ありまして……」

 余り詳しく語るつもりはなかったが、東出の素晴らしい手腕にひとり感心していた源蔵は、ついポロっと余計なことを口にしてしまった。
 すると傍らの啓人が、株でもやってるのかとウザ絡みしてきた。

「なぁ、お前どんだけ稼いでんだぁ? ちょっと見せろよぉ」
「あー、ちょっとあかんて。まだ返信せんといかんのに……」

 しかし啓人は半ば強引に源蔵のスマートフォンを奪って、八人席のテーブル中央でその画面を勝手に披露してしまった。

「んで、どんだけゲットしたんだよぉ? ウン万か? まぁ良くてウン十万ってなとこだろうけどさぁ」

 げらげらと馬鹿笑いする啓人。
 しかし美女四人は、そこに映し出されている数値に呆然としている様子だった。

(うわ、こらいかん)

 源蔵は慌ててスマートフォンを回収し、ワイシャツの胸ポケットに押し込んだ。
 が、女性達のこの反応は、どう見ても手遅れだった。恐らく、正確な数字を読まれたのだろう。

「あの……楠灘さん……さっき、5二億って数字が、見えちゃったんです、けど……」

 合コン参加の美女のひとりが驚きを隠せないといった様子で、じぃっとこちらを見つめてきた。
 すると、イケメン三人も急に酔いが醒めた様子で、信じられないといわんばかりの視線を向けてきた。

「え……いや、それ……お前、マジか?」

 飲みかけのグラスを手にしたまま、啓人が唖然とした顔で改めて訊いてきた。
 見られたものは仕方が無い――源蔵は、親から譲り受けた資産だと適当に相槌を返した。
 ところが、ここから先は明らかに空気が一変した。
 それまではイケメン三人にばかり視線が行っていた筈の美女四人が、一斉に源蔵だけを捕捉し始めたのだ。
 加えてイケメン三人までもが、一体どういうことだと更に追及してくる始末。

「いやいや、皆落ち着こうって……ここはね、ホラ、合コンやから。君らだけで楽しんでたらエエやんか」
「えー、そんなのつまんないですよー! ほらほら、楠灘さんもっと詳しく教えて下さいよ! 一体いつからそんなセレブだったんですかあ?」

 別の美女が、絶対に逃すものかという勢いで迫って来る。
 源蔵は、困ったなぁと薄くなった頭を掻いた。

「まぁ資産を受け継いだのは三年程前で、そん時ゃまだ30億ちょっとでしたから、今のファンドマネージャーさんがそんだけ凄いってことなんですけど」
「さ、さんじゅうおくぅ? お前……それって、一生働かなくても良い数字じゃんかよ!」

 何故か啓人の目の色が変わった。
 たかってやろうという腹積もりなのだろう。しかし流石に、親族でも親友でもない相手にそうやすやすと投資してやる程、源蔵は甘くない。

「あー、ダメダメ。君らにくれてやる銭は一銭もあらへんよ。今日ここに呼ばれたのかて、ただの頭数やねんから……君らは君らで仲良ぅしといて下さい。僕は死ぬまで童貞人生過ごして行くんでね」

 しかしイケメン三人は兎も角、美女四人は全く源蔵から視線を外そうとはしなかった。
 玉の輿でも狙っているのかも知らないが、源蔵は女性とは縁の無い生涯だということを自分でもよく分かっている。今更、こんなところで彼女らから熱視線を浴びたところで、ちっとも嬉しくなかった。

「あー、もうこんな時間やし、お先に失礼しますわ。僕の分はこれで払っといて下さい。お釣り要りませんので……」

 いいながら源蔵は万札を一枚取り出してテーブルに放り出すと、そのまま逃げる様に合コンの席から去っていった。
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