禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

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2.バレてしまった腕前

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 週明けのオフィスはいつも大体忙しいのだが、この日は特にてんてこ舞いだった。
 納期間近の自社開発ソフトウェアに、重大な不具合が発見されたからである。
 対応に当たったのは総合開発部の第一と第二の両システム課で、ほぼ総動員に近しい形でログ解析とシーケンスの分析、ソースコードの机上チェックなどに当たった。
 そしてそろそろ昼休みを迎えようかという頃になって、源蔵が問題の真因に気付いた。

「課長、ちょっと良いですか」

 源蔵はノートPCを抱えたまま、第二システム課の課長當間達雄とうまたつおの席に歩を寄せた。
 當間課長はそれまで渋い表情を浮かべていたが、源蔵が近づくと幾分ほっとした顔を見せた。

「お、もしかして捉えたか?」
「はい、見つけました。多分、間違い無いです」

 いいながら源蔵は近くの椅子を寄せて腰を下ろし、當間課長にノートPC上に立ち上げたドキュメントを見せながら説明を加えた。

「ここのシーケンスですよ。正常ケースならここでコールバックは一発返るだけなんですけど……」

 今回は異常ケースでコールバックが三連続、同じプロセスに返っていると説明。
 そこでアドレスの初期化をミスしており、オーバーフローが起きたと説明した。

「成程……コールバックが連続で来ることはまぁ珍しい話じゃないが、初期化が済んでいないところで飛んでくるのを想定していなかった訳か」
「対策は単純です。コールバック受信側で最初に初期化するルーチン呼んでおけば良いだけなんで」

 その解析結果を、今回問題となったソフトの開発責任者である第一システム課長吉田武義よしだたけよしに伝えると、早速その検証とソフト修正、そして社内評価へと雪崩れ込んでいった。
 そして夕方頃、漸くオフィスが落ち着いてきた時点で吉田課長がわざわざ顔を出し、當間課長の席で頭を下げた。

「いやぁ、今回は本当に助かりました。お陰様で納期に間に合いそうです」
「それは良かったです。皆で頑張った甲斐がありました」

 當間課長は穏やかに笑いながら立ち上がり、源蔵の席に視線を流した。

「楠灘君、上手くいったそうだよ」
「あー、それは良かったです」

 源蔵は小さく頭を下げるだけにとどめた。余りあれこれ不要な台詞を吐くと、自慢している様に聞こえてしまうと思ったからだ。
 ところが吉田課長はそこで去ることはせず、わざわざ源蔵の席にまで足を運んできた。

「今回も楠灘君に助けられたよ。もうこれで何回目かなぁ」
「はは……まぁ、たまたまですよ」

 良い加減この辺で話題を切ろうと思ったが、どういう訳かそこへ當間課長も自席を立って身を寄せてきた。

「彼はうちのエースですから、そちらには御譲り出来ませんよ」
「いやー、惜しいことをしました。當間課長よりも先に目は付けておいたんですがねぇ」

 などと軽口を交わしていたが、そこへ第一システム課の社員が呼びに来た為、吉田課長はその場を辞していった。
 當間課長も自席へと戻り、やっと通常の業務へと復帰出来る――と思ったその矢先、今度は総合開発部営業課の女性社員、長門早菜ながとはなが足早に近づいてきて、源蔵の席の横でぺこりと頭を下げた。

「今回は本当にありがとうございました。営業課も納期に穴を空けずに済んだと、皆さんほっとしています」
「いや、営業さんからはさっき課として當間課長に御挨拶頂いてましたから、別にもうエエですよ」

 源蔵は何とも居心地の悪さを感じた。
 早菜は社内でも指折りの美人で、営業課の癒し系とも噂されている女性だった。
 これまではほとんど接点が無かった為、こうして個人的に言葉をかけられるのも今回が初めてだった。

「それで、うちの課長から聞いたんですけど、楠灘さんが社内の危機的な状況を救ったことって、今回だけじゃないんですね。そんな凄いひとが居たなんて正直、びっくりしました」
「僕も、そんな噂になってるなんて今初めて聞いて、びっくりしてます」

 源蔵は薄くなった頭を掻きながら、苦笑を浮かべた。
 正直、余り女性への免疫というか耐性が無い身分としては、必要以上に長時間、早菜の様な美人と接しているのは何となく心苦しいし、非常にやり辛い。

「折角助けて頂いたんですし、我々営業も皆さんに恥ずかしくないぐらい、精一杯頑張ってきます」

 そこで早菜は漸く、源蔵の前から去っていった。
 それにしても、かなり精神的に疲れた。
 女性、しかも早菜程の綺麗な相手と一対一で言葉を交わすなど、普段なら決してあり得ない話だ。
 興味が無いから夜の街へ繰り出すことも無く、大体はムエタイジムで鍛えているか、自宅で漫画やアニメなどに時間を潰しているかのどちらかである。
 女っけなど欠片も無い生活だから、例え職場とはいえ、今回の様に個別で言葉を交わすのは源蔵には非常にハードルが高かった。
 一方、他の社員――特に啓人の様なイケメン連中は当たり前の様に女性社員に自ら声をかけ、場合によってはナンパにまで発展することもあるらしい。
 ああいうのは自分には無理だと内心で自嘲が絶えない源蔵。
 ここは職場であり、女遊びをする場所じゃないと自らにいい聞かせながら、彼は再び目の前の作業に没頭し始めた。
 そして定時を迎えた頃、啓人の周りには何人かのひとだかりが出来始めた。今夜はどの店に行くのかという相談をしているらしい。

(週明けから元気やなぁ)

 そんなことを思いながら退勤準備を進めていると、いつの間にかふたりの女性社員が傍らに佇んでいた。
 先日の社内合コンで席を共にした美智瑠と、彼女の同僚の園崎晶そのざきあきらの両名だった。

「どうかされましたか?」
「あ、えーと……楠灘さん、この後、御予定は?」

 妙なことを訊いてきた。
 他部署の女性社員が定時後の予定を尋ねるなど、こんなことは入社以来、初めてだった。
 そういえば彼女らは、いずれも源蔵の資産総額を知っている。何となく嫌な予感が脳裏に漂った。

「この後は、ジムで軽く汗流そうかと」
「へー……どこのジムなんですか?」

 晶が変に食いついてきた。スポーツジムか何かと勘違いしているらしい。

「ムエタイジムです。うちの駅近の」
「え……それって、格闘技の、ですか?」

 これは晶にとっても想定外だったのだろう。驚くと同時に若干、残念そうな色がその美貌に漂っている。
 スポーツジムなら一緒に通おう、などと思っていたのだろうか。よく分からない。

「えぇ、まぁ……んじゃ、あんまり時間無いんで」

 そこで話を切り上げて、源蔵はさっさとフロアを脱出した。
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