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22.バレてしまった綺麗な頭
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美智瑠から、スキンヘッドはきっとよく似合うだろうと前向きな意見を貰った源蔵は、その週末に車を出して大型家電量販店へと繰り出した。
ここでバリカンや高性能の髭剃りなどを買い求めようという訳だが、洗濯機やその他諸々の家電も幾つか新調して良い頃だと思い出し、結局店内全体をぶらぶらと徘徊することにした。
(テレビもぼちぼち買い替えてもエエかな……)
一度あれもこれも見てしまうと、ついつい色々欲しくなってしまう。
予算は潤沢にあるのだから、全て新しいものへと買い替えても良いのだが、しかしそれをやってしまうと時間が幾らあっても足りない。
今日のところは必要なものだけに手を出し、それ以外はまた後日ということで考えを改めた。
そうしてバリカンと高性能髭剃り、更には幾つか細々としたものを買い終えたところで、スマートフォンにラインの着信通知が入った。
冴愛からだった。
「オーナー、今日はお店来ないの?」
リロードでのアルバイトがそろそろ始まろうかという時間帯だった。
源蔵はここ最近、土日のランチタイムには全く顔を出していない。全て操、冴愛、徹平の三人に任せっきりとなっており、久しく料理の腕を披露していなかった。
正直いえば、リロードの厨房に立ちたい。フライパンを振るい、自慢の料理を常連客の皆さんに是非とも味わって貰いたい。
しかし、自分はもうあの店で下手にオーナー面を漂わせない方が良いと判断した。そう決めた以上は、平日の夜に時折顔を出して、ひとりの客として静かに時間を過ごす方が無難であろう。
「行く予定は無いよ。皆で頑張ってね」
そう短く返した後、駐車場へと向かう。
すると再び冴愛からメッセージが届いた。
「常連さん、オーナーの料理が食べたいっていってるよ。ウチもオーナーが作ってくれるまかない、食べたいよー」
しかし源蔵は、操と隆輔が幸せそうな笑顔を浮かべて言葉を交わし合っている姿を思い浮かべ、小さくかぶりを振った。
操にはオーナーたる自分が居る場面ではなく、完全に自由な、ひとりの優秀な店主として隆輔と接して貰いたい。加えて、彼女が隆輔と親しげにしているところを見るのは何となく気分がもやもやしてしまう。
間違い無く、これは嫉妬だ。
源蔵はリロードを復活させることに尽力したが、結局彼女の視線は他の誰かへと向いてしまった。
恩を着せるつもりは無いが、こうも簡単に鞍替えされてしまうと、流石に気分が萎える。
(はは……エエ歳こいて、僕は拗ねとんのやな。そらぁ、こんな面倒臭いブサメンなんか、誰も相手したがらへんわ)
結局自分は仕事と財力ぐらいしか取り柄が無いから、こうしてすぐ他者に友人や近しいひとびとを掻っ攫われてしまう。
今まで何度、こんな煮え湯を飲まされてきたことだろう。だからこそ、女性とはなるべく親しくならぬ様にと心がけて生きてきたというのに、また同じことを繰り返してしまった。
(ホンマに僕は学習能力が無いな)
自嘲の笑みを浮かべつつ、車のエンジンを入れる。
その前に、冴愛のメッセージに返信を入れておかなければならない。
「ごめんなー。僕がリロードで料理することは、もう無いと思う。皆で、頑張って」
それ以降、源蔵はスマートフォンには一切目もくれず、そのまま自宅へと引き返した。
◆ ◇ ◆
その夜、源蔵は全ての頭髪と眉毛を剃り落とした。
鏡の中に現れた超強面の男は、本当に自分なのかと疑いたくなる程の別人だった。
(うわー……自分でいうのも何やけど、こらぁインパクトあるわぁ。それにめっちゃいかつい)
源蔵は早速スマートフォンで自撮りした画像を、美智瑠に送ってみた。
それから一分もしないうちに、美智瑠から着信コールがかかった。
「わー! すっごい! もう剃っちゃったんですねー!」
いきなりビデオ通話で嬉しそうに呼びかけてきた美智瑠。
源蔵は一本の毛も生えていないぴかぴかの頭を軽く叩きながら、苦笑を浮かべた。
「思った以上にいかつい顔になりましたわ」
「やー、でもめっちゃカッコ良くなりましたよー! それなら絶対、モテますって!」
心底嬉しそうに囃し立てる美智瑠。
いわれてみれば、従来のゴリラ面も爬虫類っぽい目元も、スキンヘッドと眉無し強面にすっかり隠れてしまって、ほとんど意識させることは無くなっている様にも思える。
「それにしても楠灘さん、頭の形、綺麗ですよね。全体のバランスも良いし……オンナには絶対真似出来ないカッコ良さですよ、それ」
「何ぼなんでも、褒め過ぎちゃいます?」
源蔵はどうせ社交辞令のお世辞だろうと高を括ってはいたが、しかし美智瑠は尚も興奮した様子で、まだまだ全然褒め足りないなどと口走っていた。
「いや、ホント、マジでイイですって。そこらの普通のイケメンなんかよりも、何千倍もイケてますってば。今度、デートしましょうよ。アタシ絶対、自慢出来る」
それ程なのかと、流石に源蔵は驚きを禁じ得なかった。
美智瑠は先日、イケメンには少々飽きたなどと漏らしていたが、それでも人間の好みというものはそうそう変わるものではない。
その彼女が、自らデートを申し入れてきた。
ということは、この眉無し強面スキンヘッドは女性から見ても決して悪くないということなのだろうか。
(もっと早くしといたら良かったかな)
などと内心で苦笑を浮かべた源蔵だが、デートの申し入れは保留した。
今ここで、下手にトータルメディア開発部を刺激する訳にはいかないという警戒心が湧いたからだ。
「えー、残念だなー。ホントなら今すぐにでも一緒にディナーとか行きたい気分なのにー」
「お気持ちだけ受け取っときます。また機会があったら、飲みに行きましょ」
そこで源蔵は回線を切った。
が、頬は未だ、緩みっ放しだ。
ただのイメチェンが、思った以上の効果をもたらしたことは素直に嬉しかった。
ここでバリカンや高性能の髭剃りなどを買い求めようという訳だが、洗濯機やその他諸々の家電も幾つか新調して良い頃だと思い出し、結局店内全体をぶらぶらと徘徊することにした。
(テレビもぼちぼち買い替えてもエエかな……)
一度あれもこれも見てしまうと、ついつい色々欲しくなってしまう。
予算は潤沢にあるのだから、全て新しいものへと買い替えても良いのだが、しかしそれをやってしまうと時間が幾らあっても足りない。
今日のところは必要なものだけに手を出し、それ以外はまた後日ということで考えを改めた。
そうしてバリカンと高性能髭剃り、更には幾つか細々としたものを買い終えたところで、スマートフォンにラインの着信通知が入った。
冴愛からだった。
「オーナー、今日はお店来ないの?」
リロードでのアルバイトがそろそろ始まろうかという時間帯だった。
源蔵はここ最近、土日のランチタイムには全く顔を出していない。全て操、冴愛、徹平の三人に任せっきりとなっており、久しく料理の腕を披露していなかった。
正直いえば、リロードの厨房に立ちたい。フライパンを振るい、自慢の料理を常連客の皆さんに是非とも味わって貰いたい。
しかし、自分はもうあの店で下手にオーナー面を漂わせない方が良いと判断した。そう決めた以上は、平日の夜に時折顔を出して、ひとりの客として静かに時間を過ごす方が無難であろう。
「行く予定は無いよ。皆で頑張ってね」
そう短く返した後、駐車場へと向かう。
すると再び冴愛からメッセージが届いた。
「常連さん、オーナーの料理が食べたいっていってるよ。ウチもオーナーが作ってくれるまかない、食べたいよー」
しかし源蔵は、操と隆輔が幸せそうな笑顔を浮かべて言葉を交わし合っている姿を思い浮かべ、小さくかぶりを振った。
操にはオーナーたる自分が居る場面ではなく、完全に自由な、ひとりの優秀な店主として隆輔と接して貰いたい。加えて、彼女が隆輔と親しげにしているところを見るのは何となく気分がもやもやしてしまう。
間違い無く、これは嫉妬だ。
源蔵はリロードを復活させることに尽力したが、結局彼女の視線は他の誰かへと向いてしまった。
恩を着せるつもりは無いが、こうも簡単に鞍替えされてしまうと、流石に気分が萎える。
(はは……エエ歳こいて、僕は拗ねとんのやな。そらぁ、こんな面倒臭いブサメンなんか、誰も相手したがらへんわ)
結局自分は仕事と財力ぐらいしか取り柄が無いから、こうしてすぐ他者に友人や近しいひとびとを掻っ攫われてしまう。
今まで何度、こんな煮え湯を飲まされてきたことだろう。だからこそ、女性とはなるべく親しくならぬ様にと心がけて生きてきたというのに、また同じことを繰り返してしまった。
(ホンマに僕は学習能力が無いな)
自嘲の笑みを浮かべつつ、車のエンジンを入れる。
その前に、冴愛のメッセージに返信を入れておかなければならない。
「ごめんなー。僕がリロードで料理することは、もう無いと思う。皆で、頑張って」
それ以降、源蔵はスマートフォンには一切目もくれず、そのまま自宅へと引き返した。
◆ ◇ ◆
その夜、源蔵は全ての頭髪と眉毛を剃り落とした。
鏡の中に現れた超強面の男は、本当に自分なのかと疑いたくなる程の別人だった。
(うわー……自分でいうのも何やけど、こらぁインパクトあるわぁ。それにめっちゃいかつい)
源蔵は早速スマートフォンで自撮りした画像を、美智瑠に送ってみた。
それから一分もしないうちに、美智瑠から着信コールがかかった。
「わー! すっごい! もう剃っちゃったんですねー!」
いきなりビデオ通話で嬉しそうに呼びかけてきた美智瑠。
源蔵は一本の毛も生えていないぴかぴかの頭を軽く叩きながら、苦笑を浮かべた。
「思った以上にいかつい顔になりましたわ」
「やー、でもめっちゃカッコ良くなりましたよー! それなら絶対、モテますって!」
心底嬉しそうに囃し立てる美智瑠。
いわれてみれば、従来のゴリラ面も爬虫類っぽい目元も、スキンヘッドと眉無し強面にすっかり隠れてしまって、ほとんど意識させることは無くなっている様にも思える。
「それにしても楠灘さん、頭の形、綺麗ですよね。全体のバランスも良いし……オンナには絶対真似出来ないカッコ良さですよ、それ」
「何ぼなんでも、褒め過ぎちゃいます?」
源蔵はどうせ社交辞令のお世辞だろうと高を括ってはいたが、しかし美智瑠は尚も興奮した様子で、まだまだ全然褒め足りないなどと口走っていた。
「いや、ホント、マジでイイですって。そこらの普通のイケメンなんかよりも、何千倍もイケてますってば。今度、デートしましょうよ。アタシ絶対、自慢出来る」
それ程なのかと、流石に源蔵は驚きを禁じ得なかった。
美智瑠は先日、イケメンには少々飽きたなどと漏らしていたが、それでも人間の好みというものはそうそう変わるものではない。
その彼女が、自らデートを申し入れてきた。
ということは、この眉無し強面スキンヘッドは女性から見ても決して悪くないということなのだろうか。
(もっと早くしといたら良かったかな)
などと内心で苦笑を浮かべた源蔵だが、デートの申し入れは保留した。
今ここで、下手にトータルメディア開発部を刺激する訳にはいかないという警戒心が湧いたからだ。
「えー、残念だなー。ホントなら今すぐにでも一緒にディナーとか行きたい気分なのにー」
「お気持ちだけ受け取っときます。また機会があったら、飲みに行きましょ」
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