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31.バレてしまったガキ臭
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同窓会の前日。
源蔵は今回初めて出席する旨を、美貴久に伝えていた。
「おー、楠灘来るのかー。きっと先生、喜ぶぞー」
電話口の向こうで、美貴久は感慨深げな様子で静かに笑っていた。
「俺最近スキンヘッドにしたんやけど、先生驚かはるやろか」
「あ、大丈夫なんじゃない? 高校ん時だって結構短く刈り込んでたじゃんよ」
当時空手部だった源蔵は、中途半端に髪を伸ばすと色々と面倒だからということで、五分刈りよりも少し短めに頭髪を刈り込んでいた。
その当時のことを思えば、美貴久がいう様にスキンヘッドもそう変わらないのかも知れない。
「ところでさ、明日来るんなら、高校ん時にさんざん楠灘を馬鹿にした連中、見返してやらない?」
「え? どーゆーことよ?」
源蔵は美貴久がいわんとしていることが今ひとつ分からなかった。
そんな源蔵に美貴久は、今の源蔵のセレブな姿を徹底して見せつけてやろうぜと幾分興奮気味に語った。
「俺らもさ、この歳になったらイケメンとか可愛いとかそんなことよりも、やっぱカネだよ、カネ。持ってる奴が強いんだよ。今のお前ならさ、あいつらギャフンっていわせられんじゃない?」
やけに嬉しそうな調子で勧めてくる美貴久。
しかし下手に煽ると、後で面倒なことになるのではないかという警戒心が源蔵の中で働いた。
そんな源蔵に美貴久は、そこまで度胸のある奴らじゃないと一笑に付した。
「俺さ、高校ん時からあいつらが楠灘のこと馬鹿にすんの、めっちゃ腹立ってたんだよ。成績優秀だし、空手の地方大会でも優勝してる実力者なのにさ、ちょっと顔の造りが悪いからって好き放題いってくれちゃって。まぁ俺もさ、あん時ゃオタクの陰キャだったから庇ってやれなかったってのも悪いんだけど」
憤懣やるかたなしの調子で怒りを滲ませている美貴久。
彼は本気で、源蔵の為に腹を立てている様子だった。が、恐らくそれだけではないだろう。
(あー……植原も何やかんやで、あの連中に仕返ししたいんやな)
ならばここは源蔵の為というよりも、美貴久の鬱憤を晴らしてやる為に、ひとつ彼の小芝居に乗ってやっても良いだろう。
「エエよ。んで、どないすんの?」
「俺がさ、楠灘のセレブなところをどんどん持ち上げてやっから、楠灘は大物ぶって鷹揚に頷いてくれりゃあ、それでイイって」
そんな訳で、良い歳したおっさんふたりによるプチリベンジ作戦が組み上げられた。
そして同窓会当日、美貴久が執拗なまでに源蔵のセレブな生活ぶりをヨイショしまくるという露骨な自慢大会が幕を開けるという訳である。
(やり過ぎんかったらエエんやけどなぁ)
源蔵は自宅リビングで食後のコーヒーを味わいながら、苦笑を滲ませていた。
◆ ◇ ◆
高校の頃、源蔵は勉学と空手に打ち込んでいた。
己が不細工であるということは、小学生の頃から既にはっきりと意識していた。だから美醜以外の部分で努力を重ね、他のイケメン同級生に何とか対抗しようと頑張った。
その結果、学力考査では常に学年トップ10内に入る成績を収めていたし、空手では地方大会で何度も優勝を重ねて、関東の高校空手界では少しばかり名が知られる様にもなっていた。
恩師曽根山からも、本当に自慢の弟子だといつも褒められていた。
そうして何とか自信をつけた源蔵は、同じクラスの美少女で所謂陽キャの部類に入る中谷亜沙子に告白した。
少しぐらいは可能性があるんじゃないかと信じて。
しかし結果は、散々だった。
「うーわ、キッモ……ちょっと頭イイからって、調子に乗んなよ、ブサメン。アンタなんかがアタシと釣り合う訳ねーじゃん……ウザいから、もう二度と話かけないでよね」
その後、亜沙子はクラスの他のイケメン男子と付き合い始めた。
彼女はこれ見よがしに源蔵の前でカレシとイチャつきまくり、事あるごとにそのカレシとふたりで源蔵に罵詈雑言の嵐を浴びせかけるなどして、兎に角徹底的に源蔵を貶め続けた。
源蔵は、己の浅はかさを悟った。
どんなに努力しようが、どれ程に実績を残そうが、結局は顔だ。見た目だ。自分の様なブサメンは、何をしても意味が無いのだ。
その非情な現実を改めて思い知らされた。
更にその後、源蔵は努力を重ねて大学時代に二度、告白した。
そのいずれに於いても、矢張り不細工であることを理由に拒絶された。
だから、自分にはもう恋愛は無理だとはっきり悟った。
◆ ◇ ◆
そして現在。
高校の時に散々源蔵を馬鹿にし、嘲り続けていた筈の亜沙子が、同窓会で他の男子の追随を許さぬ絶対的な財力を示した源蔵に対し、嫌らしい程の笑みを浮かべてすり寄ってくる姿勢を見せた。
その無様な姿に源蔵は心底幻滅し、同時に腹が立った。
(僕は、こんな浅ましい奴の所為で自分を否定せなあかんかったんか)
もう二度と恋愛などに憧れないと心に誓った元凶が、まさかこの程度の軽い存在だったとは。
一体今まで、自分は何をしていたのだろう。
(けど、もう今更やな)
自分を卑下し、否定する癖が完全に身に染みついてしまっている。もう、これから先はまともな恋愛など出来ないだろう。
「楠灘、どした?」
テラス席でワイングラスを傾けている美貴久が、少しばかり心配そうな面持ちで覗き込んできた。
源蔵は、ちょっと昔のことを思い出していたと薄い苦笑を滲ませた。
「せやけど、俺も植原もまだまだガキやな。あの連中に仕返ししたぐらいで喜んでるとこなんて、中坊まんまやんか」
「あー、そりゃ否定しない。俺も楠灘もまだ全然若いって証拠じゃん」
そういって笑う美貴久。
そうだ、子供で良い。自分はこの先もずっとガキのままで居続けよう。
恋愛などは、イケメンやフツメン辺りの『大人』がやれば良い。
源蔵は、改めて己の無力さを認めた。
源蔵は今回初めて出席する旨を、美貴久に伝えていた。
「おー、楠灘来るのかー。きっと先生、喜ぶぞー」
電話口の向こうで、美貴久は感慨深げな様子で静かに笑っていた。
「俺最近スキンヘッドにしたんやけど、先生驚かはるやろか」
「あ、大丈夫なんじゃない? 高校ん時だって結構短く刈り込んでたじゃんよ」
当時空手部だった源蔵は、中途半端に髪を伸ばすと色々と面倒だからということで、五分刈りよりも少し短めに頭髪を刈り込んでいた。
その当時のことを思えば、美貴久がいう様にスキンヘッドもそう変わらないのかも知れない。
「ところでさ、明日来るんなら、高校ん時にさんざん楠灘を馬鹿にした連中、見返してやらない?」
「え? どーゆーことよ?」
源蔵は美貴久がいわんとしていることが今ひとつ分からなかった。
そんな源蔵に美貴久は、今の源蔵のセレブな姿を徹底して見せつけてやろうぜと幾分興奮気味に語った。
「俺らもさ、この歳になったらイケメンとか可愛いとかそんなことよりも、やっぱカネだよ、カネ。持ってる奴が強いんだよ。今のお前ならさ、あいつらギャフンっていわせられんじゃない?」
やけに嬉しそうな調子で勧めてくる美貴久。
しかし下手に煽ると、後で面倒なことになるのではないかという警戒心が源蔵の中で働いた。
そんな源蔵に美貴久は、そこまで度胸のある奴らじゃないと一笑に付した。
「俺さ、高校ん時からあいつらが楠灘のこと馬鹿にすんの、めっちゃ腹立ってたんだよ。成績優秀だし、空手の地方大会でも優勝してる実力者なのにさ、ちょっと顔の造りが悪いからって好き放題いってくれちゃって。まぁ俺もさ、あん時ゃオタクの陰キャだったから庇ってやれなかったってのも悪いんだけど」
憤懣やるかたなしの調子で怒りを滲ませている美貴久。
彼は本気で、源蔵の為に腹を立てている様子だった。が、恐らくそれだけではないだろう。
(あー……植原も何やかんやで、あの連中に仕返ししたいんやな)
ならばここは源蔵の為というよりも、美貴久の鬱憤を晴らしてやる為に、ひとつ彼の小芝居に乗ってやっても良いだろう。
「エエよ。んで、どないすんの?」
「俺がさ、楠灘のセレブなところをどんどん持ち上げてやっから、楠灘は大物ぶって鷹揚に頷いてくれりゃあ、それでイイって」
そんな訳で、良い歳したおっさんふたりによるプチリベンジ作戦が組み上げられた。
そして同窓会当日、美貴久が執拗なまでに源蔵のセレブな生活ぶりをヨイショしまくるという露骨な自慢大会が幕を開けるという訳である。
(やり過ぎんかったらエエんやけどなぁ)
源蔵は自宅リビングで食後のコーヒーを味わいながら、苦笑を滲ませていた。
◆ ◇ ◆
高校の頃、源蔵は勉学と空手に打ち込んでいた。
己が不細工であるということは、小学生の頃から既にはっきりと意識していた。だから美醜以外の部分で努力を重ね、他のイケメン同級生に何とか対抗しようと頑張った。
その結果、学力考査では常に学年トップ10内に入る成績を収めていたし、空手では地方大会で何度も優勝を重ねて、関東の高校空手界では少しばかり名が知られる様にもなっていた。
恩師曽根山からも、本当に自慢の弟子だといつも褒められていた。
そうして何とか自信をつけた源蔵は、同じクラスの美少女で所謂陽キャの部類に入る中谷亜沙子に告白した。
少しぐらいは可能性があるんじゃないかと信じて。
しかし結果は、散々だった。
「うーわ、キッモ……ちょっと頭イイからって、調子に乗んなよ、ブサメン。アンタなんかがアタシと釣り合う訳ねーじゃん……ウザいから、もう二度と話かけないでよね」
その後、亜沙子はクラスの他のイケメン男子と付き合い始めた。
彼女はこれ見よがしに源蔵の前でカレシとイチャつきまくり、事あるごとにそのカレシとふたりで源蔵に罵詈雑言の嵐を浴びせかけるなどして、兎に角徹底的に源蔵を貶め続けた。
源蔵は、己の浅はかさを悟った。
どんなに努力しようが、どれ程に実績を残そうが、結局は顔だ。見た目だ。自分の様なブサメンは、何をしても意味が無いのだ。
その非情な現実を改めて思い知らされた。
更にその後、源蔵は努力を重ねて大学時代に二度、告白した。
そのいずれに於いても、矢張り不細工であることを理由に拒絶された。
だから、自分にはもう恋愛は無理だとはっきり悟った。
◆ ◇ ◆
そして現在。
高校の時に散々源蔵を馬鹿にし、嘲り続けていた筈の亜沙子が、同窓会で他の男子の追随を許さぬ絶対的な財力を示した源蔵に対し、嫌らしい程の笑みを浮かべてすり寄ってくる姿勢を見せた。
その無様な姿に源蔵は心底幻滅し、同時に腹が立った。
(僕は、こんな浅ましい奴の所為で自分を否定せなあかんかったんか)
もう二度と恋愛などに憧れないと心に誓った元凶が、まさかこの程度の軽い存在だったとは。
一体今まで、自分は何をしていたのだろう。
(けど、もう今更やな)
自分を卑下し、否定する癖が完全に身に染みついてしまっている。もう、これから先はまともな恋愛など出来ないだろう。
「楠灘、どした?」
テラス席でワイングラスを傾けている美貴久が、少しばかり心配そうな面持ちで覗き込んできた。
源蔵は、ちょっと昔のことを思い出していたと薄い苦笑を滲ませた。
「せやけど、俺も植原もまだまだガキやな。あの連中に仕返ししたぐらいで喜んでるとこなんて、中坊まんまやんか」
「あー、そりゃ否定しない。俺も楠灘もまだ全然若いって証拠じゃん」
そういって笑う美貴久。
そうだ、子供で良い。自分はこの先もずっとガキのままで居続けよう。
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