5 / 16
二話 疑うとか、信じるとか
02
しおりを挟む
まずは荷物を適当に置くと、押し入れの中をチェック。
高級そうな布団が一式揃っている、つまり寝室は別。
棚は空っぽだが、机にはいくらか新品の筆記用具が用意されていた。
箪笥の最下段には付箋が貼ってあり、『ご自由にどうぞ』と整った字で書かれている。
開けてみればどうやら和服のようで、細かい分類は解らないが部屋着や寝間着のためだろう。
申し訳ないが着付けが出来ないのでこれのお世話になることは無さそうだ。
さて、と諸々荷解きする。
もとより一週間ほどの滞在しか予定していないし、延びるなら洗濯させて貰えば服はどうとでもなるし家に取りに行けばいい。
スマートフォンを見れば時刻は11時手前といったところ。
居候を決意してそれが鈍る前にさっさと荷造りして来たのでちょっと早すぎたかもしれない。
とりあえず母に『お部屋貰ったよ。何かあれば連絡するし、お母さんも何かあれば連絡ちょうだい』とだけメッセージを送っておいた。
ここは屋敷の中をいろいろ見て回るべきなのかもしれないが、ゆっくりしろと言われたからには出ないほうが良いのだろうか。
ひとまずじっくり地図を見てみることにする。
屋敷そのものも広いが、部屋のひとつひとつも広いので部屋数はそう多くない。
どうやら昨日通されたのは住職が会議などに使うための客間だったようだ。
今いる部屋は客間よりは玄関に近く、とおるの部屋にも食堂などにもほど近い、そこそこ良い位置に見えた。
とおるの部屋の隣に書斎があるあたり、おそらく先程の推測は当たりだろう。
彼は書物によって現代に付いていこうとしている。
ただ、屋敷の最北西にある部屋だけには何も書かれていないのが気になった。
他の部屋をぐるりと回り込むように廊下が繋がっているし、まるで隠し部屋のように思えてしまう。
堂々と地図に記すからには疚しいことは無い可能性はあるし単なる空き部屋かもしれない。
……もしかしたら、自分が断ったら第二希望をすぐこちらに住まわせるのかな、なんて思ってしまった。
ネガティブが過ってしまったので、地図は折り畳む。
根拠に欠けた疑念は相手にも失礼だし自分の精神衛生にも良くない。
なんとなく、姿見の前に立つ。
父が亡くなる前は欲しいと思っていていつか誕生日にでも買って貰おうと願っていたものだった。
仮にとはいえこんなかたちで自分のものになるとは皮肉なものだ。
それにしても、とおるとは釣り合わない気がする、と感じる泉。
とおるは世間一般から見ても充分美形に入る部類で、整った顔立ちも、丁寧な仕草も、気遣いも、彼が普通の人間であったならば迷いなく飛びつきたくなるレベルの優良物件だろう。
一方泉はというと、父が亡くなったことで少しでも節約するために長かった髪はばっさり切った。
セミショートの黒髪は癖こそ無いがきちんとした手入れまでする余裕は無く、本当に最低限。
顔も別段特筆することのない特徴ナシ、いわゆる『クラスに何人かいる量産型女子高生』の典型である。
スタイルだってお世辞にも良いとは言えない。
太ってはいないと思うが痩せているわけでもない、本当にただただ普通。
そもそもとおるは求婚してくるまでに自分を見たことがあったのだろうか。
性格だって別に良い子だと思わない。
自己肯定感が低いとまでは言わないが、胸を張って自分は良い人間であると言い切れる自信はない。
自分なりの精一杯は尽くしてきたつもりだけれどそれだけで、周囲がどう評価するかは別の話だ。
だからこそとおるの好意の理由が解らなくて困惑するのだ。
教えて欲しいのにぼかされて、ただただ甘い優しさを与えてくるだけで、それだけで好きになれるか、なんて。
「……やめよう」
一度はとおるに委ねると決めたのだ、疑っていたら疲れるしキリがない。
『現時点では話せない』と言われたのなら、いつか話してくれるかもしれない。
そもそも、結局居候を決断したのは自分だ。
提案に甘えておきながら疑うなんて無礼もいいところだろう。
気分を変えようと、障子を開ける。
障子紙はよくよく見たらうっすらと紅葉の模様が入っていたので、貼り換えたのかもしれない。
窓ガラスは綺麗に磨き抜かれていて、木々の向こうに街並みが見えた。
森田は世話役と言っていたが、まさかこの屋敷すべてを森田一人が手入れしているのだろうか?
そのあたりもいろいろ一人で考えるより本人たちに尋ねたほうが早いなと感じ、座布団にうつ伏せに寝転ぶとスマートフォンを手に取った。
まあ、尋ねたところで答えてくれる保証が無いのがここの人たちの困ったところだけれど。
Wi-Fiが飛んでいるのは意外だった。
高級そうな布団が一式揃っている、つまり寝室は別。
棚は空っぽだが、机にはいくらか新品の筆記用具が用意されていた。
箪笥の最下段には付箋が貼ってあり、『ご自由にどうぞ』と整った字で書かれている。
開けてみればどうやら和服のようで、細かい分類は解らないが部屋着や寝間着のためだろう。
申し訳ないが着付けが出来ないのでこれのお世話になることは無さそうだ。
さて、と諸々荷解きする。
もとより一週間ほどの滞在しか予定していないし、延びるなら洗濯させて貰えば服はどうとでもなるし家に取りに行けばいい。
スマートフォンを見れば時刻は11時手前といったところ。
居候を決意してそれが鈍る前にさっさと荷造りして来たのでちょっと早すぎたかもしれない。
とりあえず母に『お部屋貰ったよ。何かあれば連絡するし、お母さんも何かあれば連絡ちょうだい』とだけメッセージを送っておいた。
ここは屋敷の中をいろいろ見て回るべきなのかもしれないが、ゆっくりしろと言われたからには出ないほうが良いのだろうか。
ひとまずじっくり地図を見てみることにする。
屋敷そのものも広いが、部屋のひとつひとつも広いので部屋数はそう多くない。
どうやら昨日通されたのは住職が会議などに使うための客間だったようだ。
今いる部屋は客間よりは玄関に近く、とおるの部屋にも食堂などにもほど近い、そこそこ良い位置に見えた。
とおるの部屋の隣に書斎があるあたり、おそらく先程の推測は当たりだろう。
彼は書物によって現代に付いていこうとしている。
ただ、屋敷の最北西にある部屋だけには何も書かれていないのが気になった。
他の部屋をぐるりと回り込むように廊下が繋がっているし、まるで隠し部屋のように思えてしまう。
堂々と地図に記すからには疚しいことは無い可能性はあるし単なる空き部屋かもしれない。
……もしかしたら、自分が断ったら第二希望をすぐこちらに住まわせるのかな、なんて思ってしまった。
ネガティブが過ってしまったので、地図は折り畳む。
根拠に欠けた疑念は相手にも失礼だし自分の精神衛生にも良くない。
なんとなく、姿見の前に立つ。
父が亡くなる前は欲しいと思っていていつか誕生日にでも買って貰おうと願っていたものだった。
仮にとはいえこんなかたちで自分のものになるとは皮肉なものだ。
それにしても、とおるとは釣り合わない気がする、と感じる泉。
とおるは世間一般から見ても充分美形に入る部類で、整った顔立ちも、丁寧な仕草も、気遣いも、彼が普通の人間であったならば迷いなく飛びつきたくなるレベルの優良物件だろう。
一方泉はというと、父が亡くなったことで少しでも節約するために長かった髪はばっさり切った。
セミショートの黒髪は癖こそ無いがきちんとした手入れまでする余裕は無く、本当に最低限。
顔も別段特筆することのない特徴ナシ、いわゆる『クラスに何人かいる量産型女子高生』の典型である。
スタイルだってお世辞にも良いとは言えない。
太ってはいないと思うが痩せているわけでもない、本当にただただ普通。
そもそもとおるは求婚してくるまでに自分を見たことがあったのだろうか。
性格だって別に良い子だと思わない。
自己肯定感が低いとまでは言わないが、胸を張って自分は良い人間であると言い切れる自信はない。
自分なりの精一杯は尽くしてきたつもりだけれどそれだけで、周囲がどう評価するかは別の話だ。
だからこそとおるの好意の理由が解らなくて困惑するのだ。
教えて欲しいのにぼかされて、ただただ甘い優しさを与えてくるだけで、それだけで好きになれるか、なんて。
「……やめよう」
一度はとおるに委ねると決めたのだ、疑っていたら疲れるしキリがない。
『現時点では話せない』と言われたのなら、いつか話してくれるかもしれない。
そもそも、結局居候を決断したのは自分だ。
提案に甘えておきながら疑うなんて無礼もいいところだろう。
気分を変えようと、障子を開ける。
障子紙はよくよく見たらうっすらと紅葉の模様が入っていたので、貼り換えたのかもしれない。
窓ガラスは綺麗に磨き抜かれていて、木々の向こうに街並みが見えた。
森田は世話役と言っていたが、まさかこの屋敷すべてを森田一人が手入れしているのだろうか?
そのあたりもいろいろ一人で考えるより本人たちに尋ねたほうが早いなと感じ、座布団にうつ伏せに寝転ぶとスマートフォンを手に取った。
まあ、尋ねたところで答えてくれる保証が無いのがここの人たちの困ったところだけれど。
Wi-Fiが飛んでいるのは意外だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる