死にたくなる朝に

藤宮 和紗

文字の大きさ
上 下
1 / 3

流される日々

しおりを挟む
寝る直前、いつも考えることは次の日のことだ。
次に目が覚めたらまた憂鬱な1日が始まると思うとどうも眠れない。
早く寝なければ明日が辛いということは百も承知だ。
明日のことを考えないようにすると今日の出来事が頭を過ぎる。
楽しいことだったり失敗したことだったり、辛かったことだったり。
その時の感情に左右されることが多いだろう。

明日の不安の解消の仕方も、今日の不満の解消の仕方もわからない。
だから余計に眠れなくなる。

スマホを閉じて目を閉じて。
それだけで良いはずなのに一向に眠気が訪れない。

目を閉じて何分経ったかすらも分からない。
気が付けば空は明るく時計は4時を示している。

また今日も眠れない事実を抱えて仕事に向かう。

あぁ、憂鬱な1日のはじまりだ。
目を閉じて開けただけなのに何故こんなにも時間が経つのが早いのか疑問に思う。
見つからない解決策を考えて無意味な時間をまた過ごした。


朝から晩まで立ち仕事。
時間を消化して家に帰ればまた眠れない不安が私を襲う。
これが何日続けば私は眠れるようになるのだろうか。
1日たった数時間寝ただけで体を起こすのはあと何日続くのだろう。

わからない。
この先のことなど。


帰った私を出迎えたのは温かいご飯でも布団でもない。
肌寒い真っ暗な部屋だ。
適当に化粧を落とし適当にシャワーを浴びる。
洗顔あとのスキンケアなど遠の昔に忘れてしまった。

冷たい弁当を喉に流し込み、テレビをつけることも忘れて布団に潜り込む。

暗い天井。

不意にかかってきた電話に出る。

相手は、高卒で働いた私とは違う道を行く友だった。
なんでも勉強が辛いらしい。

そかそか。

私はその勉強すらも諦めたものだ。
あいにくお金がなくてね。

兄弟の進学費を考えるだけで自分はその道を外れたよ。
良いじゃないか、自分の夢を追いかけられて。

私もあと数年したら追いかけることができるかな。
まぁ、友には関係ない話か。

あぁ、そうかい。
親の仕送りが少なくて自由に出来ないと。

そかそか。

自分で働くことはしないのかい?
あぁ、勉強で忙しいのだね。
じゃあ、自由もいらないのでは?
どうせ数年後には私よりも稼いでいるのだろう?

まぁ、確かに。
働いたら自由な時間は意外にも多いし少ないよ。
なんせ、超高齢化社会のこのご時世だからね。
大学もなく田んぼしかないこの田舎には娯楽になるものなんてないからね。
都会で楽しんでくると良いよ。
私は毎日楽しそうでいいなって。


あぁ、そうかい。
高卒の私は楽そうかい。
そりゃよかった。
楽しいよ。
何たって私はバカだかね。
友よりは楽しい毎日を送っているよ。
友はご苦労なこった。
毎日毎日勉強勉強。
頭がおかしくなりそうだね。

まぁでも、バカな私だけど今の私の仕事も結構頭を使うんだよ。
だから、友が社会に出たときは多分学生の頃よりも頭を使うだろうね。
大変だなぁ。
まぁ、頑張りなよ。
応援してるよ。

ん、なんだい。
この問題がわからないだって?
いやぁ、バカな私に聞かれてもねぇ。
全くわからないよ。
習ったことないからね。
あぁ、でもその学問は興味あるね。
理解したら私にも教えてよ。

なんだって?
そんなことで悩んでるのかい?

社会人と学生の違い?
何だってまぁ、学生なんだからそんなことまで考えなくていいんだよ。
一応社会人の私にも、まだあまりわからないよ。
だから、社会人にもなったことない友に分かるはずないだろう。
まぁ、でもそれがテーマなのか。
難しいことを言うね。
まだ私も社会人1年目だからな。

まぁ、たった1年で学ぶことなんてたかが知れてるよ。
学生気分は抜けないからね。

でも、一つ言えることは責任の違いかね?

私の行動一つでもしかしたら会社が潰れるかもしれないんだ。
何千人の職場を奪うかもしれないからねぇ。

どうだい?
少しは役に立ったかい?

あぁ、もうこんな時間だね。
明日学校は?
そう、昼からなんだね。
私?
9時だからまだ遅いほうでよかったよ。
そうだね。
もう朝日が登って1時間か。
そろそろ寝るかね。

おやすみ。
お互いに頑張ろうや。



目を開けるのが億劫だ。
アラームが鳴る。
カーテンが引きっぱなしの室内には朝日が痛いほどに差し込む。

清々しい朝なのに何でこんなにも死にたくなるんだろうか。


しおりを挟む

処理中です...