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役割とは
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オリビア様の瞼が開いた瞬間、会場にいた人々の息が止まりました。
死したはずの令嬢が、再び立ち上がるなど、誰一人として想像していなかったのです。
「……ここは……?」
弱々しい声。けれど、それは確かにオリビア様のものでした。
「お嬢様……!」
思わず涙があふれました。私は彼女の手を握りしめ、その温もりを確かめます。
人々はざわめき、騎士たちは恐怖に顔を青ざめ、王太子ディアスと義妹フレアは言葉を失っています。
――今だ。
私は胸に残る熱に身を委ね、声を張り上げました。
「ご覧あれ! 神は正義を見捨てはしなかった!
オリビア様は悪役などではない!
民を愛し、この国を導く“聖女”であらせられる!」
その言葉に、観衆たちの瞳が一斉に輝き始めました。
まるで忘れていた記憶を呼び覚ますように。
「そうだ、オリビア様は慈悲深かった……」
「私を助けてくださったのも……オリビア様だった……」
「なぜ今まで気づかなかったのだ……」
群衆の心が、一気にひとつへと傾いていきます。
「ふ、ふざけるな!」
王太子ディアスが怒声を上げました。
「悪役は悪役だ! 神が与えた役割からは逃れられぬ! そうだろう、フレア!」
しかし、義妹フレアは震えていました。
必死に声を振り絞ろうとするも、言葉が出ない。
――そうです。語り部の力は、ただ新しい物語を語るだけではありません。
“誰が語るか”をも支配する。
彼女が紡ごうとした嘘は、もう人々に届かない。
「ディアス殿下……」
私は彼をまっすぐに見据えました。
「あなたこそが、真の“悪役”です。
己の欲を隠し、義妹と結託し、罪なき方を陥れた。
神が与えた役割に酔いしれ、己の行いを正義と偽った。」
ディアスは青ざめ、口をぱくぱくと開閉させます。
観衆の視線が、一斉に彼へと向けられました。
その目は、怒りと失望に満ちています。
「違う……違う! 私はヒーローだ! 選ばれし存在なのだ!」
必死に叫ぶ声は、もはや誰の心にも届きません。
むしろその姿は、醜悪な悪役そのものにしか見えませんでした。
「――物語は、ここで終わらない。」
私はそう呟きました。
「お嬢様の物語は、これから始まるのです。」
すると、オリビア様は静かに立ち上がりました。
血と白濁に塗れた粗末な衣は光に包まれ、白銀のように輝く純白のドレスへと変わっていきます。
刈り上げられた髪も再び戻り光を浴びて輝きました。
その姿はまさしく、聖女。
オリビア様は、会場にいるすべての人へ向けて微笑みました。
「私は罪を犯してなどおりません。
ただ、この国を愛し、皆様の幸せを願ってきただけです。
それでも“悪役”と呼ばれるのなら……この役割は、今日ここで返上いたします。」
そう告げた瞬間、会場を包む空気が震えました。
――神の声が、響いたのです。
《新たなる役割を授ける。
オリビアよ。汝は――【聖女】》
天から降り注ぐ光に包まれ、オリビア様の姿は誰もが見惚れるほど神々しいものとなりました。
「っ……!」
膝をつく人々。
歓喜に泣き崩れる民衆。
逆転は成されました。
お嬢様は悪役ではなく、真の聖女として蘇ったのです。
私はただ、その隣に立ち続けるだけでした。
無能ではない。
語り部として、この物語を最後まで見届けるために。
死したはずの令嬢が、再び立ち上がるなど、誰一人として想像していなかったのです。
「……ここは……?」
弱々しい声。けれど、それは確かにオリビア様のものでした。
「お嬢様……!」
思わず涙があふれました。私は彼女の手を握りしめ、その温もりを確かめます。
人々はざわめき、騎士たちは恐怖に顔を青ざめ、王太子ディアスと義妹フレアは言葉を失っています。
――今だ。
私は胸に残る熱に身を委ね、声を張り上げました。
「ご覧あれ! 神は正義を見捨てはしなかった!
オリビア様は悪役などではない!
民を愛し、この国を導く“聖女”であらせられる!」
その言葉に、観衆たちの瞳が一斉に輝き始めました。
まるで忘れていた記憶を呼び覚ますように。
「そうだ、オリビア様は慈悲深かった……」
「私を助けてくださったのも……オリビア様だった……」
「なぜ今まで気づかなかったのだ……」
群衆の心が、一気にひとつへと傾いていきます。
「ふ、ふざけるな!」
王太子ディアスが怒声を上げました。
「悪役は悪役だ! 神が与えた役割からは逃れられぬ! そうだろう、フレア!」
しかし、義妹フレアは震えていました。
必死に声を振り絞ろうとするも、言葉が出ない。
――そうです。語り部の力は、ただ新しい物語を語るだけではありません。
“誰が語るか”をも支配する。
彼女が紡ごうとした嘘は、もう人々に届かない。
「ディアス殿下……」
私は彼をまっすぐに見据えました。
「あなたこそが、真の“悪役”です。
己の欲を隠し、義妹と結託し、罪なき方を陥れた。
神が与えた役割に酔いしれ、己の行いを正義と偽った。」
ディアスは青ざめ、口をぱくぱくと開閉させます。
観衆の視線が、一斉に彼へと向けられました。
その目は、怒りと失望に満ちています。
「違う……違う! 私はヒーローだ! 選ばれし存在なのだ!」
必死に叫ぶ声は、もはや誰の心にも届きません。
むしろその姿は、醜悪な悪役そのものにしか見えませんでした。
「――物語は、ここで終わらない。」
私はそう呟きました。
「お嬢様の物語は、これから始まるのです。」
すると、オリビア様は静かに立ち上がりました。
血と白濁に塗れた粗末な衣は光に包まれ、白銀のように輝く純白のドレスへと変わっていきます。
刈り上げられた髪も再び戻り光を浴びて輝きました。
その姿はまさしく、聖女。
オリビア様は、会場にいるすべての人へ向けて微笑みました。
「私は罪を犯してなどおりません。
ただ、この国を愛し、皆様の幸せを願ってきただけです。
それでも“悪役”と呼ばれるのなら……この役割は、今日ここで返上いたします。」
そう告げた瞬間、会場を包む空気が震えました。
――神の声が、響いたのです。
《新たなる役割を授ける。
オリビアよ。汝は――【聖女】》
天から降り注ぐ光に包まれ、オリビア様の姿は誰もが見惚れるほど神々しいものとなりました。
「っ……!」
膝をつく人々。
歓喜に泣き崩れる民衆。
逆転は成されました。
お嬢様は悪役ではなく、真の聖女として蘇ったのです。
私はただ、その隣に立ち続けるだけでした。
無能ではない。
語り部として、この物語を最後まで見届けるために。
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