悪役に恋した無能

待井 月

文字の大きさ
5 / 15

未来は

しおりを挟む
聖女として認められたオリビア様は、王太子ディアスの婚約者という立場を失いながらも、国の人々の心を一つにまとめる存在となっていきました。

かつて「悪役」と呼ばれ、嘲笑と軽蔑にさらされていた令嬢は、いまや“国の希望”として迎えられていたのです。



最初にオリビア様が行ったのは、「ギフト(役割)」の仕組みを問い直すことでした。

「人は役割で生きるのではありません。
 人の心と行いこそが、その人の価値を決めるのです。」

その言葉に、多くの民が涙しました。
役割に縛られ、夢を諦めた者たち。
“外れ役”を与えられただけで不遇に生きてきた者たち。
彼らの心に、オリビア様の声は深く届いたのです。

やがて、オリビア様は新たな制度を布告しました。

――役割にかかわらず、希望すれば誰でも学び舎に通うことができる「学院制度」。
――農民や職人も、努力次第で爵位や地位を得られる「功績制度」。
――そして何より、「一人ひとりの声を聖女に届ける広場」での対話。

これらの改革は、人々にとって夢のようなものでした。

「聖女様……私も文字を学んでよろしいのですか……?」
「もちろんです。あなたの未来は、神ではなく、あなた自身のものです。」

オリビア様の笑顔は、民衆の心を溶かしていきました。



一方で、かつて権力を握っていた貴族たちは大いに反発しました。
「役割こそが秩序だ! それを否定するなど愚か!」
「平民に学問を与えるなど、身の程知らず!」

しかし、民衆はすでに聖女のもとに心を寄せています。
彼らは口々に叫びました。
「役割に囚われぬ国を! 聖女様の国を!」

こうして、オリビア様の理念は国の根幹を揺るがす大改革へと変わっていったのです。



私は、そのすべてを記録し続けました。
無能と呼ばれた私が、今や“語り部”として、国の歴史を紡ぐ者に。

そして何より、夜になると。

紅茶に砂糖を三つ入れ、ミルクをたっぷり注いだカップを前にして、オリビア様は言うのです。
「ねぇ、今日の物語を聞かせてちょうだい。」

私は語ります。
学院に入った子供たちの喜びを。
初めて文字を書けた農夫の笑顔を。
功績を重ね、爵位を得た元職人の涙を。

オリビア様は目を細め、いつも幼い頃のように微笑みながら聞いてくださいます。

――お嬢様は、誰よりも人を愛する、普通の女の子のまま。
けれど今は、国の未来を照らす聖女として。

そして私は、その隣に立ち続けるのです。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...