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アリハムがDランクのソロ依頼しか受けないことを知った受付係は、いつからか依頼ボードの右端に決まってアリハムが受けそうな依頼を貼るようになった。
常駐依頼はもちろんのこと、報酬は低いが地元密着型の仕事であったり、中にはアリハム指名のものまであった。
けれど他の冒険者達の目には届かない。まさにアリハム専用の場所と化していた。
こうして移籍後も以前と変わらずに仕事をこなしていったアリハムだったが、ある日、変わった依頼を見つけた。
『【至急冒険者求む】 ゴブリン討伐』
ゴブリンの討伐といえば常駐依頼の一つだ。
場所はその時々によって若干異なりはするものの、こうしてわざわざ赤字で示した依頼書を見るのは初めてだった。場所もギルドのある王都から少し離れており、低級依頼には非常に珍しいものといえる。
けれどアリハムは真っ先にそれを手に取った。
困っている人がいるのならば助けたい。
アリハムは報酬はおろか、仕事内容にもろくに目を通さずにその依頼書をカウンターに叩きつけるとすぐさまギルドを後にした。
そして依頼書に書かれていた現場に到着するや否や、依頼者への挨拶もせずに目についたゴブリン達をひたすらに狩っていった。
たった一人でゴブリンの大群を迎え撃ったのだ。
移籍してからすっかりゴブリン討伐担当となっていたアリハムはすっかりゴブリンマスターといえる。
彼らの戦い方や習性などはしっかりと頭にたたき込んである。もちろん引き際だってわきまえている。
だからこそ慢心でも過信でもなく、経験を持ったアリハムは群れを殲滅することが出来た。
途中、いつもよりも少し強いな? なんて思いもしたものの、無事に怪我一つなく依頼をこなすことが出来た。
ゴブリンの血に濡れたアリハムに、依頼者である村長は「ありがとう。ありがとう」と何度も頭を下げた。
それだけで全てが報われるような気がして、体中から力が抜けていくのを感じた。
そのせいか、討伐完了報告用のゴブリンの耳がやけに堅く感じて、刈り終えるのに手間取ってしまう。
村の人に差し入れてもらった黒パンと野菜のスープで少し休憩をしてもやはりその感覚が軽くなることはない。
さすがにこの数を相手するのは辛く、身体が悲鳴を上げているのだろう。
今回は無事にこなせたけれど、今度はそうはいかないだろう。
残りの耳を刈り取りながらアリハムは明日は筋肉痛かな~。奮発して公共風呂でも寄ろうかな~なんて呑気に考えていた。
だがその頃、ギルドは大騒ぎだった。
なにせアリハムが受けたゴブリン討伐はただのゴブリン討伐ではなかったのだ。
ゴブリン・ゴブリンアーチャー・ボブゴブリンの他、未発見の種類や他の種類の魔物が混じっている可能性のある群れの討伐。つまりは高ランクのパーティー用に依頼されたクエストだったのだ。
それを更新された常駐ゴブリン討伐クエストだと勘違いしたギルドの新人職員が、アリハム専用となっている場所に貼ってしまったのだ。
そのことに気づいたのはアリハムが出発してしばらくしてからのこと。
ギルドの奥で受注クエスト管理を行い、帳簿をつけていた職員が気づいたのだ。
高ランククエストをよりにもよって低級ソロ冒険者が受注してしまったのだ。ギルドは慌てて高ランク冒険者達にアリハム救出依頼を発注した。
もちろん超高額の値段がつけられて。
それにはすぐ有名な冒険者達が名乗りを上げていった。そして豪華な即席高ランクパーティーを形成し、ゴブリンの群れの被害にあっている村へと旅立った。
けれど到着した彼らを待っていたのは笑顔あふれる村人達。
「冒険者さんが退治してくれたんだ!」
無垢な笑顔を浮かべて走り回る少年の言葉に一同は首を傾げた。
そして狐につままれた気分で帰還した彼らは、お風呂を済ませてほっかほかになったおっさんが提出する達成報告に再び首を傾げることになる。
もしかしてそんなに強くなかったのではないか。普通のゴブリンだったのではないか、と。
Dランクの、それもおっさん冒険者が一人で狩って来たとなればその考えにいきつくのも無理はないだろう。
なんだ、なんだ、と騒いでいた冒険者達は各々自分の仕事へと戻っていった。
今回、形成したパーティーには提示されていた報酬とまでは行かずとも高額な報酬が支払われた。仕事は未達成であるものの、迷惑料のようなものだ。
行って帰っただけで金貨二十枚ももらえれば文句も出てくるはずがない。
一連の騒動に未だ首を傾げる者もいたが、深追いはせずにギルドを後にした。
そして当のアリハムといえば来客室へと引っ張られていた。
アリハムが討伐したのは通常のゴブリンなんかではない。それは彼の刈ってきたゴブリンの耳を見れば一目瞭然だった。
詳しく調べなければ分からないことも多いだろうが、袋の中に入っていたものの三つはボブゴブリンの耳だったのだ。
ボブゴブリンはゴブリンの群れの大きさに比例して数が増えることがあるが、通常の群れには一体いるかいないかである。それが三体もいたとなれば相当の大きさの群れだったことは間違いない。
そんな群れを討伐出来るのは最低でもAランクパーティー。
場合によっては『災害』として認定した上で、国に数人しかいないSランク以上の冒険者達に依頼をすることとなる。
それをアリハムはたった一人でこなしたのだ。
Sランク以上の実力があるのは間違いない。
そう睨んだギルドマスターは「今回の依頼に関するする書類を処理するために討伐者のデータが欲しい」と適当な理由をつけてアリハムの魔力やスキル、技術レベルに至るまで手元の器具で測定出来るありとあらゆる数値を測定してみた。
するとやはり睨んだ通り、測定出来る数値を大幅に超えていた。
この器具で測定出来るのはAランク冒険者相当の力のみなのだ。
「すごいぞ、アリハムくん! すぐにギルドランクを更新しよう!」
まさかこんな金の卵が眠っていたなんて!
子どものようにはしゃぐギルドマスターだったが、アリハムは困ったような顔で笑った。
「何かの間違いですよ。私は弱いですから」
そう言われてしまえば無理に昇格させることは出来ず、昇格手続きという名目でもなければもう一段階上の器具で正式な実力を測定することも出来ない。
無理はさせられないが、いつか測ってやる! そしてうちの看板冒険者に!
野心に燃えるギルドマスターだったが、アリハムはその後も今までと変わらずにDランクの依頼を受け続けた。
もちろん昇格試験を受けにやってくることもない。
ぐぬぬ……と恨めしそうに見つめるギルドマスターの視線など気づく訳もなく、アリハムは呑気に市場で安売りしていたリンゴを頬張っていた。
常駐依頼はもちろんのこと、報酬は低いが地元密着型の仕事であったり、中にはアリハム指名のものまであった。
けれど他の冒険者達の目には届かない。まさにアリハム専用の場所と化していた。
こうして移籍後も以前と変わらずに仕事をこなしていったアリハムだったが、ある日、変わった依頼を見つけた。
『【至急冒険者求む】 ゴブリン討伐』
ゴブリンの討伐といえば常駐依頼の一つだ。
場所はその時々によって若干異なりはするものの、こうしてわざわざ赤字で示した依頼書を見るのは初めてだった。場所もギルドのある王都から少し離れており、低級依頼には非常に珍しいものといえる。
けれどアリハムは真っ先にそれを手に取った。
困っている人がいるのならば助けたい。
アリハムは報酬はおろか、仕事内容にもろくに目を通さずにその依頼書をカウンターに叩きつけるとすぐさまギルドを後にした。
そして依頼書に書かれていた現場に到着するや否や、依頼者への挨拶もせずに目についたゴブリン達をひたすらに狩っていった。
たった一人でゴブリンの大群を迎え撃ったのだ。
移籍してからすっかりゴブリン討伐担当となっていたアリハムはすっかりゴブリンマスターといえる。
彼らの戦い方や習性などはしっかりと頭にたたき込んである。もちろん引き際だってわきまえている。
だからこそ慢心でも過信でもなく、経験を持ったアリハムは群れを殲滅することが出来た。
途中、いつもよりも少し強いな? なんて思いもしたものの、無事に怪我一つなく依頼をこなすことが出来た。
ゴブリンの血に濡れたアリハムに、依頼者である村長は「ありがとう。ありがとう」と何度も頭を下げた。
それだけで全てが報われるような気がして、体中から力が抜けていくのを感じた。
そのせいか、討伐完了報告用のゴブリンの耳がやけに堅く感じて、刈り終えるのに手間取ってしまう。
村の人に差し入れてもらった黒パンと野菜のスープで少し休憩をしてもやはりその感覚が軽くなることはない。
さすがにこの数を相手するのは辛く、身体が悲鳴を上げているのだろう。
今回は無事にこなせたけれど、今度はそうはいかないだろう。
残りの耳を刈り取りながらアリハムは明日は筋肉痛かな~。奮発して公共風呂でも寄ろうかな~なんて呑気に考えていた。
だがその頃、ギルドは大騒ぎだった。
なにせアリハムが受けたゴブリン討伐はただのゴブリン討伐ではなかったのだ。
ゴブリン・ゴブリンアーチャー・ボブゴブリンの他、未発見の種類や他の種類の魔物が混じっている可能性のある群れの討伐。つまりは高ランクのパーティー用に依頼されたクエストだったのだ。
それを更新された常駐ゴブリン討伐クエストだと勘違いしたギルドの新人職員が、アリハム専用となっている場所に貼ってしまったのだ。
そのことに気づいたのはアリハムが出発してしばらくしてからのこと。
ギルドの奥で受注クエスト管理を行い、帳簿をつけていた職員が気づいたのだ。
高ランククエストをよりにもよって低級ソロ冒険者が受注してしまったのだ。ギルドは慌てて高ランク冒険者達にアリハム救出依頼を発注した。
もちろん超高額の値段がつけられて。
それにはすぐ有名な冒険者達が名乗りを上げていった。そして豪華な即席高ランクパーティーを形成し、ゴブリンの群れの被害にあっている村へと旅立った。
けれど到着した彼らを待っていたのは笑顔あふれる村人達。
「冒険者さんが退治してくれたんだ!」
無垢な笑顔を浮かべて走り回る少年の言葉に一同は首を傾げた。
そして狐につままれた気分で帰還した彼らは、お風呂を済ませてほっかほかになったおっさんが提出する達成報告に再び首を傾げることになる。
もしかしてそんなに強くなかったのではないか。普通のゴブリンだったのではないか、と。
Dランクの、それもおっさん冒険者が一人で狩って来たとなればその考えにいきつくのも無理はないだろう。
なんだ、なんだ、と騒いでいた冒険者達は各々自分の仕事へと戻っていった。
今回、形成したパーティーには提示されていた報酬とまでは行かずとも高額な報酬が支払われた。仕事は未達成であるものの、迷惑料のようなものだ。
行って帰っただけで金貨二十枚ももらえれば文句も出てくるはずがない。
一連の騒動に未だ首を傾げる者もいたが、深追いはせずにギルドを後にした。
そして当のアリハムといえば来客室へと引っ張られていた。
アリハムが討伐したのは通常のゴブリンなんかではない。それは彼の刈ってきたゴブリンの耳を見れば一目瞭然だった。
詳しく調べなければ分からないことも多いだろうが、袋の中に入っていたものの三つはボブゴブリンの耳だったのだ。
ボブゴブリンはゴブリンの群れの大きさに比例して数が増えることがあるが、通常の群れには一体いるかいないかである。それが三体もいたとなれば相当の大きさの群れだったことは間違いない。
そんな群れを討伐出来るのは最低でもAランクパーティー。
場合によっては『災害』として認定した上で、国に数人しかいないSランク以上の冒険者達に依頼をすることとなる。
それをアリハムはたった一人でこなしたのだ。
Sランク以上の実力があるのは間違いない。
そう睨んだギルドマスターは「今回の依頼に関するする書類を処理するために討伐者のデータが欲しい」と適当な理由をつけてアリハムの魔力やスキル、技術レベルに至るまで手元の器具で測定出来るありとあらゆる数値を測定してみた。
するとやはり睨んだ通り、測定出来る数値を大幅に超えていた。
この器具で測定出来るのはAランク冒険者相当の力のみなのだ。
「すごいぞ、アリハムくん! すぐにギルドランクを更新しよう!」
まさかこんな金の卵が眠っていたなんて!
子どものようにはしゃぐギルドマスターだったが、アリハムは困ったような顔で笑った。
「何かの間違いですよ。私は弱いですから」
そう言われてしまえば無理に昇格させることは出来ず、昇格手続きという名目でもなければもう一段階上の器具で正式な実力を測定することも出来ない。
無理はさせられないが、いつか測ってやる! そしてうちの看板冒険者に!
野心に燃えるギルドマスターだったが、アリハムはその後も今までと変わらずにDランクの依頼を受け続けた。
もちろん昇格試験を受けにやってくることもない。
ぐぬぬ……と恨めしそうに見つめるギルドマスターの視線など気づく訳もなく、アリハムは呑気に市場で安売りしていたリンゴを頬張っていた。
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