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「ああ、気持ちよかった」
一晩中楽しんだアリハムはようやく落ち着いた。
媚薬を口にしてから一ヶ月以上経って、パタリと正気に戻った。
元より性欲が薄いからか、効果が切れる時も突然だった。
それにしても効果が切れるまでかなりの時間がかかったものだ。けれど以前よりも身体が軽いような気がする。
上機嫌でギルドへと向かう。
今まであまり稼げなかった分、いつもよりも少しだけ格上の依頼を受ける。
なぜか一緒に仕事をしようと声をかけられることもあったが、アリハムよりもずっと上のランクの冒険者ばかり。過去にアリハムの誘いを断った人達だ。
自分には無理だと断り、一人でせっせと依頼をこなしていく。
そんな平穏な日々が続いたある日のこと。
いつものようにギルドで依頼ボードを見ていると、何者かが入り口付近で声を上げた。
「伝令だ。スタンピードが起きた。ここにいるCランク以上の冒険者は、全員門の外に急げ! これは特殊クエストである。拒否権はない。急げ!」
国内トップレベルのダンジョン数カ所で一斉にスタンピードが起きた、と。
王都中のギルドに特殊クエストの指令が届いているらしい。
『子猫の家』の出身者にはCランク以上の冒険者がいる。彼らも駆り出されていると思うと心配だ。
けれどアリハムはDランク冒険者。行っても足手まといになるだけだ。弱い自分では力になれないことが歯痒い。
そんなことを考えていたからだろうか。
伝令役の男が大股でアリハムの元へとやってきた。
「アリハム=ベドルだな」
「はい」
「特例で君にも招集命令が出てる。門の前へ行ってくれ」
「分かりました」
なぜ指名がかかったのかは分からぬまま、他の冒険者と共に門へと走った。
アリハムが到着した時にはもう魔獣との戦いが始まっていた。
そこにはたくさんの冒険者がおり、中に例の三人もいた。アリハムが心配していたように、『子猫の家』の出身者もいる。彼らは前線で武器を振るっている。
アリハムも力になれたらいいのだが、邪魔になるだけだ。
だが前で働くだけが戦いではない。後方支援もまた仕事のうち。
「アリハムさん! 僕たちはどうしたら」
「俺たちはこっちでサポートに回るんだ」
「はい」
遅れてやってきた冒険者に現状報告をしたり、避難が完了していない住人を誘導したりしていく。
そんなことをしているうちにどんどん下のランク冒険者達がやられていく。
アリハム達は回復するための安全地帯を作り、自分達の持っている回復アイテムを彼らに渡す。
次第に魔獣は減っていくが、戦える冒険者も減っていく
。
Cランク冒険者はほとんど残っていない。けれど不思議なことに、アリハムが所属していたギルドの出身者の多くが残っている。
彼らは駆け出しの頃にアリハムから教えられた『初心者の戦い方』を今でも守っているのである。
だがそれでも限界がある。
次々に冒険者達が下がっていく。圧倒的に戦力が足りていない。
「行ってくる」
「僕たちも行きます。アリハムさんと一緒に戦わせてください」
「無理をするんじゃないぞ」
彼らは強いと噂にはなっているが、まだまだ冒険者になってから日が浅い。
何かあったら自分が守らなければ。アリハムが剣を握る手には自然と力が入る。四人で一斉に地面を蹴り、魔獣の前へと繰り出した。
そして一体、一体、確実に魔物を葬っていく。
派手さなどない。地味で汗臭い戦い方だ。けれどハイランクの冒険者達と共に戦い続け、騒ぎは収束していった。
「はぁ終わった」
「お前達、怪我はないか?」
「はい。アリハムさんが守ってくれたから」
「良かった……」
彼らはそう謙遜するが、三人は強かった。
それに自分が怪我しなかったのは運が良かったからだ。
他の子達の様子を見て回り、全員大きな怪我をしていないことを確認してからほっと胸をなで下ろす。
これで全てが終わったーーはずだった。
「アリハムさん、俺たちにも指導してください」
「あの堅実な戦い方、かっこよかったです」
「魔法はどこで習ったのですか」
「あの薬はどこで!」
翌日から明らかに周りの冒険者達の対応が変わった。少し前の変化とも違う。子猫の家の出身者と同じ目をするようになったのだ。
それに「アリハムさんはもっと高いランクのはずです」だとランクを上げるべきだと言い出す。ギルドマスターからも昇級するように言われているのだが、アリハムは頑なに首を縦に振ろうとしない。
「あれは運が良かっただけだ」
自分には実力なんてない。ここまで冒険者を続けられたのは堅実にやってきたからだ。
そう思い込んでいるアリハムは調子に乗ったりなんてしない。
今まで通り、堅実に戦い続ける。
卒業したギルドから来た「特別顧問にならないか」という話だけ受けるかどうか悩んでいる。だがそれも皆が教えが役立ったと言ってくれるからであって、自分が強いなんて思ってはいないのだ。
またスタンピードでの活躍を聞いたからか、度々ゲルハルトがやってきては飲みに誘ってくれる。
「良ければその後も」
耳元でささやかれたのも一度や二度のことではない。
ついあの日のことを思い出し、頷いてしまいそうになる。
けれどアリハムはもう三十過ぎ。散々発散したため、性欲も我慢出来る。
若者に遊ばれているのではないかと恥ずかしくなり、毎回すんでの所で断るのだ。
一人になった部屋で尻を弄りながら、もったいないことをしたなぁと思うのももう慣れた。
きっと早いうちにアリハムのことなど飽きて忘れてしまうことだろう。それが少し寂しくもある。
そんなアリハムだが、良いこともある。
スタンピード以降、どこの店に行ってもオマケをつけてもらえるようになったことだ。
幼い頃はともかく、もうすっかりとおっさんである。こんな年で色々ともらうことになるとは思わなかった。
けれど助かったよ、と言ってもらえると嬉しいものである。それに美味しいものがもらえるのも嬉しいものだ。
「はいよ。石窯パンのバター載せ。大きいパン選んどいたから」
「ありがとうございます」
今日も今日とてアリハムは町の人の優しさに触れ、最近のお気に入りである石窯パンを食べる。
店先のベンチで大口を開けながら食べる彼の姿が店の宣伝になっていることなど気づかぬまま。
アリハムは幸せを噛みしめるのだった。
一晩中楽しんだアリハムはようやく落ち着いた。
媚薬を口にしてから一ヶ月以上経って、パタリと正気に戻った。
元より性欲が薄いからか、効果が切れる時も突然だった。
それにしても効果が切れるまでかなりの時間がかかったものだ。けれど以前よりも身体が軽いような気がする。
上機嫌でギルドへと向かう。
今まであまり稼げなかった分、いつもよりも少しだけ格上の依頼を受ける。
なぜか一緒に仕事をしようと声をかけられることもあったが、アリハムよりもずっと上のランクの冒険者ばかり。過去にアリハムの誘いを断った人達だ。
自分には無理だと断り、一人でせっせと依頼をこなしていく。
そんな平穏な日々が続いたある日のこと。
いつものようにギルドで依頼ボードを見ていると、何者かが入り口付近で声を上げた。
「伝令だ。スタンピードが起きた。ここにいるCランク以上の冒険者は、全員門の外に急げ! これは特殊クエストである。拒否権はない。急げ!」
国内トップレベルのダンジョン数カ所で一斉にスタンピードが起きた、と。
王都中のギルドに特殊クエストの指令が届いているらしい。
『子猫の家』の出身者にはCランク以上の冒険者がいる。彼らも駆り出されていると思うと心配だ。
けれどアリハムはDランク冒険者。行っても足手まといになるだけだ。弱い自分では力になれないことが歯痒い。
そんなことを考えていたからだろうか。
伝令役の男が大股でアリハムの元へとやってきた。
「アリハム=ベドルだな」
「はい」
「特例で君にも招集命令が出てる。門の前へ行ってくれ」
「分かりました」
なぜ指名がかかったのかは分からぬまま、他の冒険者と共に門へと走った。
アリハムが到着した時にはもう魔獣との戦いが始まっていた。
そこにはたくさんの冒険者がおり、中に例の三人もいた。アリハムが心配していたように、『子猫の家』の出身者もいる。彼らは前線で武器を振るっている。
アリハムも力になれたらいいのだが、邪魔になるだけだ。
だが前で働くだけが戦いではない。後方支援もまた仕事のうち。
「アリハムさん! 僕たちはどうしたら」
「俺たちはこっちでサポートに回るんだ」
「はい」
遅れてやってきた冒険者に現状報告をしたり、避難が完了していない住人を誘導したりしていく。
そんなことをしているうちにどんどん下のランク冒険者達がやられていく。
アリハム達は回復するための安全地帯を作り、自分達の持っている回復アイテムを彼らに渡す。
次第に魔獣は減っていくが、戦える冒険者も減っていく
。
Cランク冒険者はほとんど残っていない。けれど不思議なことに、アリハムが所属していたギルドの出身者の多くが残っている。
彼らは駆け出しの頃にアリハムから教えられた『初心者の戦い方』を今でも守っているのである。
だがそれでも限界がある。
次々に冒険者達が下がっていく。圧倒的に戦力が足りていない。
「行ってくる」
「僕たちも行きます。アリハムさんと一緒に戦わせてください」
「無理をするんじゃないぞ」
彼らは強いと噂にはなっているが、まだまだ冒険者になってから日が浅い。
何かあったら自分が守らなければ。アリハムが剣を握る手には自然と力が入る。四人で一斉に地面を蹴り、魔獣の前へと繰り出した。
そして一体、一体、確実に魔物を葬っていく。
派手さなどない。地味で汗臭い戦い方だ。けれどハイランクの冒険者達と共に戦い続け、騒ぎは収束していった。
「はぁ終わった」
「お前達、怪我はないか?」
「はい。アリハムさんが守ってくれたから」
「良かった……」
彼らはそう謙遜するが、三人は強かった。
それに自分が怪我しなかったのは運が良かったからだ。
他の子達の様子を見て回り、全員大きな怪我をしていないことを確認してからほっと胸をなで下ろす。
これで全てが終わったーーはずだった。
「アリハムさん、俺たちにも指導してください」
「あの堅実な戦い方、かっこよかったです」
「魔法はどこで習ったのですか」
「あの薬はどこで!」
翌日から明らかに周りの冒険者達の対応が変わった。少し前の変化とも違う。子猫の家の出身者と同じ目をするようになったのだ。
それに「アリハムさんはもっと高いランクのはずです」だとランクを上げるべきだと言い出す。ギルドマスターからも昇級するように言われているのだが、アリハムは頑なに首を縦に振ろうとしない。
「あれは運が良かっただけだ」
自分には実力なんてない。ここまで冒険者を続けられたのは堅実にやってきたからだ。
そう思い込んでいるアリハムは調子に乗ったりなんてしない。
今まで通り、堅実に戦い続ける。
卒業したギルドから来た「特別顧問にならないか」という話だけ受けるかどうか悩んでいる。だがそれも皆が教えが役立ったと言ってくれるからであって、自分が強いなんて思ってはいないのだ。
またスタンピードでの活躍を聞いたからか、度々ゲルハルトがやってきては飲みに誘ってくれる。
「良ければその後も」
耳元でささやかれたのも一度や二度のことではない。
ついあの日のことを思い出し、頷いてしまいそうになる。
けれどアリハムはもう三十過ぎ。散々発散したため、性欲も我慢出来る。
若者に遊ばれているのではないかと恥ずかしくなり、毎回すんでの所で断るのだ。
一人になった部屋で尻を弄りながら、もったいないことをしたなぁと思うのももう慣れた。
きっと早いうちにアリハムのことなど飽きて忘れてしまうことだろう。それが少し寂しくもある。
そんなアリハムだが、良いこともある。
スタンピード以降、どこの店に行ってもオマケをつけてもらえるようになったことだ。
幼い頃はともかく、もうすっかりとおっさんである。こんな年で色々ともらうことになるとは思わなかった。
けれど助かったよ、と言ってもらえると嬉しいものである。それに美味しいものがもらえるのも嬉しいものだ。
「はいよ。石窯パンのバター載せ。大きいパン選んどいたから」
「ありがとうございます」
今日も今日とてアリハムは町の人の優しさに触れ、最近のお気に入りである石窯パンを食べる。
店先のベンチで大口を開けながら食べる彼の姿が店の宣伝になっていることなど気づかぬまま。
アリハムは幸せを噛みしめるのだった。
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