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「今度の連休予定空けておいて」
返答も聞きもせず、幼馴染は用件だけ告げて去っていった。それもキッチンの窓から叫ぶという荒技である。
ダリュカは本から視線をあげ、またキルシュカの思いつきかと溜息を吐く。
連休は積み本を消化する予定だったのに……。
キルシュカは昔からいつもそうだ。ダリュカの予定を無視して勝手に予定を組む。誘いを断ったとしても当日になれば必ずダリュカの元へと訪れる。どこに隠れていても見つけ出してしまうのだ。
「どうせ暇だろ?」
どんなに怒ったところでこの一言で一蹴してしまう。本嫌いの彼からすれば読書なんていつでも出来るものなのだろう。これで本当にいつでも構わず突撃してくるのであれば、とっくに縁なんて切っているところだが、キルシュカはダリュカの地雷だけは避けている。
お気に入りの作家の新作発売日とその翌日だけは突撃しないだとか、祖父母の命日には予定を入れないだとか、本当に些細なことではあるが。だがそれらは彼がダリュカの本当に大事な物を侵すことはないと確信できる要因でもある。
本を置いて立ち上がり、カレンダーに『キルシュカ』と赤字で書き込んでいく。連休が潰れるとなると泊まりがけになるに違いない。
せめて行き先くらい教えてくれればいいものを……。
いつもだったら家に入ってくるところを、窓から叫んで済ませたあたり、忙しいのだろうか。
キルシュカのバイト先の繁忙期はまだまだ先のはずだが、大口の依頼が入ったか、今から休み調整でもかけているのか。どちらにせよ何かあったらキルシュカが騒ぎそうなものだが、その兆候はなかった。
「着替えの用意だけしておくか」
まぁいい。今無理に答えを導き出さずとも、連休に入れば分かることだ。ぽりぽりと頭を掻きながら、ダリュカは二日分の着替えを鞄に詰め込んだ。
ーーだが、ダリュカは連休に入ってから自分の過ちに気付いた。
目的地だと連れて来られたのは王都にデンと構えた城で、広場にはウサギ獣人ばかりが集められている。それもアルファの男ばかり。彼らは皆、やる気に満ち溢れており、文官と思わしき男達が配る腕輪をはめていく。
数字が振られたそれにはセンサーが付いており、この二日間で何かしらの役割を担うことになるだろうことだけはなんとなくわかる。だがそもそも『獣人達が何をするのか』をダリュカは知らない。
知らない、が嫌な予感だけは皮膚で感じる。
「これはなんの集まりだ」
正直聞きたくない。だが聞かずに逃げ出して後で責任を押し付けられても困る。顔を歪めながら腕輪をはめるキルシュカに問いかけると、彼は平然と狂ったワードを口にした。
「王子孕ませ計画」
「帰る」
城の内部に入れている時点で、国公認なのだろう。計画について深く突っ込むことはしない。さっさと帰って読書をしようと踵を返すが、キルシュカと結託しているらしい兵士達に道を塞がれる。
「ダメだよ。もうダリュカの分の書類も提出しちゃったんだから」
「……なぜ連れてきた」
「俺も初めは誘う気なかったんだけど、どうしても数足りないからって宰相さんに泣きつかれちゃって。『信頼できるアルファのウサギ獣人』って枠から外れた奴を連れてくるわけにもいかないし、だったらヤル気のないダリュカ連れてきた方がマシかなって」
「ヤル気がないのはいいのか」
「宰相さんにも確認取ったけど一人くらいそういう奴がいたほうが王子の警戒も解けていいだろうってさ」
いてもいなくてもいいけど、いた方がマシくらいのポジションか。
ダリュカの興味の対象はひどく偏っていて、どんなに高価なツボやら絵画やらを見たところで強奪しようなんて考えは沸かない。
その上、年中発情期のウサギ獣人としては致命的なほど性欲が薄いため、城にいる女やオメガに手を出すこともない。代わりに王子と遭遇したとしても孕ませることもないが、余計な面倒ごとを起こす心配がないという面では信頼できると言えるだろう。
なんだかんだで付き合いも長いというのも理由の一つかもしれない。
「あと、さすがに人数合わせってだけで呼ぶのは悪いから、王宮図書館入館許可も取っておいた」
「本当か⁉︎」
「ちなみに王子は読書家だそうだ」
「その情報はどうでもいいが、王宮図書館に入れる日が来るとは! 一度行ってみたかったんだ」
「うん、知ってる。だからさ、帰らないでくれる?」
「ああ! この腕輪をはめれば中に入れるのか⁉︎」
「そうそう」
聞けばこの腕輪の役目は主に三つ。
城内で王子以外の相手を襲った場合や窃盗などの犯罪行為を犯した際にすぐに捕まえるため。また食堂や風呂への出入りなど、使用人との共有スペースの出入りを監視する役目を担っている。
これが一番大切、と前置きされた後に伝えられた最後の役目は、王子への種付けが成功した際の報告である。腕輪についている小さなボタンに先端の細いものを突きさせばベルが鳴る仕組みになっているのだという。
申告がなされた時点で宮廷医師のチェックが入り、中に出されたと判定された時点で報奨金が与えられるそうだ。
特に最後はダリュカに関係のないことだが、キルシュカは何度も「間違って押さないように」「寝るときは近くに物がないか確認するんだよ」と念押ししてくる。寝相が悪かったのはもう昔の話だというのに「大きな音が出るから気をつけて」と子どもにでも言い聞かせているようだ。
寝相への信頼は皆無だが、種付けを期待されるよりはずっとマシだ。周りでひくひくと耳を動かすウサギ獣人達は無視して、分かったと頷いた。
返答も聞きもせず、幼馴染は用件だけ告げて去っていった。それもキッチンの窓から叫ぶという荒技である。
ダリュカは本から視線をあげ、またキルシュカの思いつきかと溜息を吐く。
連休は積み本を消化する予定だったのに……。
キルシュカは昔からいつもそうだ。ダリュカの予定を無視して勝手に予定を組む。誘いを断ったとしても当日になれば必ずダリュカの元へと訪れる。どこに隠れていても見つけ出してしまうのだ。
「どうせ暇だろ?」
どんなに怒ったところでこの一言で一蹴してしまう。本嫌いの彼からすれば読書なんていつでも出来るものなのだろう。これで本当にいつでも構わず突撃してくるのであれば、とっくに縁なんて切っているところだが、キルシュカはダリュカの地雷だけは避けている。
お気に入りの作家の新作発売日とその翌日だけは突撃しないだとか、祖父母の命日には予定を入れないだとか、本当に些細なことではあるが。だがそれらは彼がダリュカの本当に大事な物を侵すことはないと確信できる要因でもある。
本を置いて立ち上がり、カレンダーに『キルシュカ』と赤字で書き込んでいく。連休が潰れるとなると泊まりがけになるに違いない。
せめて行き先くらい教えてくれればいいものを……。
いつもだったら家に入ってくるところを、窓から叫んで済ませたあたり、忙しいのだろうか。
キルシュカのバイト先の繁忙期はまだまだ先のはずだが、大口の依頼が入ったか、今から休み調整でもかけているのか。どちらにせよ何かあったらキルシュカが騒ぎそうなものだが、その兆候はなかった。
「着替えの用意だけしておくか」
まぁいい。今無理に答えを導き出さずとも、連休に入れば分かることだ。ぽりぽりと頭を掻きながら、ダリュカは二日分の着替えを鞄に詰め込んだ。
ーーだが、ダリュカは連休に入ってから自分の過ちに気付いた。
目的地だと連れて来られたのは王都にデンと構えた城で、広場にはウサギ獣人ばかりが集められている。それもアルファの男ばかり。彼らは皆、やる気に満ち溢れており、文官と思わしき男達が配る腕輪をはめていく。
数字が振られたそれにはセンサーが付いており、この二日間で何かしらの役割を担うことになるだろうことだけはなんとなくわかる。だがそもそも『獣人達が何をするのか』をダリュカは知らない。
知らない、が嫌な予感だけは皮膚で感じる。
「これはなんの集まりだ」
正直聞きたくない。だが聞かずに逃げ出して後で責任を押し付けられても困る。顔を歪めながら腕輪をはめるキルシュカに問いかけると、彼は平然と狂ったワードを口にした。
「王子孕ませ計画」
「帰る」
城の内部に入れている時点で、国公認なのだろう。計画について深く突っ込むことはしない。さっさと帰って読書をしようと踵を返すが、キルシュカと結託しているらしい兵士達に道を塞がれる。
「ダメだよ。もうダリュカの分の書類も提出しちゃったんだから」
「……なぜ連れてきた」
「俺も初めは誘う気なかったんだけど、どうしても数足りないからって宰相さんに泣きつかれちゃって。『信頼できるアルファのウサギ獣人』って枠から外れた奴を連れてくるわけにもいかないし、だったらヤル気のないダリュカ連れてきた方がマシかなって」
「ヤル気がないのはいいのか」
「宰相さんにも確認取ったけど一人くらいそういう奴がいたほうが王子の警戒も解けていいだろうってさ」
いてもいなくてもいいけど、いた方がマシくらいのポジションか。
ダリュカの興味の対象はひどく偏っていて、どんなに高価なツボやら絵画やらを見たところで強奪しようなんて考えは沸かない。
その上、年中発情期のウサギ獣人としては致命的なほど性欲が薄いため、城にいる女やオメガに手を出すこともない。代わりに王子と遭遇したとしても孕ませることもないが、余計な面倒ごとを起こす心配がないという面では信頼できると言えるだろう。
なんだかんだで付き合いも長いというのも理由の一つかもしれない。
「あと、さすがに人数合わせってだけで呼ぶのは悪いから、王宮図書館入館許可も取っておいた」
「本当か⁉︎」
「ちなみに王子は読書家だそうだ」
「その情報はどうでもいいが、王宮図書館に入れる日が来るとは! 一度行ってみたかったんだ」
「うん、知ってる。だからさ、帰らないでくれる?」
「ああ! この腕輪をはめれば中に入れるのか⁉︎」
「そうそう」
聞けばこの腕輪の役目は主に三つ。
城内で王子以外の相手を襲った場合や窃盗などの犯罪行為を犯した際にすぐに捕まえるため。また食堂や風呂への出入りなど、使用人との共有スペースの出入りを監視する役目を担っている。
これが一番大切、と前置きされた後に伝えられた最後の役目は、王子への種付けが成功した際の報告である。腕輪についている小さなボタンに先端の細いものを突きさせばベルが鳴る仕組みになっているのだという。
申告がなされた時点で宮廷医師のチェックが入り、中に出されたと判定された時点で報奨金が与えられるそうだ。
特に最後はダリュカに関係のないことだが、キルシュカは何度も「間違って押さないように」「寝るときは近くに物がないか確認するんだよ」と念押ししてくる。寝相が悪かったのはもう昔の話だというのに「大きな音が出るから気をつけて」と子どもにでも言い聞かせているようだ。
寝相への信頼は皆無だが、種付けを期待されるよりはずっとマシだ。周りでひくひくと耳を動かすウサギ獣人達は無視して、分かったと頷いた。
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